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#2744 社会人を創るという中小企業の役割 :立教大学経済学部教授山口義行 July 22, 2014 [11. 中小企業家育成コラム]

 山口教授は実例研究を積み重ねている学者であると同時に、スモールサンという中小企業サポートネットワークを主催している。フィールドワークの好きな学者のようだ。経済学的諸概念の関係とその体系化に焦点を絞って若い頃に研究をしていた私とはまったくアプローチが違う。抽象的な思考ではなく、事例研究や個別的事実の積み重ねで見えてくるものがある。演繹法に対して事例研究の積み重ねによる帰納法とでもいうとわかりやすいだろうか。大学院時代に増田四郎先生(経済学史・一ツ橋大学元学長)の学風に触れて、個別的事実の膨大な集積から物を言うアプローチのあることを学んだ。あのころ(1970年代後半に)書かれた著作に『地域主義』というのがあった。地域経済がダメになれば日本経済はもたない、地域の活性化に焦点を当てたものだった、一時は多数の経済学者が参加するうねりとなっていた。心配した通りの現実がいま起きている。院生三人で特別講義をお願いしたら増田先生がとりあげたテクストはリスト『経済学の国民的体系』だった。山口教授の事例研究は面白いものが多い。
 人は仕事をもって働くことで一人前の社会人となるのだが、中小企業がそういう社会人を育てる場となっている事例を、7月21日のNHKラジオ番組ビジネス展望でとりあげた。
*山口義行(ウィキペディア)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E5%8F%A3%E7%BE%A9%E8%A1%8C

 とりあげられた会社は、愛知県にあるトラックのカスタム部品製造メーカで年商1億円、従業員数・数名だったが、現在は年商13億円従業員数30名の会社になっている。
 山口教授の中小企業サポートネットワークに社長の近藤さんが参加してきた。山口教授は年商の5%を使って新しいことに挑戦してみたらと伝えた。近藤社長は隣接事業のトラック中古販売業に乗り出し、その後業容が拡大していった。

 近藤社長は高校中退で単車を転がしてやんちゃしていた時期があった。中学⇒高校⇒大学⇒社会人というコースを踏み外した人は少なくないのではないか。この社長はそういう若者達と真正面から向き合い、仕事を通じて一人前の社会人に育て上げている。こう書くと簡単なように聞こえるかもしれないが、そうではない。

 社長が若い頃やんちゃをしていたことは回りの者たちが知っている。ハローワークに不良っぽい若者が来ると係りの人が、「近藤さん、面倒見てくれないか」と電話してくる。全部面倒見ているのだという。
 勉強嫌いで九九すら満足でない子もいるが、仕事を通じて三角関数までマスターするのだそうだ。部品取り付けに三角関数が必要になると山口教授は言っていたが、測定器を使うのに三角関数の知識がないとまずいのか、それとも直接測ることのできない部分を三角比をつかって計算するのか実務がよくわからない。とにかく、九九すら怪しい子達を受け入れ、三角関数を理解して仕事で使えるところまで「面倒見ている」ようだ。

<指導の要点は4つ>
①技術の進歩と仕事の進歩をあわせる
 技術が進んだら、それに応じた仕事を与える
 さらに技術が進んだら、それに応じた仕事を与える
②こういうことを繰り返すことで仕事に達成感を味わい、自信を深めていく
③ある段階に達すると、自ら進んでやるようになる
 新たな技術や仕事に挑戦してみたいと自分から言うようになる
④こういう過程を経て、ほとんどの若者達がかなりの技術水準に到達する

 技術が上がると仕事の難易度がそれに応じたものになるというのは、いろいろなな習い事と同じだ。
 例えば珠算、級があがると上がった級に応じて問題はむずかしくなる。それをクリアすると実力がはっきり上がっていくのが実感できる。書道だって、日本舞踊だって、ピアノだって、詩吟だってなんだってそういうものだろう。大工の仕事の覚え方にもよく似ている。職人仕事はみなそうしたものだ。腕が上がるといいものをやらせてさらに腕を磨かせる。難易度が次第に上がっていくとあるところからは自分で考えないと上達できないところへ至ってしまう。難易度の高い仕事をこなしていくことで、いろいろ工夫して腕を上げるが、そういう過程で職人としての物の見方や考え方がしっかり育っていくのだろう。横浜で一緒に仕事してお世話になった70歳過ぎの大工の棟梁は腕がいいだけでなくものごとの考え方がしっかりしていた。5人弟子入りして「(職人として)一人前」になったのは自分一人だけだったと修行時代の厳しさを実例を挙げてはなしてくれた。辛抱力のない者は途中で逃げ出し「半端職人」になってしまう。仕事だけではない、考え方も半端になるようだ。徒弟制度は厳しい修行を耐えて育ってくるものを選別する制度であり、優秀な職人を育てる仕組みでもある。だがそれでは、思春期に挫折したことのある若者を育てられない。ほとんどみんなが修行に耐え切れずに飛び出してしまう。
 山口教授の話しを聴きながら、この社長ただものではないとebisuは感じた。

<社長と若い人たちのコミュニケーション>
 誰にもほめてもらったことのない若者達だということが重要だ。社会に認めてもらったことがないからきちっとホメる。
 今日どうだったと毎日訊く、そして聴いた話の中からほめる材料を探してホメる、それが社長の日課。
 この点は学校だって塾だって似たようなもの。いい質問が出たら褒める、いい点が取れたら褒める、解き方が冴えていたら褒める、難問題が正解できたら褒める・・・

<指導>
 型にはめない、型にはめると嫌がって反発するか逃げ出す。会社に入ってすぐに仕事が面白いなんてことはないから、しばらく様子を見る。
 たとえば、毎日クラブへ出かける若者が居たとする。社長はこう言う。
 「おまえ、お姉ちゃんが大好きなんだろう?呑みに行くのにお金要るだろう?」
 「もっと早く稼げるようになったほうがいいよね」
 という風に指導するというのだ、見事なものだ。相手の行動を否定したりお説教するのではなく、視野を広げてやる、そこがコツだという。自分が今夢中になって夜遊びしていることと仕事がお金というものを通じてどのようにつながっているのかがわかれば、仕事に本気で身が入る嫁さんもらい、子どもができたら、家族に関心が広がるそして社会へ視野が広がっていくようになるそれが社会人ができあがっていくプロセスだと社長が言う

<社会人を育てる上で一番大事なこと>
 教材は自分自身、「自分も中卒で一時期は道を踏み外したが、会社を経営してそれなりに暮らしているのだから、おまえたちだったらもっとやれるはずだ」ときちっと伝えていく。
 近藤社長は山口教授の勉強会にもよく出てきて実に勉強熱心である。従業員に訊いて見ると「社長は頭のよい人です」という答えが返ってくる。自分で学んだことを、噛み砕いて従業員へ伝える努力もしている。
 人を育てる力とは社長自らが学ぶ力が源であるとは山口教授の結論。
 背中で示すことが若者を育てる一番のポイント


 根室では札幌に支店を4つ出店し、東京丸の内のキッテビルにさらに支店をだした回転寿司の「花まる」の社長が、ある時期に京セラ創業者の稲盛氏の塾へ参加して勉強している。根室から単身でよく飛び込んだものだ、その時点ですごい。井の中の蛙では大きくなれぬから、学びに飛び出す。

 根室の地元企業家にこうした社長が増えたら、戻ってくる若者が増えるのではないか?

 「根室再興」は学ぶ姿勢をもてる地元企業家が何人出るかにかかっているようにみえる。どんどん飛び出して、学んで、従業員に夢を語り、働き甲斐のあるいい会社につくりかえたらいかが?傲慢で従業員の幸せを考えない企業主が経営する会社は人口が急激に縮小している根室では、じきに淘汰されてしまう。視野を広げなければ負ける、時間との戦いだね。
 学ぶというのは、自分の不足を素直な心で認めることだから勇気がいる

*#749 フィールズ賞受賞数学者小平邦彦と藤原正彦の教育論  Oct. 4, 2009 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2009-10-04



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ZAPPER

最近の社員教育は、一に教え、二にやらせてみて、三に褒める。(叱るのはご法度)そうしたものに変わりつつあるようです。競争慣れしていないので、何かにつけ打たれ弱い。ゆとり世代は常に指示待ち。そう言われることが多いわけですが、それはまた、緩みきった学校教育による弊害であり、すっかり落ちてしまったところの親力の副産物かも知れません。

しかし、手取り足取りちゃんと教え、そしてやり方をていねいに伝え、よくできた部分を褒めてあげるという社員教育に徹すると、色々と言われることの多い今の若者もグングン伸びていくそうで、今後はそうした社員教育が主流になるのだろうと思われます。

でもしかし、一方ではこうも思ったりもします。本来、家庭や学校で行われるべき、社会に出る以前になされるべき教育の部分。そこについても、企業が担わなくてはならない時代に、すでに突入している、と。

http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail_3512.html
by ZAPPER (2014-07-22 17:55) 

ebisu

文句も質問も無し、言われたことを黙々とやりながら先輩職人の技術を盗む、なんていう昔の徒弟制度でないと一流の職人は育てられないのでしょう。

手取り足取り教えたら、甘えが出て半端職人になる。でも、そういう時代なのでしょうね。
2世代ばかりの間に、日本人が仕事を通じて受け継いできた一番大事なものを伝え損なうことになるのでしょうね。

一番大切なこと?そう、仕事は厳しいものだということ。ある時期全力でやらないと本物にはなれぬということ。
by ebisu (2014-07-22 23:26) 

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