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#2780 家具職人という選択肢:物づくりが大好きな生徒 Aug. 18, 2014 [60. 進路(進学・就職)]

 先週のことだ、高校1年生に進路を聞いてみたが要領を得ない。まだどんな職業に就くのか実感がないのだろう。偏差値50以上の大学は意味があるが、45以下だと就職が厳しいく、40前後は大学としての値打ちがないと伝えた。
 道内の専門学校へ進学しても、大半が中小企業の非正規雇用だ。正規雇用の職は大卒を含めても三人に二人しかない。

 わたしは小学生の頃に大工さんになりたかった、物づくりは楽しい、それでどうだと聞くと、
「物づくりが大好きだから、物を作る仕事なら興味があります」
 そういうので、本棚においてあった

『手づくり木工事典 木工の基本を学ぶ』 (たくみ塾・主婦の友社)

という本を見せた。
さまざまな用途の鋸、鉋(鉋)、鑿(のみ)が並んでいる。道具は美しい。
「家具職人はどうだ?」
「へ~え、いろんな道具があるんですね」
職人は道具は自分もちである。
「すてきだろう?家を造る大工、お寺や神社を造る大工、建具を造る建具職人、船を造る船大工、家具を作る家具職人など作るものによって道具が違う、修行は厳しく5人に一人ぐらいしか一人前の職人にはなれない」

 そう説明してから、徒弟制度だから修業は厳しいぞ、言った通りにやらないと手が飛んでくることもある。それでもやれるか、そうきいてみた。
「避けるから大丈夫(笑)」
この生徒は授業中にふざけて、それがすぎると頭をゴツンと叩かれるのだが、すばやく避ける。すばしっこいのである。
「ばかもの、殴られるのを避けるようなやつはまともな職人にはなれっこない、歯を食いしばって殴られて痛い思いをして技を覚えていくんだ」
ふざけたり、指示通りにやらなかったり、何度かできなかったりするとビンタがとぶくらいのことは腕のよい職人の弟子になるとありがちなことなのである。
「頭の悪い奴は大学へ行って勉強するしかない、職人は無理だ。職人は見て覚えなければならないから、頭を使わないと仕事が覚えられない」
 成績が平均よりも下だったら職人の道は勧めない、根性のない者にも勧めない、辛い修業を耐え抜けず半端職人になるだけだろう。だから、しっかり努力できそうな者にしか職人の道は勧めない。

 首都圏の300ベッド弱の療養型病院で常務理事として2年ほど建て替えの仕事をしたときに、営繕を担当してくれている元大工の棟梁に、「寒いのになぜ軍手しないのですか」と訊いたことがある。そうしたら、
「修業が始まってしばらくして軍手をしたら親方に言われた、"仕事と手とどちらが大事だ?"それから軍手をしたことがない」
たとえば鋸を引くときに感触が違うのだそうだ。軍手をすると微妙な感触が伝わらないのだそうだが、そんなことは言われたときにはわからない。修業中は親方の言うことは絶対だ、理屈抜きに従えないようではいい職人にはなれぬ。理由はやってみて後でわかるもの、それがわからないやつはハナからダメだ。70歳をいくつかすぎていた元棟梁と握手をしたときに印象的だったのはにぎった手の感触だった。指が太くがっしりした指で、まぎれもない大工の手であった。職人は仕事を続けている間に使う手も道具の一部となり、その仕事にふさわしいものにつくり変わるのだろう。

 そういう話しをしてから、道内なら旭川だな、重厚な家具で定評があるし、全国トップレベルなら飛騨の家具だ。旭川や飛騨は材料の原木の産地だ。木を見極められないといい家具は作れない。どういう材料をどの部分に使うか見極められるのが一流の職人だ。だから、原木の産地の近くに家具工場が立地している。いくならどちらかだ。材料を見極められないようでは一人前にはなれない。それは料理人も同じだ。

 安易な道を選び専門学校へなど行かずに高校を卒業したら家具工場へ就職して修業しろ。修業期間の数年間は給料は安い、その代わりに5年も修業すれば半人前くらいにはなれる。10年修業できたらなんとか一人前だ、そこからほんとうの修業が始まる。高級品をを任せてもらえるようになるまで10~20年かかるだろうが、しっかり技が身につくし、腕が上がるにしたがって収入も増え、定年もない。一生学び続けて名人と言われるような職人になってみたらいい。

 偏差値40~45の大学や、半端な専門学校へ行くくらいなら、目標を定めて家具職人の道を選ぶのもいい。
 さて家具職人の道を選ぶだろうか、ひそかに期待している。中1にも大工に向いていそうな生徒がいる。一人一人の学ぶ力、辛抱する力、性格、ふだんの勉強する姿を観察しながら、この生徒はどういう職業を選ぶのだろう、どんな職業が向いているのだろうと考える。30半ばになってそこそこの腕のよい職人になっている姿を想像するのは楽しいものだ。

  今週、『木のいのち、木のこころ <天>』『木のいのち、木のこころ <地>』を貸してあげるつもりだ。努力することの大切さや職人魂を知ってもらいたい。
 宮大工を描いた名作、幸田露伴『五重塔』も役に立つかもしれない。


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木のいのち木のこころ〈天〉

木のいのち木のこころ〈天〉

  • 作者: 西岡 常一
  • 出版社/メーカー: 草思社
  • 発売日: 1993/12
  • メディア: 単行本
木のいのち木のこころ〈地〉

木のいのち木のこころ〈地〉

  • 作者: 小川 三夫
  • 出版社/メーカー: 草思社
  • 発売日: 1993/12
  • メディア: 単行本
不揃いの木を組む (文春文庫)

不揃いの木を組む (文春文庫)

  • 作者: 小川 三夫
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/03/09
  • メディア: 文庫
斎藤孝の音読破〈4〉五重塔 (齋藤孝の音読破 4)

斎藤孝の音読破〈4〉五重塔 (齋藤孝の音読破 4)

  • 作者: 幸田 露伴
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2005/03
  • メディア: 単行本




 同じ本が見つからないので、類似の本を三つ挙げる。

木工の基本を学ぶ (手づくり木工事典ウッディ・クラフト)

木工の基本を学ぶ (手づくり木工事典ウッディ・クラフト)

  • 作者: 庄司 修
  • 出版社/メーカー: ユーイーピー
  • 発売日: 2008/07
  • メディア: 大型本

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