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#2819 ある先生が提示した課題読書リスト  Sep. 28, 2014 [44. 本を読む]

 四十数年前にある中学校の教師が毎月生徒に読書感想文の課題図書を指定した。まず、そのリストをじっくり眺めてもらいたい。私のコメントは後回しだ。

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 .中学の三年間は毎月毎月、橋本先生が決めた課題図書があってその感想文を提出しなければならなかった。
1年生;坊っちゃん、イワンの馬鹿、山椒大夫、羅生門、王子と乞食、小僧の神様、荒野の叫び声、にんじん、日本の昔話、風の又三郎、愛の妖精
2年生;思出の記、あしながおじさん、恩讐の彼方に、啄木歌集、次郎物語、デミアン、福翁自伝、水と原生林のはざまで、亜Q世伝
3年生;竹取物語、フランクリン自伝、伊豆の踊子、トニオ・クレーゲル、徒然草、シャーロック・ホームズの冒険、草枕、ジャン・クリストフ、古事記、O・ヘンリー短篇集3、雨月物語 by黒岩祐治
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 これはある人のFBに転載されていたものだが、オリジナルはこの本にある。

奇跡の教室 エチ先生と『銀の匙』の子どもたち

奇跡の教室 エチ先生と『銀の匙』の子どもたち

  • 作者: 伊藤 氏貴
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2010/11/29
  • メディア: 単行本


 「by黒岩」とあるが、神奈川県知事である。
 灘中学では読書感想文にこれらの課題図書が指定されたというのだ。簡単に読めるもの、難易度のとても高いものが織り交ぜられている。
  なんとなく宮脇昭翁の森の生態学をイメージした。さまざまな樹種の種を撒くだけ、どういう森になるかはその土壌や気候風土が決めること。先生の役割は、さまざまなレベルやジャンルの本のリストを生徒たちに提示すること。それを手がかりにして好奇心の赴くままに濫読を開始、そして三十年をかけて豊かな森となる。生徒に本のリストを毎月追加していくのが楽しかっただろうな、きっとこの先生には三十年後のさまざまな森が見えていたのだろう。
 課題図書を示した先生はこれらの本をすべて読んでいるのだろうから、国語教師。もう一つすごいのは、これを読んで読書感想文を書いてくる生徒たち。

 団塊世代の私たちには明治期の作品群は「古典」ではない、特別な努力なしにふつうに読める範囲だが、現在の中高生にとってはもはや『坊ちゃん』『福翁自伝』『雨月物語』『山椒大夫』は古典に属するのだろう。
 四十数年間の歳月を割り引いても、このリストの水準は高い。『古事記』『竹取物語』『徒然草』を原文で読む中学生はすでに想像しにくい。そうした点からは、このリストは四十数年経ち、高校生向きのものになったと判断してよいだろう。

 でも、小・中学生に読めるものが半分はあるから、根室管内の公立中学校や高校の先生たちは、何かの折を見つけて自分の生徒たちにこのリストを伝えてほしい。

 この国語教師は超有名進学校である灘中の名物国語教師の橋本先生。文庫本『銀の匙』だけを3年間授業で読み通すような型破りの教育を実際にやった方だ。この先生は毎月本を指定して読ませただけではない、作文を徹底的に書かせたという。もちろん作文は宿題として出された。当時は1学年180名だったようだが、その作文を全部読み添削したという。人並みはずれて仕事が速かったのだろう、そうでなければテーマを決めて生徒に頻繁に作文の宿題を課せるはずがない。書く技術は書くことによってしか磨くことはできないのである。読むだけではダメだ、本を読んで片っ端から要約とコメントをつけたらいい。書くこともひたすら書くという修行をすることでしか上達しないのである。

 生徒と教師は出遭いが大切。釧路や根室管内の中高生の諸君も、時空を超えてこの名物国語教師とつながってもらいたい。
(高校1年の終わりごろから読む本の難易度を上げていくつかの分野の専門書群に興味が移り、時間が惜しくて30代中ごろまで文学作品群はほとんど読まなかったわたしでも、数えてみるとこの中の19作品を読んでいる。)

<余談>
 『福翁自伝』をわたしは昨年読んだ。Eさんが『漫言翁福澤諭吉』を書いて贈ってくれたからだ。最近その続編『続漫言翁福澤諭吉』がでた。Eさんは若い頃哲学を専攻していたので、そういう香りが切り口に漂い、通常の解説本とは趣が異なる。
 三冊全部を読む高校生がいるとしたら只者じゃない、将来が楽しみだ。
 一番Eさんらしい本はわたしは『100%の真善美 ソクラテスの裁判をめぐって』だろうと思う。哲学にすこし興味がある中高生にお薦めだ。ソクラテスの弁論術のすごさがわかる。こんなやつがいま現れたら、わたしはブログを書くのをやめるだろう。世論はソクラテスに死刑を要求するに違いない。

 古事記については原文が無理と判断したら、竹田教授の現代語訳を読めばいい。『竹取物語』や『徒然草』は高校の教科書に載っているから、後者は岩波文庫版で読むといい。古典文学の入門書としては手ごろだ。それ以上前の時代になるほど難しくなると考えていい。

*#2816 余談『続漫言翁』と無策 根室市の人口減対策 Sep. 24, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-09-23

*#2006 Eさんの新刊書『漫言翁 福沢諭吉 時事新報コラムに見る明治』 July 10, 2012
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-07-10

 #2044 『漫言翁 福沢諭吉 時事新報コラムに見る明治』 (2)  Aug. 8, 2012 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-08-08

 #2254 『漫言翁 福沢諭吉・・・』 (3) Apr. 2, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-04-02


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