#2675 East Antarctica at risk of thaw : 東・南極辺縁部の巨大氷河が南極海へ落ちる? May 13, 2014 [75.時事英語公開講座]
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*#3247 East Antiarctica at risk of thaw Feb.28, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-02-28
遅咲きの庭の紫つつじが花をつけ始めた。ひょろっとした幹とそこから伸びる枝の先に小ぶりの花びらが十輪、清楚な感じがよい。桜はあと少しで開花しそうで、膨らんだ蕾が朝霧にぬれていた。
― 結論 ―
今後200年間の間に、数メートルの海面上昇が起きて、低地にある世界中の人口密集地帯が水没する。人類は地球規模での人口減少、食糧生産の急激な減少、経済縮小時代を迎えることになる。触れてはならぬスィッチはすでに押されてしまった。南極大陸棚の上にある高さ2千メートルを越す氷河の底部に海水が入り込んでしまった。その外側にある海盆へ続く海底は急斜面である。大陸棚に固定されている氷河と岩盤の接着面に入り込んだ海水が広がれば、氷河は大陸棚の岩盤から離れてその外側にのびた氷河に引っ張られてウィルクス海盆の急斜面を滑り落ちる。
残念なことだが、人類にこれを止める手立てはないと異なる研究機関の研究者が同じことを言明している。これから200年間に渡って進行し続ける「不可逆な」動きが始まってしまったようである。
1時間前にNHKがNASAの研究チームが公表した関連ニュースを配信。(13日11:25追記)
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― 序論 ―
標題はロイターが配信した気候変動に関する記事である。このテーマは大学入試でもとりあげられる可能性があるので、専門用語と周辺知識を吸収しておくいいチャンスである。出題される問題文の背景を知っていると有利に解くことができる。
ebisuは南極については知識がないので、日本語訳に手こずった。たとえば'Wilks Basin'の訳である。最初は「ウィルクス湾」という訳語で考えたのだが、読み進むと後の方の説明文と合わない。こういうときは原理原則に還り、言葉の定義から調べなおすことにしている。
併行して、具体的な説明が後に続くテクスト中にあるはずだから、それを探す。こういうときは固有名詞が出てくる文節の直後、さらにはあとの段落でもっと具体的な説明がでてくるのであいまいにしたまま書き手が説明してくれるのを期待しながら読み進む。そうすればだんだんに訳(わけ)がわかってくる。そういう意味ではお手本のような構成の英文だ。
道に踏み迷ったら、どのように脱出して本道に戻るか、いいケース・スタディになるはずである。ずっこけずっこけ、ようやく正解らしきところへたどり着くという過程をそのまま開示しようと思う。
たかが英字新聞記事だが、専門外の部分はだれがやってもむずかしい。英語しか専門分野のない高校の英語の先生たちが英字新聞記事を授業で取り扱いたくない気持ちがよくわかった。(笑)
英語の知識もさることながら、大事なのは記事の専門分野の知識―この記事なら南極の地質学的な知識など、経済記事なら経済学の専門知識、コンピュータシステムならシステム工学の専門知識、医学記事なら医学の・・・―というのが時事英語の特性である。英文科を卒業した高校の英語の先生たちの専門は英米文学、しかし文学が英字新聞社説で取り上げられたのをみたことがない。高校の英語の先生たちにとって時事英語は「専門外」のオンパレードである。
高校生は細かいことはあまり気にせず読んでくれたらいい。大学入試の長文問題はおおよその意味がつかめただけでほとんど正解できるのだから、その辺りを目安に読めばいいのである。わからない単語にでくわしたら、品詞の見当をつけて、そして前後関係から意味を推測してから辞書を引こう。電子辞書ではなくて紙の辞書を読め、それが読解力を上げるトレーニングになる。
5月6日ジャパンタイムズ一面の記事より
http://www.japantimes.co.jp/life/2014/05/05/environment/east-antarctica-more-at-risk-than-thought-to-long-term-thaw-study/
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Study adds to worries over rising sea levels
East Antarctica at risk of thaw
Reuters
(1) OSLO – Part of East Antarctica is more vulnerable than expected to a thaw that could trigger an unstoppable slide of ice into the ocean and raise world sea levels for thousands of years, a study Sunday showed.
(2) The Wilkes Basin in East Antarctica, stretching more than 1,000 km (600 miles) inland, has enough ice to raise sea levels by 3 to 4 meters (10-13 feet) if it were to melt as an effect of global warming, the report said.
(3) The Wilkes is vulnerable because it is held in place by a small rim of ice, resting on bedrock below sea level by the coast of the frozen continent. That “ice plug” might melt away in coming centuries if ocean waters warm up.
(4) “East Antarctica’s Wilkes Basin is like a bottle on a slant. Once uncorked, it empties out,” Matthias Mengel of the Potsdam Institute for Climate Impact Research, lead author of the study in the journal Nature Climate Change, said in a statement.
(5) Co-author Anders Levermann, also at Potsdam in Germany, said the main finding was that if set in motion, the ice flow would be irreversible. He said there is still time to limit warming to levels to keep the ice plug in place.
(6) Almost 200 governments have promised to work out a U.N. deal by the end of 2015 to curb increasing emissions of man-made greenhouse gases that a U.N. panel says will cause more droughts, heat waves, downpours and rising sea levels.
(7) Worries about rising seas that could swamp low-lying areas from Shanghai to Florida focus most on ice in Greenland and West Antarctica, as well as far smaller amounts of ice in mountain ranges from the Himalayas to the Andes.
(8) Sunday’s study is among the first to gauge risks in East Antarctica, the biggest wedge of the continent and usually considered stable. “I would not be surprised if this (basin) is more vulnerable than West Antarctica,” Levermann said.
(9) Antarctica, the size of the United States and Mexico combined, holds enough ice to raise sea levels by some 57 meters (188 feet) if it ever all melted.
(10) The study indicated that it could take 200 years or more to melt the ice plug if ocean temperatures rise. Once removed, it could take between 5,000 and 10,000 years for ice in the Wilkes Basin to empty as gravity pulls the ice seaward.
(11) “It sounds plausible,” Tony Payne, a professor of glaciology at Bristol University who was not involved in the study, said of the findings. The region is not an immediate threat, he said, but “could contribute meters to sea level rise over thousands of years.”
(12) The United Nations panel on climate change says it is at least 95 percent probable that human activities such as burning fossil fuels — rather than natural swings in the climate — are the dominant cause of warming since the 1950s.
(13) Sea levels are likely to rise by between 26 and 82 cm (0.85 to 2.7 feet) by the late 21st century, after a rise of 19 cm (0.6 feet) since 1900, it says. Antarctica remains the biggest uncertainty.
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― 解説 ―
Study adds to worries over rising sea levels
海面上昇の懸念があるという研究がもう一つ公表された
East Antarctica at risk of thaw
プラグ・アイスが溶け出しそうな東・南極大陸
南極:Antarctica, the Antarctic pole, south pole 北極:the Arctic pole, north pole
(1) OSLO – Part of East Antarctica is more vulnerable than expected to a thaw that could trigger an unstoppable slide of ice into the ocean and raise world sea levels for thousands of years, a study Sunday showed.
((ノルウェー)オスロー:南極大陸東部の特定地域はいままで考えられていた以上にもろく、滑り落ちて海洋へ流れ出す可能性が高い。そういうことが起きれば数千年間にわたって海面上昇が起きるという研究が日曜日に公表された。)
冒頭の文は構文がこっている。たとえば、「expected to do」 の「do」が省略されている。省略しても読み手が理解できるあたりまえの語は省略されることがある。’(is) expected to (melt / thaw)’カッコ内の語が省略されているのである。文脈で容易に判断がつく。
‘a thaw’ 以下は「予測されていること」の補足説明である。
分のつながり(構造)がよくわかるから、文を三つに切り分けてみよう。
①Part of East Antarctica is more vulnerable than expected to (melt)
②a thaw (that could trigger an unstoppable slide of ice into the ocean) raise world sea levels for thousands of years
③a study Sunday showed.
①は「S+V」の文で、「なにがどんなだ」という文である。意味は「東・南極は今まで考えられてきた以上に脆弱である」
②のthatは関係代名詞である。元の文を復元すると次のようになる。
②-1: a thaw could trigger an unstoppable slide of ice into the ocean
②-2: a thaw raise world sea levels for thousands of years.
thawは名詞で「暖かさ、雪解けの季節、雪解け」である。
「②-1:南極の氷河が溶けるような気候変化があれば、海洋に南極の氷河がとめどなく滑り落ちていくきっかけになりうる」「②-2:氷河が溶けるような気候変化は数千年にわたって海面上昇を引き起こす」 南極東部なら'the east part of Antarctica'だろう、どれほどの違いがあるのかわからぬが、本文には「東・南極」と書いてあり、地図を見るとウィルクスランドという表示がある、根室市落石灯台が東経145度付近だが、南へ下って南極大陸にぶつかると、その辺りはウィルクスランドとビクトリアランドの境界付近である。東経170度(日付変更線)付近は南緯85度付近まで大陸が切れ込んでおり、「ロス棚氷ice shelf」のあるロス海に至る、この辺りの氷の厚みは千メートルを超えており南極大陸の陸上に載っている氷河と一体の塊と化している。
南極の氷の厚さは平均で2450m、最も厚い部分は4776mもある。面積は1204万km^2(日本の国土面積の32倍)、氷の体積は陸上部分のみで2938万km^3。
*http://www.nichirei-ice.com/ice/q3_2.html 検索していたらおもしろい物を見つけた。南極大陸の断面図である。南北線でカットし左が西、右が東という断面図である。平均標高はわずか16m、西側は平均標高が海面下だ。だが載っている氷がなくなれば、「地殻均衡」作用が働いて、陸地が隆起し600mほどの標高になるという。
*Antarctic School「雪と氷の大陸・南極」
http://polaris.nipr.ac.jp/~academy/jiten/tairiku/04.html
(2) The Wilkes Basin in East Antarctica, stretching more than 1,000 km (600 miles) inland, has enough ice to raise sea levels by 3 to 4 meters (10-13 feet) if it were to melt as an effect of global warming, the report said.
(東・南極にあるウィルクス海盆は内陸から1000km沖合いまで広がっており、そこには地球温暖化の影響で融けると海水面が3~4m上昇するだけの量の氷がある。)
地図を見るとウィルクスランドはあるが、ウィルクス海盆は描かれていない。手元の地図には大きな棚氷はロス棚氷とフィルヒナー棚氷(collins World Atlas mini editionには'Ronne Ice Shelf'と書いてある)の二つだけ。棚氷とは大陸から張り出した部分の氷だが、ウィルクスランド付近の氷は大陸に載っている。グーグル地図で検索してもWilks Basinはヒットしない。
Wilks Basinでググってみたら、英語版のほうのウィキペディアがヒットした。東経140度南緯75度に位置している。ウィルクスランドではなく、ビクトリアランドにある。この辺りには細かいひだはたくさんあるが入り江になった「湾」はない。ベイスンを「湾」と訳してはいけない。
ウィルクス海盆が直径1000kmの円だと假定すると、
500km^2*pi=78.5万平方km
日本の国土面積の2倍ある。
'stretching more than 1,000 km (600 miles) inland'はウィルクス・ベイスンの説明である。「後ろは前に位置するものの説明」という原則どおり、挿入句あるいは補足説明と理解していい。省略されたとebisuが考える部分を補足してみる。
①The Wilkes Basin in east Antactica stretches more than 1,000 km from inland.
この説明によると、ウィルクス・ベイスンとは南極大陸の大陸棚の外側に1000km以上も広がっていると書いてあるから「湾」であるわけがない、辞書に湾という訳語が載っていても「ウィルクス湾」という訳は適切ではない。そういう巨大なものを湾とは呼ばない。
次の文(3)で追加説明がなされているが、地質学用語の「海盆」が正しい。
教室の壁に貼り付けてある世界地図2枚で確認した。日本で作成されたほうに英語と日本語の両方で次のような海盆名をみつけた。
South Australia Basin 南オーストラリア海盆
Australia Antactic Basin オーストラリア南極海盆
Southeast Pacefic Basin 南東太平洋海盆
North Pcific Basin 北太平洋海盆
どういうわけか、米国で作られた世界地図のほうにはbasinの標記がひとつもなかった。
疑問を一つ呈しておこう。文中のレポータが誤解して書いているのではないだろうか。
The Wilkes Basin in East Antarctica (, stretching more than 1,000 km (600 miles) inland, ) has enough ice to raise sea levels by 3 to 4 meters (10-13 feet) if it were to melt as an effect of global warming, the report said.
文を要約すると、「ウィルクス海盆には3~4mの海面上昇を引き起こすに充分な量の氷がある」ということ。ウィルクス海盆は沖合い1000kmまで広がっているが、大陸棚に載っている氷河が沖合い1000kmまでつながって張り出していることは考えられない。strechingを使っているから「張り出している」とたぶんレポータは考えたのだろう。この場合はウィルクス海盆が「沖合い1000kmまで広がっている」と訳すべきだ。
氷河の厚みを2kmと仮定し、1000kmの板状の氷を1/50000に縮小して考えてみよう。厚さ4cm長さ20mの氷の板になる。幅を50cmとしても支えきれるのはせいぜい数メートルだろう。厚さの100倍くらい、つまり4mぐらいが限界値ではないだろうか?それ以上伸ばしたら折れてしまう。つまり、大陸棚から離れて流氷となってしまう。流氷はいくら溶けても海水面を上昇させない。
厚さ1kmなら大陸棚からどんなに長くても200kmぐらいが大陸棚に載っている氷河がウィルクス海盆側へ伸びた氷河を支えきれる限界なのではないか?それ以上伸びたら氷河の先端部は海へ落下する。2000mの厚さの氷の上部1800mが水面上に出ていたら、重さに耐えかねて先端部分は落下する。
レポータの方は、ウィルクス海盆全体に氷があり、それが大陸棚に腰を下ろしている氷山に支持されているというような誤解をしたのではないだろうか?厚さと長さと重さのバランスを考慮するとありえないことに気がついていない、そうebisuは考えた。あなたはどう思うだろうか?
次の(3)に「海面下の大陸棚に載っている小さな氷のリムに支持されている」とはっきり書いてある。
(3) The Wilkes is vulnerable because it is held in place by a small rim of ice, resting on bedrock below sea level by the coast of the frozen continent. That “ice plug” might melt away in coming centuries if ocean waters warm up.
(ウィルクス海盆の氷はもろく、氷の小さな縁―凍てついた大陸の海岸付近の水面下にある岩盤の上に載っている―に支持されている。"アイス・プラグ"は海洋の水温が上昇すれば今後数百年間で融けて流れ出す可能性がある。)
'is held in a place by a small rim of ice'と書いてあるから、東南極大陸辺縁部にあるウィルクス・ベイスンの氷平原は小さな環状の氷によって繋ぎ止められている。コンセントにプラグが差し込まれてコードがつながっている様子を想像すれば'ice plug'がどのようなものをさしているのかよくわかる。
keepではなくholdを使っているから、一時的につなぎとめられているということで、接続の脆弱性が表され、海盆側に突き出た氷河をつなぎとめている部分は「海岸の辺縁部にある小さな環状の氷」とあるから、環状になっている部分は幅が狭く距離も短いのだろう。具体的なデータが書かれていないが、大陸棚(海面下0~200m)がリムにあたる。氷河の下部0~200mが海面下にあり、水の上に2200m(氷の厚みは平均で2400m)出ているのである。
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basin: ①an open round container shaped like bowl with sloping sides, used for holding food or liquid.
⑤ a shelterd area of deep water where boat are kept.
-CALD-
「傾斜面をもったボウルのような開いた円い容器、ボウルとは食べ物や液体を入れる容器のこと」
basin: In geography, a basin is particular region of the world where the earth’s surface is lower then in other places.
-Colins English Dictionary-
http://dictionary.reverso.net/english-cobuild/basin
海盆は地質学用語だ、『大辞林』で引いてみる。
海盆:円形ないし楕円状などの形をした海底の窪地。
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⑤の意味だと思い込んでいたので、はじめは「ウィルクス湾」と訳してみたが文脈に合わないから誤訳、「海盆」と訳さなければならない。
南極大陸辺縁部の海岸が大陸棚になっていて、そこの終端から傾斜が急になり、深海部の海盆へと続く。大陸棚の幅は10~30kmぐらいだから、大陸棚の海底の岩盤におおよそ高さ千メートル超の氷の層が載っている。そして南極海側に押し出された氷平原を大陸棚に載っている厚さ千mの氷のリムがつなぎとめている。写真を見ると、矢印のある部分が周りよりも流れる速度が大きい。その幅は記事中にあるように「小さい」。毎年氷河が200m大陸棚へ押し出されると假定する(一番流速の大きいしらせ氷河が16~27m/46days、だが氷河の流速については年間数kmのところもあるというNASAの研究もある)と、50km押し出されるのに250年かかる。大陸棚を越えた氷の平原は、海底の支えを失うが、大陸棚の氷山と分厚く接合されているので沈みこまない。氷の下では海水が冷やされて深層海流となって沈み込んでいくから、温かい水が北(オーストラリア)側から流れ込んでくる。その暖かい海水が氷平原の下部をゆっくり絶え間なく溶かしていく。そして百数十キロも沖合いに届く頃には、重さと浮力のバランスが壊れて先端部から崩れて氷山となって流れ出していくのだろう。
*しらせ氷河の流速研究資料
http://www.watanabe-found.or.jp/pdf/gaiyou/S-H19-171.pdf
海盆は大陸棚から深海へ向かって急傾斜している。洗面器の縁から中心への急傾斜を想像すればいいのだろう。大陸棚に載っていた氷は順次海盆へ押し出され、下部を海水が洗い溶かして薄くなっているである。微妙なバランスで南極大陸の2400mの厚さの氷と海盆上に突き出した氷河の先端が大陸棚に固定された部分を介してつながっている。
地球温暖化でリムの外側の氷平原=巨大氷山がどのようなメカニズムで切り離されて南極海へ落ち込むのだろう?
大陸棚に載っている氷と海盆側の氷の接続部分が外れたら、巨大な氷は重力で海へ落ちるから、海水面が上昇するという理屈は理解できるが、そんなことがあるだろうか?接合部分は千mの厚みがある。気温上昇で氷の硬さが失われ、重力で割れるのだろうか?先端部は下部が溶けてしまって重さと浮力のバランスが失われてしまうから、ウィルクス海盆へ崩れ落ちて氷山となって流れていく。
英文を読み、いろいろ調べ、そして考えて一つの推論を組み立てているのだが、元の論文を読んでみないとわからないことがいくつもある。
大陸棚に載っている氷山の流出の影響もたんに海水面の上昇だけではあるまい。南極大陸辺縁部の大陸棚から突き出た氷河に海水が冷やされて沈み込むことで、安定した深層海流の流れがあるはずだが、100平方㎞を超えるような氷山が比較的短期間にいくつも流出すれば、その流れも影響を受けるに違いない。辺縁部から海盆側へ突き出た氷河がなければ、そこに深層海流は生まれない。南半球の安定した深層海流の流れが変わってしまうことで、生態系にどのような影響があるのだろう。これが北極だったら影響はもっと深刻だ。北極の氷が半分になったら、深層海流の流れが大きく変わり、既存の好漁場(たとえば北方領土付近)は甚大な被害がでるだろうことは推測にかたくない。
<調べたデータと計算値>
①地球半径: 6371km
②表面積=4πr^2=5億1006万km^2
③海:3億6106万km^2 (70.8%)
④海水総量: 13億4993万km^3
③の数値を使うと、100kmの正方形で厚さ2400mの氷河が流出したら、海面は6.6cm上昇する。
(海面上昇のメカニズムがわかったので、冒頭と末尾に追記した)
南極大陸から押し出された巨大な氷が東・南極大陸の辺縁部、ウィルクス海盆に広がっているのである。大陸との接合部分は大陸棚にどっかりと腰を下ろした千mクラスの氷山、それがウィルクス・ベイスンの氷平原と連続している。理屈はともかくとして、面積数十万km^2、高さ300~1000mの巨大な氷の塊がウィルクス海盆に落ちて南極海に流れ出したら、そりゃあ、海水面は上がるだろう。
3~4m上がったら、根室の緑町、常磐町、梅ヶ枝町、本町、松ヶ枝町、花咲町、千島町、弁天町などはみな水底である。温根沼大橋も海水で洗われる。橋に接続する道路も水底となる。落石地区の海岸線や花咲港も水の底だ。イーオンの屋上から釣り糸を垂れてチカ釣りができるだろう。
東京下町も水の底。世界中の海岸部の人口密集地帯が水没することになる。
海岸付近の低地は人口密集地帯が多いから海岸近くの低地に存在する世界中の大都市が水没ということになる。食糧生産も大打撃を受けるから、人口縮小が世界的な規模で起きる。否応なしに世界中が人口縮小、経済規模縮小の時代へ突入することになる。メカニズムが働けばもう誰にも止めることができない。すでにスィッチは押されてしまっている?(4) “East Antarctica’s Wilkes Basin is like a bottle on a slant. Once uncorked, it empties out,” Matthias Mengel of the Potsdam Institute for Climate Impact Research, lead author of the study in the journal Nature Climate Change, said in a statement.
「東・南極にあるウィルクス海盆は斜面に置かれた瓶のようなものだ。一度でも栓が抜けたらナカミが流出して空っぽになる。(気候変動誌に掲載された)この主著者で、ポツダム気候変動研究所のマシアス・メンゲルがステートメントの中でそのように言明している。」
(5) Co-author Anders Leverman, also at Potsdam in Germany, said the main finding was that if set in motion, the ice flow would be irreversible. He said there is still time to limit warming to levels to keep the ice plug in place.
(論文共著者のアンドレス・リバーマン(ドイツのポツダム研究所)はその氷の平原が一旦動き出したら、もう止めることができないと述べている。アイス・プラグをつなぎとめておくレベルに温暖化を抑制する時間的余裕がまだあるとも述べている。)
keep ~ in place: ~を所定の位置に保持する ⇔hold~in placeと比較(6) Almost 200 governments have promised to work out a U.N. deal by the end of 2015 to curb increasing emissions of man-made greenhouse gases that a U.N. panel says will cause more droughts, heat waves, downpours and rising sea levels.
(約200の国々が2015年末までに人間活動によって作り出される二酸化炭素の排出を抑制するという国連の取り決めを実行すると約束した。二酸化炭素の増加は旱魃、熱波、豪雨、海面上昇を引き起こすだろう。)(7) Worries about rising seas that could swamp low-lying areas from Shanghai to Florida focus most on ice in Greenland and West Antarctica, as well as far smaller amounts of ice in mountain ranges from the Himalayas to the Andes.
(グリーンランドや西・南極大陸上に存在する氷が融けると、上海からフロリダまでの間にある世界中の海岸近くの低地を水底に沈めてしまう海面上昇が起きるという懸念は、量がはるかに小さいがヒマラヤからアンデスまで世界中の山脈の頂上付近に存在する氷河の量が減少し続けていることへの懸念と同種のものである(要するに陸地に載っている氷が大量に融け続ければ海面上昇が起きるのである)。)(8) Sunday’s study is among the first to gauge risks in East Antarctica, the biggest wedge of the continent and usually considered stable. “I would not be surprised if this (basin) is more vulnerable than West Antarctica,” Leverman said.
wedgeは「楔」という意味であるが、「the biggest wedge of the continent」は「南極大陸最大の楔」という意味で、南極大陸東部にあるロス棚氷の地域を指している。その形状が南極大陸に楔を打ち込み、V字型に欠けたように見えるから「the biggest wedge of the continent」と書いたのだろう。
amongは「含まれている」という意味である。GENIUSに次のよう例が載っている。
Japanese travelers were among the casualties.
[犠牲者には日本人が含まれていた]
(日曜日に公表された研究論文は東・南極にあるさまざまのリスクを評価が含まれている。東・南極とはすなわち南極大陸がV字型に切れ込んでいる箇所(ロス海沿岸)のことであり、いままでは安定していると考えられていた。"西・南極に比べてこのウィルクス・ベイスンがもろいものであることにわたしは驚かない"とリバーマンは述べている。)(9) Antarctica, the size of the United States and Mexico combined, holds enough ice to raise sea levels by some 57 meters (188 feet) if it ever all melted.
(米国とメキシコをあわせた大きさの南極大陸に積み重なった氷が全部融けてしまえば、海水面を57mも上昇させてしまう。)
(10) The study indicated that it could take 200 years or more to melt the ice plug if ocean temperatures rise. Once removed, it could take between 5,000 and 10,000 years for ice in the Wilkes Basin to empty as gravity pulls the ice seaward.
it could take for A to B :
seaward:adv海側へ pull the ice seaward
(公表された研究論文が示していることは、海水温が上昇したとしても、200年かそれ以上の歳月がかかるということ。一度それが動き出したら、急傾斜面で働く重力が(厚さ2000mの)氷河を大陸棚の外側へ
(11) “It sounds plausible,” Tony Payne, a professor of glaciology at Bristol University who was not involved in the study, said of the findings. The region is not an immediate threat, he said, but “could contribute meters to sea level rise over thousands of years.”
plausible:プルーザブル adj もっともらしい、妥当な 発音要注意だね!
(この研究に参加していないブリストル大学のトニー・ペイン教授(専門は氷河学)は調査結果が"妥当"だとのべている。東・南極は現在ある脅威ではないが"数千年間に渡り、数mの海面上昇を引き起こしうる"と述べている。)
共同執筆者では仲間内の評価になってしまうので、ロイターは外部の研究者にこの研究への客観的な評価を求めたのだろう。
(12) The United Nations panel on climate change says it is at least 95 percent probable that human activities such as burning fossil fuels — rather than natural swings in the climate — are the dominant cause of warming since the 1950s.
(国連気候変動パネルは化石燃料を燃やすような人間活動―自然な気候の揺らぎよりも―が95%の確率で、1950年代以降引き起こされている地球温暖化の支配的な原因であると述べている。)
この結論は妥当だろうか?中部大学の武田教授のように太陽の黒点活動が低迷期に入り地球は寒冷化に向かっていると主張している学者もいる。
(13) Sea levels are likely to rise by between 26 and 82 cm (0.85 to 2.7 feet) by the late 21st century, after a rise of 19 cm (0.6 feet) since 1900, it says. Antarctica remains the biggest uncertainty.
(21世紀末には海面は26~82cm上昇しそうだ。1900年から20世紀末まで19cmの上昇だった。南極は最大の不確実性であり続ける。)
百年間で比較すると、20世紀は19cmの海面上昇にすぎなかったのに、21世紀は最低でも26cm、最大で82cmの海面上昇となる。1.5倍から4.3倍の海面上昇が高い確率で起きるようだ。IPCCが予測しているよりも、ずっと深刻だという研究も公表されているから、海面上昇に関する研究は百花繚乱の様相を呈している。こういうことは元の論文を読んで裏付けデータを自分なりに解釈しないと判断ができない。たくさんある研究の中の一つぐらいにとらえておこう。
問題なのは、一旦溶け出したらその反応は不可逆で、数千年間続くということ。温暖化が地球規模ではっきり確認できたときには「もう遅い」ということがありうる。
なんだか訳のわからない解説になってしまったことを申し訳なく思う。肝心のところのメカにズムが書いていないということもあるが、専門知識がないとこういうことになりかねない。でも、お利口でないebisuは面白そうだからとりあえずやってみた。
読者のご叱正を乞う。
*#2681 南極大陸周辺の謎(1)問題提起:思考トレーニング May 21, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-05-21
#2683 南極大陸周辺の謎(1):海面上昇値を計算してみる May 23, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-05-23-1
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― 補足 ―
【海面上昇のメカニズム】5/13 11時追記
「南極・ニュース」で検索してみたら、NHKが関連ニュースを1時間前に配信していた。
*「南極の一部氷河 「温暖化で流失防げず」 5月13日 9時52分」
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140513/k10014403511000.html
大陸棚にある氷河と岩盤の間に海水が入り込んでしまっているというのだ。そこがリムとなって大陸棚の外側の急斜面を氷河がずり落ちるのをとめていたのだが、その「接着剤」がはがれたということ。あとは重力の仕事だで、接着面が次第に小さくなり、あるとき突然に急斜面を氷河がウィルス海盆へ向かって滑り落ちることになる。
仮にリム部分(大陸棚の上)の氷河の厚みが1000mで大陸棚の深さが0⇒200mに20kmの幅でゆるい傾斜だとしよう。その先はウィルクス海盆で30度の急傾斜になっている。1000mの厚さの氷河がリム部分を越えると、海水の上に出す頭は80mくらいだから、重力で急斜面を下りながら920mも沈み込むことになる。
まどろっこしいのでNHK記事を引用する。
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NASA=アメリカ航空宇宙局などの研究チームは南極大陸の一部の氷河について、温暖化の影響で、すでに氷河そのものが失われるのを防ぐことができない状態になっているという分析結果を明らかにしました。
NASAやカリフォルニア大学などの研究チームは12日、人工衛星や航空機による観測などから得られた過去40年間のデータを基に、南極大陸の西側にある6つの氷河の状態や地形を分析した結果を発表しました。
それによりますと、これらの氷河では、海水温の上昇などの影響で地面と接する氷河の下の部分に海水が流れ込んで氷が溶けており、氷河と地面が切り離されている地点は、20年前と比べて最大で37キロ内陸側に入り込んでいたということです。
このため氷河が流出しやすくなっていて、氷河が海に向かって移動する速度は年に最大4キロメートルと、40年前と比べて1.7倍の速さになっていたということです。
さらに氷の下の地形の分析で、流出をせき止められるような地形ではないことが分かり、研究チームは「これらの氷河が失われるのを防げる段階はすでに超えた」として、今後数百年以内に6つの氷河はすべて失われ、1.2メートルの海面上昇につながると指摘しています。
また、16日付けのアメリカの科学雑誌「サイエンス」では、別の研究チームも6つの氷河のうちの1つが早ければ200年後にも崩壊するという予測を発表し、温暖化の深刻な影響が浮き彫りになっています。
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この写真にある⇒部分が氷河の流速の大きい部分を示している。幅は10kmほどだ。2000年の写真では10km×5kmほどの氷山が流れ出している。これが大陸棚に乗っている部分からねこぞぎ南極海へ流出したら、120km×100kmもの面積(四国の7割りのサイズ)の巨大氷山になるだろう。
*「グリーンランドの氷河の流れが加速」 ナショナル・ジオグラフィック・ニュース
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20140205004
*#2675 East Antarctica at risk of thaw : 東・南極辺縁部の巨大氷河が南極海へ落ちる? May 13, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-05-11-1
#2681 南極大陸周辺の謎(1)問題提起:思考トレーニング May 21, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-05-21
*#2683 南極大陸周辺の謎(2):海面上昇値を計算してみる May 23, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-05-23-1
#2912 爆弾低気圧が根室へ:小中高全部休校(釧路および根室管内) Dec. 17, 2014
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