#2414 根室のさんま祭り:放射能汚染は大丈夫か? Sep. 20, 2013 [13. 東日本大震災&福島原発事故]
根室のさんまがどの程度放射能汚染されているか気になっている人が多いだろう、私もその中の一人だ。
ネットで検索すると20Bq/kgという汚染データが出てくる。2種類の放射性セシウム、Cs134とCs137の合計値である。
情報元は社団法人全国さんま漁業協会がまとめた資料だというので、オリジナルを探したらあった。
*「水産総合研究センターによる水産物放射性物質調査結果」
http://www.samma.jp/sanma201108.pdf
2011年8月2日付のこの表の中に「第11権栄丸 採取日 7月3日」で20Bq/kgというデータがあった。他に11Bq/kgと9Bq/kgもあるが、他のさんまは検出限界未満となっている。
この表のデータには検出限界がいくらなのか表示がない。使用したγカウンタの機種と検出限界値を表示するのが常識だろう。どの程度の精度の機器で検査したのかわからない。データの最小値は3Bq/kgであるからこの付近が検出限界であろう。逆に言うと2Bq/kgなら「検出限界未満」か「不検出」と表示されることになる。だが、当該検査機関の当該機種で測定した場合にそうなるだけで、サンプルのさんまに放射能がないことを証明するものではない。もし、これをさんま輸出の際に輸出されるさんまに放射能が含まれていない証明書として添付するというような利用の仕方をしているなら、それはほとんど詐欺行為に等しい。正直な日本人という国際的な評価を著しく傷つける行為であると言わねばならぬ。
安物の検出限界の大きい機器ならほとんどが「検出限界値未満」となるだろう。今年のデータを見たがすべて「検出限界値未満」と表示されている。検出限界値の表示のない「検出限界値未満」が品質保証にならないことは自明だろう。普通の中学生にもわかる理屈である。
水産庁のデータをみた。
*http://www.jfa.maff.go.jp/j/housyanou/pdf/1210-12_result.pdf
EXCELファイルの10685行に10月17日に獲れたさんまのデータが載っている。データは「検出限界未満」と表示されている。サンプルは青森県沖太平洋で獲れたさんま。
検出限界値はCs134が「<0.40」でCs137が「<0.52」、検査機関は「いであ(株)」となっている。
水産庁に物申したい、いったいこのデータはどう読めばいいのか、読み方の解説が書いてあるべきだが見当たらない、これではわかる者にしかわからない。ありていに言うと、一般国民にはわからないということ。
検出限界値に疑問がわく、最新の機器でこんなに検出精度が悪い?嘘でしょ?ネットで東京都内の各所で放射能を測定したビデオ画像をみたが、単位はBq/cm^2で小数以下第3位まで表示されていた。足立区の数箇所が2Bq/cm^2を超えていた。
これとは単位系の異なるBq/kgが測れる機器の値段を検出限界値をネットで調べてみた。「参考資料」として最後のところにぶら下げておく。
あれこれ検索していたら面白いブログがヒットした。
*ブログ「風の谷」「調べたらわかる」 原発推進派=再エネ推進派」
http://blog.goo.ne.jp/flyhigh_2012/e/99f9d328ef7dda22c196ee043404caed
============================
一番多いさんまで セシウム合算 4.32+4.88=9.2ベクレル/kg (検出限界未満)となっています。
食品の基準値が100ベクレル/kg だから「あ、大丈夫じゃん」となりそうですが、ちょっと待ってください。いまは3.11以後の世界。基準値も3.11以後に作られたもの。だからサンマって3.11より昔はどのくらいの汚染度だったか調べてみてください。そんな時に役立つサイトは食品と放射能データベース
セシウム137だけですが 1977~1993年のあいだに5回調べて 最大で0.1ベクレル/kg。今年の10月のさんまのセシウム137 4.88ベクレル/kg。
つまり、3.11以前の最大値の48倍のセシウム濃度ということです
============================
なかなかいい発想なので、引用されているデータの真偽の確認をしてみた。水産庁のデータが引用されていたので、オリジナルを拾う。
http://www.jfa.maff.go.jp/j/housyanou/pdf/1210-12_result.pdf
平成24年10月17日のデータ、ラインNo.10682にある。Cs134が「<4.32」 Cs137が「<4.88」となっている。この「<4.88」は「検出限界値が4.88未満」ということではないのか?
その証拠に、セシウム合計値は「検出限界未満」と表示されている。検査機関は「宮城県」となっている。なかなか信じがたいことだが、使用している検査機器の精度が格段に落ちるか、測定時間を節約して検出限界値が上がってしまっているということだろう。
検出限界値以上のものは不等号がつかない状態で表示されている。宮城県は「いであ(株)」よりも一ケタ感度が鈍い測定器を使っているということだろう。海洋生物研究所も検出精度が宮城県と変らない。
わたしも以前このブロガーと同じ読み間違いをして情報を発信していたから笑えない。見当違いを恥じている。さんまや他の魚の放射能汚染濃度は、主婦にとっては自分の子どもに魚を食べさせていいものかどうかの重要な判断材料だから、水産庁は数字の読み方についてホームページ上できちんと解説すべきで、ぜひそうしてもらいたい。
ここまで書いて、まるで別の問題があることに気がついた。水産庁はさまざまな検査機関で測定されたデータを羅列しているだけで、相互の比較がまったく不可能だということに。
資料の前処理の仕方を含めた測定作業手順は標準化されていないし、検査機器の精度も測定時間もバラバラだということが表を眺めたebisuの感想だ。内臓や筋肉、骨に分けて測定し、合計値あるいは丸ごとミンチの状態の測定も行うくらいの標準化はすべきだろう。
「1977年から1993年」の5回調査の最大値0.1Bq/kgというのが本当であれば小数以下二桁まで測定できていたと考えられる。
なぜ20年後のいま、検出限界値が数ベクレルのなのだろう。使用機器と測定時間の問題がある。感度のよい機器は値段が高いのだろう。資料が増えれば処理能力を上げるために測定時間を「節約」しなければならない。測定時間を短くすれば検出限界値は桁違いに大きくなってしまい、測定に意味がなくなる。水産庁公表データはそういうデータがたくさんまじっている。宮城県や福島農業総合センター、茨城環境放射線監視センター、海洋生物環境研究所、九州環境管理協会などの検出限界値が数Bq/kgであるのは、たくさんのサンプルが持ち込まれて、高精度測定の処理能力をオーバしたので、測定時間を短縮して検査精度を下げて処理している実情が垣間見えるようだ。
補助金を出してでも百倍くらいの処理能力の迅速検査機器開発を仕様を明らかにして有力メーカ数社へやらせることぐらいはできるだろう。
放射能汚染は事実であるから、風評被害なんて嘘を言っていないで、正確な実データを計測して公表したほうが信頼を取り戻せる。食品としてダメなものはダメだと、厳しい安全基準で判別すればいい。
いまのままでは非常にまずい。このままでは食品の安全への信頼が根こそぎなくなる。
たとえば、ある検査機関がサンプルのさんまから放射能未検出という証明書を発行しても、さんまに放射能が含まれていない証明にはならない。精度の悪い機器を選んで短時間測定をしたら、検出限界値を上げて、恣意的に「検出限界値以下」の証明書が発行できるからである。
食品の安全に関する日本の信用がなくなれば、日本製品の国際的なブランド価値が落ちる。価格が下がるということ、長期的にみたらたいへん損なことだ。
ベトナム政府はさんまには放射能が含まれていない証明書を添付するように要求してきたようだが、こんな好い加減な精度での測定ならいくらでも「不検出」証明が出せる、大丈夫か?
原子力規制委員会の専門部会が、水産庁のデータが使いものにならないような発言をしていたが、こういうことだったのか。
作業手順の標準化と、使用機器の精度仕様、そして測定時間、検出限界値を決めなければどれだけデータをとってもほとんどが使いものにならない。
水産庁は厳しい精度管理基準と測定標準作業手順、指定検出限界値をクリアした検査機関のデータのみを利用すべきだ。
日本には数百年間守られてきた世界に誇れる商道徳がある。
「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」
【ebisuの結論】
根室で水揚げされているさんまが安全かどうかはこういう好い加減なデータからは判断できない。
ただ、さんまの回遊経路は濃度の高い放射能で汚染されてしまっているから、その中で餌を食べ成長することを考えたら、それなりに汚染されていると考えるべきだ。
還暦を過ぎたebisuは昨日も朝晩と2度さんまを食べた、なにしろさんまが大好きだ、旬の時期は毎日食べても飽きない。しかし、妊婦や赤ん坊、成長期を迎えている若い人たちには勧められない。どうしても食べたければ骨は必ず外すこと、そして食べる頻度は少なくすること。
妊婦や赤ん坊は食べないほうがいいというのがebisuの意見である。
こういうときは慎重なほうがいい。
--------------------------------------------------------
【参考資料:Bq/kgの測れる機器と値段】
(株)エフユーアイ・ジャパン BQ020 30万円 検出限界4.5Bq/kg
http://www.value-press.com/pressrelease/95443
チェルノブイリ原発事故現場の隣の国ベラルーシのメーカ製品「ポリマスターPM1406」という測定器が参考になる。
■ 検出精度が50Bq/kgなら測定時間は30分
■ 検出精度が10Bq/kgなら測定時間は1200分
検出限界を上げるには、測定時間を長くするということだ。この機器を参考にすると検出精度を5倍にするのに時間は40倍かかることになる。とても効率が悪くなる。
2次関数だとすると、「y=1.6x^2」である。
この測定器では、実際上1Bq/kg未満の検出限界で測定ができない。
http://www.koekisozo.co.jp/sokuteiki/PM1406.html
-------------------------------------------------------
*#2411 さんまの放射能汚染(まとめ-2) Sep. 16, 2013
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-09-16-2
#2410 さんまの放射能汚染について(まとめ) Sep.16, 2013
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-09-16-1
#2390 サンマのI-131の濃度から放射能汚染水の大量流出は分かっていた Sep. 1, 2013 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-09-01
***上記#2390は削除処理しました***
理由: 「<0.4Bq/kg」を「0.4Bq/kg」と読んでいましたが、どうやら「測定値<0.4Bq/kg」、すなわち、「測定値は検出限界値の0.4Bq/kg未満」と読むべきだというのが今回水産庁のデータをあらためて見直してみたebisuの結論です。
#1445 検証(2)福島原発事故⇒今年のサンマ漁に一抹の不安:杞憂に終われ Mar.26, 2011
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-03-26
-------------------------------------------------------
まったく同じ疑問を抱いたので、以前、道庁と水産試験場に電話をかけて尋ねてみたのですが、(サンプリングと検査方法について)「分からない」との回答が返ってきました。いいかげんなものです…。
by ZAPPER (2013-09-20 15:17)
寄せ集めてEXCELに入力してアップしているだけですから、だれもわかっていないのでしょう。
民間会社、国の機関、都道府県、公益法人などさまざまな種類の検査機関が関係しているので、それらを束ねて精度管理基準を決めるとか標準作業手順を決めるなんて仕事をやれる人がいないのでしょうね。
民主党政権のときと同じです。問題を収拾するような実務を取り仕切れる人材がいない。
by ebisu (2013-09-21 00:31)
>原子力規制委員会の専門部会が、
>水産庁のデータが使いものにならない
>ような発言をしていたが
↓
無責任な言い分だと思います。
原子力規制委員会こそが全国に職員を急派して、
率先して正確なデータを収集するべきでしょうに。
こういった精密機器は、
扱う人間によって幾らでもデータが変化します。
正しい使い方を理解しないまま使い出すと、
余計なスイッチに触れてしまう恐れもあり、
桁違いな数値が出たりもします。
初期較正も精度を左右する重要なファクターですが、
一般の諸機関では不可能です。
手元に定量の放射性物質と、
それを扱える資格者が必要ですから。
まったく、
原子力規制委員会って、
何を【規制】してるんでしょうね。
【寄生】の間違い?
by Hirosuke (2013-09-21 01:22)
Hirosukeさん、おはようございます。
原子力規制委員会は事務職員がいるだけでしょう。おそらく、原子力規制庁に事務局が置かれているはず。
原子力規制委員は福島第一原発へ常駐を義務付けないといけませんね。危機的状況が続いているというのに、現場作業の監視を法律で義務付けられた原子力規制委員会のメンバーがいないというのではお話になりません。
この手の測定に関しては、精度管理基準を定めて、それに合格した検査機関が測定したデータを使うことがあたりまえのやり方です。
たとえば、臨床検査では世界で一番厳しい品質管理基準である米国臨床病理学会の自主管理基準であるCAPライセンスがあります。
私のいたSRL八王子ラボは90年頃に日本で初めてCAPライセンスを取得しました。
3000項目以上の検査項目の標準作業手順書を作成し、それを英語に翻訳して米国臨床病理学会の数日に渡る実地審査を経て、ライセンスを取得しています。
数年後にこのファイルはすべて電子ファイルになりました。パソコンの性能とネットワークの性能が数年で飛躍的によくなったからです。2年に一度審査があります、いまでも繰り返されているはずです。
日本で世界一厳しい「食品に含まれる放射能測定精度管理基準」を定めるべきです。
そして、査察チームをつくる。
これはけっこう大仕事です。国、都道府県、公益法人、民間と検査機関は多岐にわたっています。これらをまとめ上げるのはなかなかたいへんです。
ebisuは臨床検査項目コードの統一をする仕事にタッチしたことがありますが、当初大手6社が集まり、業界内で臨床検査コードを統一しようと言う話しが進んでいました。民間検査センターで統一コードを決めても、病院が採用するはずがありません。
以前から知っていた臨床病理学会の臨床検査項目コード検討委員会の櫻林先生に協力いただいて、下仕事は大手6社のシステム部門と学術部門から人を出して検討し、統一コードの発表は臨床病理学会臨床検査項目コード検討委員会でおやりいただくという役割分担を最初に決め、大手6社と櫻林先生に了解を戴きました。
学界の権威がなければ、全国の大学病院や自治体病院、民間病院、つまり、お医者さんたちに使ってもらえないからです。
大手6社と臨床病理学会項目コード検討委員会(実際には櫻林先生お一人)が毎月合同で会議を開いて数年をかけて統一コードが公表されました。いまでは事実上の日本標準になっています。根室市立病院の院内システムもこの検査項目コードで動いています。
こういう「仕掛け」をして、検討実務を軌道に乗せる人間が必要なのだと思います。
接着剤のようなマルチな人材がいろんな分野に不足しています。
この仕事をスタートさせたときの社内での所属は経理部管理会計課でした。(笑)
職務上は何の関係もありません。だが、SRLという会社は、所属を超えて社内の力のある数人の所属部署の異なる人間を集められました。内容を話して個人的に協力を依頼すればよかった。だいたい仕事のできる者は他の部門に仕事のできる者たちに個人的なネットワークをもっている者です。芋づる式に必要な知識とスキルをもった人間が集まってしまいます。
自分の仕事をきちんとこなしていたら、「余剰時間」をどう使おうが社員の勝手という雰囲気がありました。いい会社です。(笑)
そもそも、日本標準臨床検査項目コードは「臨床診断支援システム」という全国の大学病院や専門病院をナットワークでつなぐ構想の中のひとつのプロジェクトでした。1984年か1985年のことです。創業社長の藤田さんは、この構想に簡単にOKだしてくれました。投資概算値200億円です。入社して1年か2年目の中途採用の社員の提案にです。
NTTデータ通信事業部と何度か打ち合わせをやりましたが、当時のコンピュータとネットワークの速度の性能が要求仕様とかけ離れており、10年先でも無理だと判断して全体構想は取りやめ、臨床検査項目コードの標準化プロジェクトだけが残りました。
まさか10年でネットワークの性能が要求仕様を満たすとは予測できませんでした。そういう可能性が見えていれば、やったでしょうね。
「客観的にみたら」可能性ゼロの状況で、ひたすら信じてやるということの重要性を後で知ることになります。
スティーブジョブスの仕事です。80年頃はパソコンなんてオモチャだとおもっていました。かれはそれを仕事で使えると信じて開発に没頭していたのですから、すごい。
現物を目の当たりにしていたから、信じられなかった。
ある時期は本物のキチガイでないといけません。採算も成功もすべてどがえし、ひたすら仕事する。
痛い教訓です。
by ebisu (2013-09-21 11:53)