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#2657 十年物国債買い手つかず(2):幸田真音さんの論  Apr. 24, 2014 [95.増え続ける国債残高]

 クリスマスの頃にバケツで作った氷のオブジェ(80kgくらい)は日陰に置いたせいかずいぶん長持ちしたが、あと20cmくらいで消えてしまいそうだ。最低気温もこの数日はプラスに転じた。極東の町にも春が来ている。
(一昨日、全国学力テストが行われたが、公民をやっている中3年生や高校生は経済の勉強をするのもいいだろう。材料を挙げるから、自分の頭で考えてごらん。地頭で考えるトレーニングのつもりでいい。)

 4/23のNHKラジオ「ビジネス展望」から。
 幸田真音は言わずと知れた女性作家(1951年生まれ)であるが、米国系銀行や証券会社で債権ディラーの経験の持主だ。作品には金融関係を題材とする小説が多い。その彼女が4月14日の国債に買い手がつかなかったことをとりあげて論じている。ディラー業務経験を活かしたユニークな意見に耳を傾けたい。

 まずは4/14の20時に配信された日経新聞のwebニュースを見てみたい。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGC14013_U4A410C1EE8000/
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新発10年物国債の取引成立せず 13年ぶり、日銀買い入れが影響


 14日の債券市場で、長期金利の指標となる新発10年物国債の取引が成立しなかった。1日を通して取引が成立しなかったのは、2000年12月26日以来約13年ぶりという異例な事態だ。日銀が量的・質的金融緩和の一環として市場から大量に国債を買い入れる結果、市場参加者同士の売買が細る流動性の低下を反映している。

 長期金利は前週に0.605%に低下。14日は節目の0.6%を下回るかが焦点だったが、ある大手証券のディーラーは「取引しようにも上司の決裁がもらえない状態」と打ち明けた。商いが細っているうえ、来週は消費者物価指数など重要統計の発表を控えており相場が動く可能性があったためだ。

 日銀の異次元緩和の影響も大きい。日銀が国債の発行額の約7割を買い入れており、市場における国債の取引量の低下につながっている。ソシエテジェネラル証券の島本幸治東京支店長は「表面的には金利は低位安定して見えるが、市場機能は弱っていて、ショックがあれば金利は急騰しかねない」との懸念を示す。
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  ニュースを見て事実関係を把握したら、次は幸田さんの意見を聞いてみよう。以下は「ビジネス展望」での彼女の論。

 国債市場は国の信頼を表す市場であり、10年物国債金利はそのまま日本の長期金利となっている。景気や物価動向を現す重要な指標であるが、その10年物国債に買い手がつかなかった。日本で市場で長期金利が決まらないという異常な事態が起きている。国債市場は機能不全に陥っている。

 国債相場は金利を日銀が0.6%に抑えたまま異次元の金融緩和を継続して「日銀の管理相場」になっている。すでに新規発行額の7割を日銀が購入している。メガバンクは国債入札に参加してもすぐに日銀へ転売するだけ。
 国債を誰がどれくらい保有しているか見てみると、

  銀行と郵貯      40%
  保険会社と簡保   20%
  日銀          20%
  年金基金       10%
  個人                2%
  海外             8%
  
  日銀保有国債残高 2013年度末 183兆円
                       2012年度末 115兆円

 幸田さんは元ディラーらしいことを言っている。日銀が7割を購入している姿を「三人マージャン」と評しているのだ。マージャンは元々4人でやるものだが、一人抜けて3人マージャンとなっている。その抜けた一人とは証券会社である。発行元の財務省と入札業務や決済を行う日銀、そして入札に参加するメガバンク、流通市場で売買する証券会社の4人がそろってこそ本来のマージャンである。
 感度のよい老練なプレーヤーが市場から消えることで、市場で異常事態が起きても市場が反応できなくなりつつある。債権相場が3秒間で国債が1円も下がったことがあるが、市場は反応できなかったという。
 財務省のファイナンス目的で市場の国有化が起きている。しかし、日銀が永遠に買い続けられるはずがない。
 理由は日銀のバランスシートを見ればわかる。日銀の貸借対照表の資産はすでにGDPの50%になっており、異常に保有資産が肥大化している。
 米国FRBと欧州銀行(ECB)そして英国中央銀行(Bank of England)のバランスシートはGDPの23~26%であるから、それらと比較しても日銀はすでに2倍の対GDP比率だ

 2013年度末には政府の借金は1018兆円(国債850兆円、借入金55兆円、政府短期証券114兆円)であるが、これが2014年度末には125兆円増えて1143兆円になる
 (2012年度のGDPは476兆円)

 10年物国債に買い手がつかなかったということは日本の長期金利が機能不全になっているということ。
 幸田さんはディラーをしていたときに銀行間over night取引で金利が10%に跳ね上がったことがあるし、国債金利相場も8%を超えたことがあるという。
 熟練の技術者が市場から消えてしまえば、こうした緊急事態に市場が対応できず、大損害が発生するリスクが大きくなりかねない。老練なディラーがいれば、金利が暴騰したら、即買い入れを行うとか、売り浴びせるという市場の反応があればリスクは小さくなるが、反応がなければそのままずるずると行きかねない。相場の振幅が大きくなってしまう。異常気象のような事態が国債相場や長期金利市場で起きるということ。

 アベノミクスの異次元の量的緩和策には出口戦略がなく、いずれこうしたクラッシュに遭遇せざるをえなくなるだろう、ここまでが幸田真音さんの論である。

 国債発行残高に対する日銀のシェアは2013年度末に20%、2014年度末には25%、2015年度末には30%になりそうだ。このままでは2020年には50%近くになってしまう。発行残高を1200兆円と假定すると600兆円である。その頃にはGDPは30兆円ほど減少しているから、国債以外の資産も含めると日銀のバランスシートはGDPの150%前後になっている。
 FRB、EUB、BOEが23~26%なのに、日銀のバランスシートが対GDP比150%にも膨らむ前に日銀に対する国際的な信任が崩れるから、日銀は国債購入を止めなければならなくなる。そうなれば長期金利が上がり、発行済みの国債は暴落する。スペインでは国債金利が7%にまでハネ上がった。日銀には出口戦略がない。
 3年くらいしか時間的な余裕がないだろう。

 アベノミクスの異次元の量的緩和策の出口には長期金利の暴騰と円の暴落そして財政破綻が待ち受けているようにみえる。

―余談―
 生産年齢人口(15~64歳)の推移をご覧戴きたい。
http://www.bowlgraphics.net/tsutagra/03/

 2000年 8622万人(100.0%)
 2010年 8128       (94.3%)
 2020年 7367       (85.4%)
 2030年 6740       (78.2%)
 2040年 5734       (66.5%)
 2050年 4930       (57.2%)

 2000年を基準としていまから26年後(1世代)を測ると、
  5734÷8622=66.5%

 名目GDPも同じくらいの割合で減少するとしたら、
 510兆円×66.5%=339兆円
*GDPの推移(ウィキペディア)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E5%86%85%E7%B7%8F%E7%94%9F%E7%94%A3

 経済成長路線は長期的な生産年齢人口減少を無視したイリュージョンである。安倍首相と黒田日銀総裁そして財務省はイリュージョンを追いかけているように見える。そして彼らには出口戦略がないからクラッシュするしかないのだろう。もう出口戦略の選択肢が見出せないほど追い込まれてしまっている。


*#2654 十年物国債買い手つかず(1):なんだかおかしいマスコミ報道 Apr. 22, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-04-22-1


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―余談-2―
 右往左往する必要はない、日本がとるべき道はある。それはグローバリズムとも経済成長路線とも違う、違うどころかベクトルが真逆だ。先進国の住民の中で欲望をコントロールできる可能性のある日本人だけがなしうることがある。日本人の伝統的な仕事観に基く経済社会を創造することで、マルクス『資本論』の無限に欲望の増殖する経済社会とは反対の小欲知足の経済社会を実現することである。大きな舵を切るチャンスだと思えばいい。

*#2631 職人仕事を中心に据えた経済学の創造(1) Mar. 31, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-03-30-1

 #2634 職人仕事を中心に据えた経済学の創造(2) Apr.7, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-04-06

 #2643 職人仕事を中心に据えた経済学の創造(3) Apr. 13, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-04-13



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