SSブログ

#2540 アベノミクス批判:『世界8月号』伊藤光晴論文 Dec. 23, 2013 [91.経済]

【小欲知足ということ】

 先週のNHKのビジネス展望という10分ほどの番組で、経済評論家の内橋克人が経済学者伊藤光晴の標記論文を紹介していた。
 この論文の副題は「安倍・黒田は何もしていない」である。紹介されていた論点は三つ、日銀の量的緩和策の効果と株高と円安である。
 アベノミクスは三本の矢で知られているが、①日銀による「異次元の」量的緩和策(目標値270兆円)、②大規模な財政投資、③成長政策だった。
 世間の大方の評価は①②がうまくいっているが、③が見えないというものだが、伊藤光晴は量的金融緩和は効果がないことと株高と円安は安倍・黒田によるものではないという三点を統計データを克明に追うことで論証しているというのである。
 内橋はそれらに一つ付け加えている。
「間違った経済理論は間違った政策を産む、そしてそれは深刻な副作用となって現れる」

 一つ目の論点は「異次元の量的緩和」は効果なしというもの。日銀による量的緩和で市中につぎ込まれた資金は、資金需要がないので市中銀行を経由して日銀当座勘定に積み上がっているだけだという。これは統計数字ではっきりしているから、それを挙げて論証したのだから議論の余地がない。

 そうした事実は他のアナリストや経済評論家も指摘していた。よく考えてみたらいい、設備拡張の投資資金を借りる企業がほとんどないということは、量的緩和策と成長路線の破綻を現しているということでもある。効果がないのに「異次元」の量的緩和を続けたらどういうことになるのか?投機資金に流れることになる。堅実・着実にやらなければならないときにミニバブルを現出してしまう。「浮利を追わず」という日本の伝統的道徳とは真逆の政策といいうる
(グローバリズムには誠に都合がよい、日米そろってゼロ金利策と膨大な量的緩和を続行中だから、ダダ同然でヘッジファンドが資金を手に入れ、思うがままに株式市場や商品市場で投機をやって相場を不安定にして、巨利を手にする。利益が出ているうちはいいが、ディリバティブは突然の大破綻を演出することになるのはリーマンショックの教訓である。ディリバティブは日本で400年前に生まれたときには米相場のリスクをヘッジする使われ方をしていたが、国際金融資本が使ったら巨利を手にする手段でリスクを増幅するものに変ってしまった。日本は商道徳の欠如した弱肉強食のグローバリズムを選ぶべきではない。急いで量的緩和の出口戦略を具体的に検討すべきだ。)

 民間企業の資金調達は銀行ばかりではない、資本市場での資金調達も有力な選択肢だ。30年前に比べると企業公開のハードルが低くなっているので、企業の成長に合わせて容易に資金調達可能だから、株式公開して十年前後で消えていく企業もある。したがって、銀行借り入れによって資金調達する企業の割合も減少している。地元の大地みらい信金も貸し先がなくて苦労していることは『財界サッポロ』での元理事長の発言を弊ブログ#2334と#2318(脚注参照)**でとりあげたことがある。

  道内のどこの地方も似たような状況にあるし、道内は日本全国の縮図でもあるのだろう。
 この項の結論は、日銀の量的緩和はブタ積み預金(日銀当座勘定をそう呼ぶらしい)を増やしただけで、民間に銀行借り入れの資金需要がないということ。したがって、日銀の量的緩和はブタ積み資金を増やしただけで、民間企業にお金は回っていない。黒田総裁は民間企業に投資資金が回って、設備投資がなされ、経済成長を側面からプッシュするというものだったはず。

 二つ目の論点は株高である。株高は昨年10月からはじまっていたと、株価の推移を詳細にトレースして結論付けている。民主党が衆議院選挙で負ける前にすでに株高がはじまっていた。リスク分散のために国際金融機関がアジア重視に方針を切り替え、中でも日本へ資金投資をし始めたというのだ。外人投資家による買い越しが昨年10月以来続いており、株高はそのためで、国内要因ではないと言うのがいとう論文の主旨。
 それをあたかも自民党が圧勝し、安倍政権になったから株高になったような論調のマスコミ報道が続いたのでそう思い込んでいるだけで、統計数値の推移を見る限りそうではない、その前から始まっていた。国際金融機関とくにEU諸国の金融機関のリスク分散が日本の株高の原因だということ。

 三つ目の論点は円安である。白川日銀総裁の時代に技術的に高度な手法を用いて為替介入を繰り返して11月以降に円安になるような仕掛けをしていたというのである。これはebisuには真偽のほどがわからぬ。

 わたしは中学生のときに自力で勉強して公認会計士になろうと決意し、根室高校商業科を選択した。家業であるビリヤードを毎日数時間手伝っていたから、大学へ行く経済的余裕などないと思っていたのである。勉強は好きだったから2年生のときから本格的に二次試験用受験参考書や専門書をそして哲学書を読んで勉強していた。その際に心がけたのは、一つの説があったらそれと対立する別の説を読むようにしていたことである。会計学では黒澤清と沼田嘉穂の両説、経済学ならケインズとマルクスという風に、すこし早熟だったのだろうが、その後ずっと習慣になっている。アベノミクスがもてはやされればされるほど、それとは異説に耳を傾けるべきだというのがebisuの意見(異見)である。

 株高や円安がアベノミクスによるものではないとしたら、安倍政権は間違った経済理論に基いて、大間違いの経済政策を実行しつつあるということ。見当違いの思い切った政策は深刻な副作用を生み出すことになる。それが来年から姿を現し始める。

 日本の人口は2000年代に入ってから長期縮小へと大転換してしまった。何が大転換かというと、縄文以来1.2万年の歴史で初めての人口縮小時代に突入してしまったということ。
 人口縮小に伴い国内経済も縮小し始めている。貿易収支はすでに赤字基調へと変り、経常収支尻も黒字幅が激減、まもなく赤字基調へと変るから、何もしなくても長期的な円安が現れるのは当然である。
 日本の基礎的経済力が弱体化しつつあり、成長路線はすでに幻想、無理をしてそういう政策を続けると、長期金利上昇でそう遠くない将来国家財政が破綻する。安倍政権の経済政策は特定秘密保護法案同様にエキセントリックで、危険だ。

  平時の歳出は税収の範囲内に抑え、将来の災害に備えて積立を行い、後世に借財を残さない。そういうことが保守的で健全なものの考え方というものだろう。
 「小欲知足」「浮利を追わぬ」を経済政策の根幹におくべきだ

 元の論文を読まないと話にならないから、経済学の重鎮、伊藤光晴翁(86歳)がどう言っているのか、『世界8月号』を取り寄せて読んでみたい。その上でもう一度とりあげることになるだろう。

------------------------------------------

**#2334 大地みらい信金3期連続の増益そして地域経済は衰退 Jun. 19, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-06-19
#2318 わけのわからぬ「根室市の家計簿」(1):広報ねむろより Jun. 2, 2013
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-06-02

------------------------------------------

*財界サッポロ2012年2月号より元理事長の発言部分を抜粋
http://www.zaikaisapporo.co.jp/kigyou/intervew/115.shtml

「不安があるから預金が増える。地元の中小企業も設備投資を控える。資金需要がない。われわれとしても融資先がない。どうしても預貸率は下がります。」

------------------------------------------


-------------------------------------------------
*#2523 アベノミクスの行く末: 日本総研調査部長の論点 Dec. 9, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-12-09

 #2502 アベノミクスと企業経営 Nov. 18, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-11-17-3

 #2430 手詰まりの安倍首相 ついに消費税引き上げ決意表明 Oct. 2, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-10-02

  #2401 消費税値上げ延期なら国債価格は下落 Failure to raise sales tax 'could hurt bond prices' Sep. 9, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-09-09

  #2388 アベノミクス:雇用規制改革の正体 Aug. 30, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-08-30

  #2385 TPPは再び植民地化を招く:マハティール元首相 Aug. 28, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-08-28

  #2376 貿易赤字13ヶ月連続 7月最大の1兆240億円 Aug. 20, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-08-20

  #2329 アベノミクス:ナカミがないのに財政健全化を約束 Jun. 12, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-06-13

  #2321 株価暴落はどこまで続くのか?:とりあえずの目安は11,250円 Jun. 4, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-06-04-1

  #2311 どうにも解せぬこと ミャンマーへ債務免除 : プライマリーバランスの回復はするつもりがない? May 26, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-05-26-1

  #2309 Nikkei dives 7%, ends below 14,500 : May 25, 2013
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-05-25

  #2298 アベノミクスの罪:日経平均15,096.03円 May 16, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-05-16

  #2270 人口減少の衝撃: 2040年の日本の人口は1億727万人:"Japan's depopulation time bomb" : Apr. 21, 2013
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-04-22

  #2256 マネタリーベース270兆円へ拡大:亡国の決断 Apr. 6, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-04-06

  #2245  円安はそんなにいいことか? Mar. 17, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-03-17

  #2185 各論(3):'Abenomics' Jan. 24, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-01-24

 #2170 各論(2):貿易収支赤字転落⇒? Jan. 3, 2013 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-01-04

  #2169 各論(1):国債暴落の可能性とその影響 Jan.2, 2012 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-01-02

 2168 歴史認識を欠いた安倍新政権の歴史的役割(2):蔵相高橋是清暗殺 Dec. 31, 2012 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-12-31-1

 #2164 歴史認識を欠いた安倍新政権の歴史的役割は何? 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-12-28

 #2158 自民党圧勝294されど第2の危機民主党惨敗  Dec.17, 2012 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-12-18

 #2144 成長路線と金融緩和の罠 : 衆院選挙でナイトメアがはじまる 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-11-30

 #1828 ゼロ金利の罠: Fed targets and transparency Feb. 3, 2012
 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-02-03

 #829 国家財政破綻の瀬戸際  Dec.12, 2009
 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2009-12-12

 #346 これから10年間の日本経済のシナリオ
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2008-10-10 



-------------------------------------------------


にほんブログ村 地域生活(街) 北海道ブログ 根室情報へ
にほんブログ村


nice!(3)  コメント(2)  トラックバック(0) 

nice! 3

コメント 2

Hirosuke

【三本の矢】⇒実際には、折れますよ。(笑)

◆弓 & 禅◆ 零からの試射
http://now-or-then.blog.so-net.ne.jp/

by Hirosuke (2013-12-24 10:09) 

ebisu

先ほどお昼のニュースで、来年度予算案95兆円、新規国債発行額41兆円と言ってました。建設国債を赤字国債に入れてませんのでほんとうはさらに十数兆円ということです。
平時は税収の範囲内でやりくりして、将来に備えて積立をしておこうという健全な考え方はないのでしょう。
借金の山を築いて後は野となれ山となれ、そのときには自分たちは為政者ではない、あるいは国会議員ではないとでもいうのでしょうか。日本人の倫理観の低下は来るところまで来てしまった感があります。
保守を自認する人々は竹田恒泰解説の『古事記』を熟読して日本人の価値観、モノの考え方を思い出してもらいたい。

ところで、貴ブログの最近はじめた英語教育論、楽しく読ませていただいています。じっくり構えて論を進めているところがいいですね。
小学生に英語を教えるべきか否か、その前に日本語音読トレーニングの仕方が具体的に書かれているところが説得力がありました。
書かれた場面を想像して、感情を声に乗せてはっきり伝わるように読むのは一つの技です。そういうトレーニングをやれば、登場人物の心理は手に取るようにわかるでしょう。
小学校でそういう日本語音読指導をしてほしいですね。
先生という仕事は実に難儀なものですね。退職するまで自分のスキルを磨く努力をし続けなくてはならない。

日本語音読トレーニングをやっていれば、英語の音読も同じ方法を流用すればいいだけ。

そのうちにまとめて紹介させてもらいます。

by ebisu (2013-12-24 12:49) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0