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#2597 イメージの力(3):Aとnon-A型について  Feb. 16, 2014 [54. イメージ化能力と学力について]

 コメント欄でご指摘をいただいたので、俗説である右脳・左脳説に拠らすに観察された事実から、推論あるいは假説の構築を試みたい。

 前回定義した6類型のおさらいからはじめよう。

#2595から抜粋(すこし手を入れた)
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 言葉からイメージを創れるタイプをA型、創れないタイプをnon-A型、数直線や図形を頭の中に想い浮かべて処理することができるタイプをB型、それができないタイプをnon-B型と分類したい。

 A型 ⇔ non-A型
 B型 ⇔ non-B型

 学力という点からは、A&B型が圧倒的に有利であることは論をまたないだろう。根室にもどって塾を開いて11年が過ぎたが、中学生にnon-A&non-B型が増えている。それは日本語語彙力の衰えに現れている。生徒の20%がほとんど小説や文学作品を読む習慣がなく、漫画とゲームに熱中している。映像を受け取るだけで、15歳になるまで言葉から自分の頭の中に映像を作り上げるトレーニングをしていない。A型は本を読むことで強化されるのだが、本を読まないから脳内に言葉からイメージを創りあげるシステムが発達しない。はっきり言うが、こういう生徒は高校生になっても学力が伸び悩む。それは日本語読解力が育たないからだ。
・・・
 じつはもう一つ特別なタイプがある。文章を読みながら諸概念を構造物のようにイメージできる能力がそれである。言葉と言葉、異なる専門用語同士の関係を立体構造物を眺めるようにイメージできる能力をもつ者は稀だ。この能力をもつ者は、もたない者と会話が成立たない。なぜか?同じイメージを共有できないからである。

 C型 ⇔ non-C型
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 角度を変えて、わたしが直面している「難題(?)」から説明してみたい。
 一つは1月から音読トレーニングを始めてさまざまなテクストをいっしょに読んでいる小学生xの日本語語彙力の拡張と読解力強化をどうやるかという問題。この子は会話でも文章語を織り交ぜて自在に話すから、同年齢の子たちに比べると文章語の語彙力は格段に大きいから現段階では特段問題がない。'non-A∩B'型の小学生が高校生になったときに国語の偏差値を70オーバーにするための「仕込み」をどうやるのかという問題と言い換えてもよい。
 言葉からイメージを構成する力の弱い子どもにはほうっておいたら濫読時代が訪れないから、濫読期を経験する子どもと国語力において圧倒的な差ができる。国語の学力テストで毎回85~95%の得点をとる生徒は例外なく濫読期を経験していた。そして、どの生徒も平均して学力テストで学年3番以内の成績だった。読むのも速いが書くのも速い。粒のそろった字を高速で書くことができた。国語力の程度は学力全般に大きな影響があるとわたしには思える。
 年齢相当以上の語彙力のある小学生が、言葉のイメージ構成力に弱点をもっているとおそらく国語の成績が伸び悩むことが予測できる。本を読んで 自分のイメージを創りあげて楽しめる子どもはほうっておいても中学生の時期に濫読期を迎えることになる。

 もう一つは中3になっても小4レベルの日本語語彙力の生徒yの日本語語彙力の拡張と文章読解力をどうやって強化するという問題である。
 中学生の成績下位30%層の生徒のほとんどが小4程度の語彙力レベルというのが根室現実。成績下位層が厚くなって、成績上位層が急激にやせ細り始めたからこの5年くらいの大きな変化で、当然学力テストの平均点ががくんと下がった。
 なぜこのような現象が起きているのかはまた別途検討を要するが、根室の町の将来を左右する重大問題であることはまちがいない。現在の小中高生が30年後40年後の根室を支える貴重な人材となるから、低学力のままに放置したら根室は衰退の一途をたどることになる。30年後の根室の姿のおおよそは、いまわたしたち大人が子どもたちをどのように教育するかにかかっている。

 これら二人に共通なやりかたがあるのかもしれないし、問題が別だからそれぞれ個別に対応しなければいけないのかもしれない。いまはまだわからないから、結論を出さずに試行錯誤を続ける。
 はっきりしていることは母語の能力の低い生徒は英語の成績も伸びないということ。母語の能力と外国語の習得の間には強い正の相関関係がありそうだ。教科書は日本語で書かれているから、他の教科の学力にも影響が大きい。

 xがイメージがわかないと言ったときには愕然とした。だれでも言葉から具体的なイメージが自然にわくものだとわたしは思い込んでいた。だから、トレーニングを積んで種類の異なる日本語テクストをたくさん読ませ、そのセンスを磨けばいいのだと単純に考えていた。
 しかし、言葉からイメージがわかなければいくら良質のテクストを選んで音読をしても苦痛なだけで、本を読むことが面白いということはないだろう。いつまでも音読トレーニングを続けるつもりはないのである。言葉からイメージを創りあげその中を泳ぐ快適さを経験すれば、音読トレーニングはそこで終わりにする。あとは自力で濫読すればいい。

 話しが言ったり来たりするが、辛抱して読んでもらいたい。
 小説の大好きな高校1年生の女生徒が音読しているテクストの情景を詳しく説明しはじめたら、楽しそうに聴いている。「なるほど、そういうことですか」とうれしそうだ。言葉からイメージのわかない生徒には良質のテクストの音読だけではダメということ。ときどき、情景を解説してイメージ構築を誘導してやればよさそうだというところまではわかった。

 中3の生徒数人はもう少し初歩的なところに問題がある。数日前にある生徒が「おれ悲痛だ」と発言した。「悲痛」を辞書で引いて意味を調べてたので使ったのだが、「悲痛な叫び」とか「悲痛な思い」という用例はあるが、「わたしは悲痛だ」という用例は見当たらない。他にもなにか新しく覚えた言葉を使ったが、それも使い方が間違っていた。本を読まずに、漢字検定などの問題集で漢字を覚えても、用例がないから使えないということは起きるのだろう。やはり本を読み、文脈の中で用例とともに漢字を覚えていくのが遠回りのようでも近道なのだ。

 言葉からイメージを創れないかあるいはイメージ構成力の弱いnon-Aタイプについて議論している。xもyも、現在はこの類型に属している。
 中3のyのほうには他に問題があるが、これは成績下位層(30%)の生徒の大半に共通する問題である。音として聴いた言葉を脳内で適切な漢字に変換できないことは学習上の大きな障害である。
 日本人は話し言葉を脳内で漢字に置き換えてその意味を理解しているから、適切な漢字に変換できなければ文章語を使った発話の意味を理解できない。授業中に先生の話していることの意味がわからないから集中できない、そのために退屈になりアンテナが先生のほうから向きを変え、ノイズを拾い始める。無意識に私語をはじめ落ち着きがなくなる。いくら注意しても私語をはじめてしまうのがこのタイプだ。
 3年間も学校でそんなことを毎日繰り返していたら、私語をすることや落ち着きのないことが習慣となり、性格の一部にまでなってしまう。正常な人間は意味のわからない話には2分と集中できないようだ。我慢して聞いてみたところで、次々に意味不明のことばが出てくれば、心が疲れて聴くのを身体が嫌がる、ひどく疲れるのである。

 予防策はある。小学校低学年で基本漢字については書き取り反復トレーニングを徹底すればいい国語辞書や漢和辞典も引かせなくてはならないから、学校はそういうことを仕向けるような宿題の出し方を考え、家庭では毎日そうした時間をとれるように生活習慣の躾をしっかりしなければならない。これらはすべて小学校低学年の時期に躾けるべきことで、学力に自信のないお母さんでもできることだ

 では、中3でnon-Aタイプにすっかりなりきっている生徒はどうしたらいいのか?
 つれない言い方をするのはつらいが、数ヶ月でnon-A型をA型に変える魔法はない。読む本のレベルを漫画や児童書から引き上げ、年齢相応の本や背伸びした本をたくさん読み、意味のわからない言葉は国語辞書で引き、それをノートに毎日書き溜めて眺めることだ。新しく出てきた漢字は必ず漢和辞典を引き、漢字があらわしている元々の意味をしっかりつかんでおくことだ。

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 家に漢和辞典が一つあるなら、比較対照するのに白川静の『常用字解』を買ってみたらいい。高校生までは漢和辞典はこれで充分だ。大学生なら同じ著者の『字統』を書棚に飾っておきたい。『古事記』『日本書紀』『万葉集』を本格的に読もうと思う人は、『字訓』がいい。漢文の原典に遡って用例を載せている『字通』は漢和辞典の最高峰だが、普通の人にはいらない。わたしももっていないが、漢籍に興味がわけば話は別だ。人生は案外長いのかも知れぬ。
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 中学3年生で小学生4年生程度の日本語語彙力しかなかったら、高校3年間は徹底的に本を読み国語辞典を引け、そして新しい漢字に出遭ったら漢和辞典をひく。基本漢字についてもその原義については漢和辞典で確認しておいたほうがいい

 どんな専門分野でも日本語はありがたいことに基本漢字の組合せで専門用語ができているから、漢字の意味さえわかれば、専門用語の意味の検討がつく。だから、小学校で基本漢字の読み書きトレーニングを徹底することが重要なのである。
 英語はこうはいかない、たとえば医学専門用語はギリシア語やラテン語の接頭辞・語幹・接尾辞からできているから、これらの言語の素養がなければ、専門用語を一つ一つ覚えるしかないのである。
 その点、日本語はよくできている。基本漢字の意味さえしっかり漢和辞典を引いて覚えてしまえば、数式を除いてあらゆる専門分野の専門書を読む基礎的素養が備わる
 いまからでも遅くはない、いや遅いのだが、取り返しはつく。いままで怠けたのだから、追いつくためには人の2倍努力せよ
 ぜひ、A&Bタイプとなって、学力強者に成り上がってもらいたい


*#2593 イメージの力(1):ピアニスト&作曲家加古隆の原風景 Feb.14, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-02-14

*#2595 イメージの力(2): 6タイプに分類 Feb.16, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-02-16


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