SSブログ

#2638 STAP細胞報道:未熟で何が悪い&ポスドクの悲哀  Apr. 10, 2014 [42. STAP細胞に関する話題]

 このところのSTAP細胞報道はまるで中世の魔女狩りをみるようないやらしさを感じる。マスコミがこぞって弱い者イジメをしている。当初はあれだけ持ち上げておいて、こんどは掌を返したように極悪人扱いだ。先の報道は一体なんだったのだろう、なんとも好い加減だ。こういうデタラメな報道姿勢はマスコミへの信頼を失わせる。
 とくに日本は、科学的な記事でも書いているのは専門知識のない文系の記者がほとんどだから、質問も的外れ、突っ込みなしが多い。不勉強ゆえに、福島第一原発事故でも東電や政府の言い分を見批判に垂れ流している場合がほとんどだ。こうした東電や政府の言い分を自ら検証するという姿勢に著しく欠けている。

 昨日小保方晴子さんの記者会見をみたが、冒頭から謝罪の言葉が出ていた。研究者として未熟だったというのである。
*MSNニュース
http://sankei.jp.msn.com/west/west_economy/topics/west_economy-23426-t1.htm

 未熟で何が悪いかと思う。ベテラン研究者ならそれなりの体裁の論文にできるだろうが、ベテランには弱酸性溶液に浸したあと細い管の中を通してストレスを与えることで細胞を初期化できるなんて「生物学の常識」に反するような実験を執拗にやれるわけがない。どれほど常識に反していても、自分の直感がそう告げているのだから、それで突っ走ろうというのは「未熟者」にしかできないことだ。
 勉強しすぎると通説に縛られて身動きがとれなくなるから、未熟でないとそれまでの学会の通説を覆す新しい理論なんてなかなかできやしないのである、だからこれから生まれるであろう若い研究者のためにも未熟であることを誇ってほしかった。ベテランはそういう若いバイタリティに溢れた研修者をバックアップしてやればいい。

 記者達の質問は半分はピント外れにみえた。200回作成に成功している*とすでに答えているのに、「stap細胞は存在しているのか」というような質問をしたり、最後の所で男女関係に質問が及ぶなど、大人らしからぬゴシップ週刊誌のような質問まであった。研究熱心な30女はセックスをしてはいけないとでも言うのだろうか。だれとセックスしようがそんなことと研究成果は関係なしだろう。質問をした記者は『源氏物語』や『枕草子』『和泉式部日記』などの古典文学を今一度読んでみたほうがいい。
--------------------------
*STAP細胞の作製に「200回成功している」という発言については別にとりあげる。こういう不正確な物言いが科学者としてデータの取扱に慣れていない様子を伺わせる。
--------------------------

 もう一つ感じたことがある。ポストドクターの悲哀だ。理系大学院の定員が20年前に比べて2倍になっているという。団愛世代の頃に比べると学生数が半分になっているから、割合で見たら理系大学院生は4倍になっているのだろう。これほど増やしたら「粗製乱造」気味になるのはしかたがない。だからこそ、理研は組織としてコントロールする必要があったのだが、まるでそうした機能がなかったことが事実によって証明されだしている。
 「特定研究開発法人」への指定もこの問題が解決するまで見送られた。補助金獲得に目が向きすぎて、本来やるべき若手研究者への適切な指導、研究過程のコントロールがなされていない。市立根室病院の院長や参事や事務長が赤字穴埋めのために市財政から一般会計繰入金の獲得のためにのみ動いて何年たっても肝心の経営改善が一向になされない姿によく似ている。理研は自分達の本来の仕事がなんであったを思い出してもらいたい。

 ポスト・ドクターとは、ドクター課程を修了した者のことだが、学位をもっていても就職は厳しい。普通の会社ではドクターの学位を持った20代後半の女の人を採用する気にはなれないだろう。使いづらいし、上司よりも頭のよい部下を使いこなせる上司は100人に数人しかいないだろう。ましてやそういう部下よりも学力的にまさる上司はほとんどいないというのが一般の会社だ。
 研究機関や民間会社の研究部門に職が限定されるから、ポストドクターはその人の専門に関わる職でないと雇えないということになる。
 電気メーカは研究職をずいぶんとリストラしたし、今後は増える見込みがない。だから韓国の電気メーカへベテラン技術者が流れ、技術流出を起こした。こんごも韓国に限らず、海外へ優秀な技術者や研究者の流出が続くのだろう。バイオについては研究職の雇用がそれほど多いとは思えない。技術立国の旗を揚げながら、行き場のないあるいは生活が安定しないポスト・ドクターが増え続けるという現実がある。
 小保方さんの記者会見をみていて、職を失うことに恐怖心を抱いているようにみえた。これで職を失えば働く場所がなくなる。ドクターの30女を雇ってくれる会社がおいそれとあるわけがないからご本人には死活問題である。

 理系は大学によっては学部学生の三人に一人の割合で大学院へ進学できる。教授が自分の研究テーマの実験作業をさせるのに人手がたくさんいるからだろう。学位論文も文系に比べると100倍通りやすい。
 文系理系を問わず、マスター以上の学位をもったものには小中学校と高校の教員免許を無条件で付与し、優先的に採用したらどうだろう。道内は教員の学力低下が言われて久しいが、こうした人材が教育界になだれ込めば、状況を変えられそうな気がする。フィンランドはマスターの学位がなければ教員にはなれないと聞く。
 小保方さんの理研での雇用契約は5年間で年収はおおよそ800万円であるらしい。研究成果が出なければ30半ばになって放り出され、無収入となる。心の休まらぬそんな生活をしているよりは、研究職の夢はあきらめて教員になったほうがずっと収入が安定していいだろうと思うが、あきらめきれないのだろうな。それが人間の業というものだろう。
 ドクター課程を終わって職がないというのはその人の生き死ににかかわるほど深刻な悩み事なのである。


*#2581 世紀の大発明 STAP細胞: Cell reprogramming advances (ジャパンタイムズより)  Feb. 2, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-02-02

 #2639 STAP細胞報道‐2 : 「200回作製した」 Apr. 11, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-04-10-1


にほんブログ村 地域生活(街) 北海道ブログ 根室情報へ
にほんブログ村

nice!(2)  コメント(2)  トラックバック(0) 

nice! 2

コメント 2

相川始

ebisuさん、こんにちは。

私もこの一連の報道に関しては疑問があります。
近年、マスコミの報道姿勢が低下しているのは常々感じますね。

最近の原発報道、従軍慰安婦問題、靖国参拝などはまるで@悪人」を作りだす報道の仕方が眼に見える。

「未熟=悪」が世間で定着している感があります。
しかし私は「未熟」だからこそ未知の可能性部分を見いだすことができると考えます。

人間に「完成」はないのです。
「未熟」だからこそ勉強や鍛錬などの訓練をしているのです。
その訓練を忘れ、楽をして仕事する(=お金を得る)という選択をする人間が年々増加し、真面目に働いている人程、損をしている環境が定着しつつあります。

しかし楽をして仕事すると、必ず後でボロがでます。
※落石漁協の件に通じるところあり

「若い時の苦労は買ってでもせよ」と今の若い人たちに伝えたい。
by 相川始 (2014-04-10 18:24) 

ebisu

世紀の大発見ですから理科学研究所は組織としてチェックやバックアップを適切にすべきだったのに、それを棚に上げて、女一人をよってたかって叩きまくる姿がきらいです。

小保方さんも論文は好い加減なところがありました、いい薬になったでしょう。
薬が効きすぎてはいけません。

若いうちの苦労は大事ですね、仰るとおりですね。

>「若い時の苦労は買ってでもせよ」と今の若い人たちに伝えたい。

たくさんの若い人たちにがんばりぬいてほしいと思います。
by ebisu (2014-04-10 23:10) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0