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#2406 嘘か実か:「状況は管理されている東京は大丈夫」と安倍首相 (JTより) Sep.13, 2013 [75.時事英語公開講座]

 秋刀魚が毎日1,000t以上も根室花咲港に水揚げされている。値段も下がって120円/尾になっている、毎日新鮮な旬の秋刀魚を食べているので元気が出てきた、いい季節である。根室に住んでいたら長生きできそうだ。

 ジャパンタイムズ9月11日一面トップ掲載の記事を紹介する。見出しheaderは、
 'Abe's nuke assurance to IOC questioned'
 (IOCに対してフクシマ原発放射能汚染はコントロールできていると安倍首相が保証、それが問題として浮上している)

 新聞の見出しとネットで検索した記事の見出しにはご覧の通り違いがある。原子力発電所の用例の少ないnukeをnuclear plantと書き直している。

 時事英語に興味のある高校生や大学生必見のなが~い解説は英文記事の後に載せておく。ニムオロ塾の時事英語授業を聴くつもりで高校生や大学生に楽しんでもらいたい。
 
http://www.japantimes.co.jp/news/2013/09/10/national/abes-nuke-assurance-to-ioc-questioned/
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Abe’s assurance to IOC on nuclear plant called into question

by Reiji Yoshida

Staff Writer

(1)  One question that emerged among the public immediately after Tokyo won the right to host the 2020 Olympics was whether Prime Minister Shinzo Abe made an incorrect statement, or told an outright lie, about the contaminated water issue at the Fukushima No. 1 nuclear plant.

(2)  During the Tokyo bid delegation’s final presentation before the International Olympic Committee in Buenos Aires on Saturday, Abe stressed that the “effects from the contaminated water have been perfectly blocked within the (artificial) bay” of the wrecked nuclear complex, and said “the situation is under control.”

(3)  Experts have long pointed out that irradiated water from the plant has kept gushing into the Pacific far beyond the man-made bay, although the government continues to claim that most radioactive materials have been contained within a silt fence that forms a barrier directly in front of reactor units 1 through 4. Reactors 1, 2 and 3 suffered core meltdowns in March 2011.

(4)  The silt fence was deliberately set up with many openings so it can withstand waves and tidal movements.

(5)  When disclosing the results of a simulation last month, Tokyo Electric Power Co. admitted that a lot of water — and probably radioactive materials — was penetrating the fence and pouring into the wider ocean. The simulation assumed that 50 percent of the water inside the fence becomes mixed with seawater daily due to tides and other factors.

(6)  Tepco, based on the findings, concluded that a maximum of 10 trillion becquerels of radioactive strontium-90 and a further 20 trillion becquerels of cesium-137 may have reached the ocean.

(7)  At a news conference Tuesday, Chief Cabinet Secretary Yoshihide Suga admitted that contaminated water has escaped through the silt fence. But at the same time, he stressed that surveys have shown that the levels of radioactive materials in coastal waters around the nation, including off Fukushima Prefecture, are far lower than international safety thresholds.

(8)  “Even at the maximum, the density of (radioactive) cesium is less than one-five hundredth of the World Health Organization standards for drinking water, which poses no (health) problems at all,” Suga said.

(9)  “So (based on this, Abe) said (in Buenos Aires that) the effect has been totally blocked” within the bay of Fukushima No. 1, Suga said.

(10)  However, Suga did not answer repeated questions on the possibility that the density readings might be lower simply because tainted water is being diluted with massive amounts of seawater, and not because Tepco or the government has the situation “under control” as Abe claimed.

(11)  Jota Kanda, a professor at Tokyo University of Marine Science and Technology, pointed out that densities of radioactive materials within the artificial bay have stopped falling recently, despite the huge amounts of seawater that flow in and out every day.

(12)  This indicates a certain amount of new radioactive materials are flowing nonstop from the plant’s wrecked reactor buildings into the sea, he said.

(13)  Kanda, however, also noted that the total amount of radioactive materials detected in contaminated water samples has been so low that it is unlikely to pose any danger to human health.

(14)  Surveys of fish caught around Japan’s shores have shown no alarming concentrations of radioactive materials in recent months.

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【解説】


(0)  Abe's nuke assurance to IOC questioned

  nukeは「核兵器」の訳語が載っている辞書が多いが、何冊か調べたら「原子力発電所」という語義が載っていた。'COLLINS ENGLISH DICTIONARY'のハード-カバーにあったが、Advanced Learner's Dictionaryには載っていない。核兵器のはずがないから、原子力発電所という語彙が載っていることを辞書で確認するために英英辞書を5冊引いた。英文に慣れるとこういうふうに訳語に見当をつけてから辞書で確認するというような引き方が増えてくる。
 ネットで引用したほうの記事はわかりにくいnukeを使うのをやめてnuclear plantと書き直している。当然の配慮だろう。おそらく、新聞の見出しのほうは欄が狭くてnukeとせざるをえなかったのだろう。

 nuke:nuclear power plant

(0-1)  Abe’s assurance to IOC on nuclear plant called into question

 call into question: 疑問を投げかける


 重要な情報だから、安倍首相がオリンピック招致演説で何を言ったのか#2400から再掲しておこう。
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*「安倍首相の東京五輪招致スピーチ【全文】にIOCと世界が感動!
http://kjyn3282.com/?p=2562
「フクシマについてお案じの向きには、私から保証をいたします。状況は統御されています。東京には、いかなる悪影響にしろ、これまで及ぼしたことはなく、今後とも及ぼすことはありません。」
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 「状況は統御されている」は演説では
    'The situation is under control'
という英文になっていました。現在形が使われています。そんなことはあたりまえだと言わぬばかりの表現です。事故前からシルトフェンスを設置してあるから、洩れたって大丈夫なんだということだったのかもしれません。どういう気持ちで発言したかよくわかります。「カタチ・イミ・キモチ」はHirosuke先生の専売特許ですが、その通りですね。
 当然のことや普遍的な真理、繰り返される習慣を表現するのに現在形が用いられると高校1年生で習ったでしょう。単純現在形は案外使用できる範囲が狭い。

 では、次のように表現したらどうでしょう。

    'The situation has been under control'

 形が違うから、ニュアンスが違います、そして意味も。状況は統御されているというのは同じですが、いつから?という疑問が湧きます。この文章の末尾に'since Fukushima No.1 plant's crisis'という語が省略されているように感じます。危機対応のなんらかの具体的なアクションがあってから後、いままで状況が統御されているという風に聞こえます。原子力安全委員会は機能不全で空中分解し原子力規制委員会に変ったが相変わらず機能不全を呈しています。この困難な状況を管理下においている組織はどこにもありませんから、現在完了形は使えません。
 ちょっと形を変えてみましょう。

  'The situation just has been under control'

  貯水タンクから洩れているのを6月に見つけたが、原因はいまもってわからない。東京電力の対応は信用できないから、たったいま政府が直接汚染水問題を管理することにした。こんなニュアンスになります、ますます都合が悪くなりますね。(笑)
 お遊びはこれくらいにしておきましょう。またあとで個々の具体的な問題として俎上にのせます。


(1)  One question that emerged among the public immediately after Tokyo won the right to host the 2020 Olympics was whether Prime Minister Shinzo Abe made an incorrect statement, or told an outright lie, about the contaminated water issue at the Fukushima No. 1 nuclear plant.

  この文は主語が長いので、簡単にすると次のようになります。
 One question was whether Prime Minister Shinzo Abe made an incorrect statement, or told an outright lie・・・
(2020年オリンピック開催国の権利を獲得した直後に国民に浮上した疑問の一つは安倍首相が不正確な陳述をしたのかそれともシラーっと嘘をついたたのかということだった)

 受験英語としてみても参考になる構文ですね。参考文例として暗記しておいてもいいくらいです。参考書のwhetherのページの余白にこの文例を書き足しておきましょう。

(2)  During the Tokyo bid delegation’s final presentation before the International Olympic Committee in Buenos Aires on Saturday, Abe stressed that the “effects from the contaminated water have been perfectly blocked within the (artificial) bay” of the wrecked nuclear complex, and said “the situation is under control.”

 大事な箇所は次の部分です。
 Abe stressed that the “effects from the contaminated water have been perfectly blocked within the (artificial) bay” of the wrecked nuclear complex, and said “the situation is under control.”
(地震や津波で壊れてしまった福島第一原発の施設の一部である人工湾内に"汚染水は完全にブロックされており"、"状況は統御されている"と安倍首相は強調した)

 貯蔵タンクから洩れた8000万ベクレル/リットルの超高濃度汚染水は、排水路を通って人工埠頭から離れた南側から海へと流れ出ている。貯蔵タンクからの汚染水漏洩に関しては人工埠頭は役に立たない設計になっているのである。人工埠頭の南側数百メートル離れたところに貯蔵タンクからの排水溝の排出口がある。どうしてこんな設計にしたのか理解に苦しむ。
 他にも何基か貯蔵タンクからの漏れが確認されているが、最初に公表された貯蔵タンクからの流出量は300tだから合計24兆ベクレルもの放射性物質が人工埠頭の南側から太平洋へと流れ出たということになる。沿岸流が南に向かって岸伝いに下るから、茨城・千葉・神奈川辺りまで汚染されている。大きな川からの圧力を受けて沿岸流の一部は太平洋沖合いへと押し出され、黒潮の流れに乗って北上する。そして親潮と衝突して広く太平洋へと拡散しているのだろう。
“effects from the contaminated water have been perfectly blocked within the (artificial) bay”も'“the situation is under control.”も両方とも大嘘である。

(3)  Experts have long pointed out that irradiated water from the plant has kept gushing into the Pacific far beyond the man-made bay, although the government continues to claim that most radioactive materials have been contained within a silt fence that forms a barrier directly in front of reactor units 1 through 4. Reactors 1, 2 and 3 suffered core meltdowns in March 2011.

 ここでは’long’に注意しよう。助動詞haveとpointedの間に入っているので、副詞だ。「長い間」「久しく」という意味。
 irradiated waterは「放射能を浴びた水」という意味だから「(放射能)汚染水」と訳しておこう。あまり英和辞典の訳語にこだわると適切な日本語にならない場合があるので適切な日本語語彙を自分の引き出しから取り出そう。滑らかな日本語にするには、ふだんから日本語語彙を増やす努力が大切だ。それには語彙の多い日本語の本を大量に読み、辞書を引くのが効果がある、言われずともわかっているだろう。
 次の文は受験英語でも押さえておきたい大事な箇所だ。「keep+~ing」の用例です。使っている参考書の余白へ書き込んでおきましょう。
 irradiated water from the plant has kept gushing into the Pacific far beyond the man-made bay,
 ((専門家は以前からつぎのように言っている、)フクシマ第一原発から流出した放射能汚染水は人工湾を越えて太平洋へジャブジャブ出続けている)

 この後が情けない。
, although the government continues to claim that most radioactive materials have been contained within a silt fence that forms a barrier directly in front of reactor units 1 through 4. Reactors 1, 2 and 3 suffered core meltdowns in March 2011.
((証拠は明白)それにも関わらず、2011年3月にメルトダウンした1・2・3号機と4号機の後ろ側(の人工埠頭内)に設置したシルトフェンス内にほとんどの放射性物質が閉じ込められていると政府は主張し続けているのである)

 シルトフェンスのsiltとは川の曲がり角の部分にたまる微粒子の砂や泥のことを指す。浮の下にカーテンがぶら下がっていると思えばいい。そのカーテンに流れが当たって粒子の細かい砂粒や泥が沈降するのである。カーテンの下は何もないからそのまま汚染水はすり抜けていく。放射性物質は砂粒や泥の粒子に比べたら、問題にならないくらい小さいから、こんなものが役に立つはずがない。目に見える形でフェンスがあれば効き目があるように見えるだけで、実際には気休めである。
silt: sand or soil which is carried along by flowing water and then dropped, especially at a bend in a river or at river's openings.

 ちょっと脱線させてもらいたい。英英辞典を読むのが楽しくなれば一人前の大学生です。英英辞典でイメージを抑えたら、日本語語彙への置き換えは自分の頭の中にある日本語語彙の中からイメージの近いものを選ぶ。引き出しの数の少ない者がいくらがんばっても滑らかな日本語にはならぬから、勝負はそれまで培ってきた日本語語彙の大きさにかかっている。
 私の語彙力なんて実にちっぽけなものだ。ラフカディオ・ハーンの翻訳をしている平井呈一の作品を読んだらいい。この人は『断腸亭日乗』の作者永井荷風の弟子だ。師匠が破門するくらいの問題児だがセンスはいい。
 高校生と大学生へ向けて書いているからどんどん脱線しちゃうよ。友人の遠藤利國の著書『明治五年九月のほととぎす』(2010年刊、未知谷)にラフカディオ・ハーンの章があります。ハーンの雑録の中に熊本で老人から聞いた幕末の話しが131ページから135ページに載っています。橋の上で殺人が行われますが、読んでいて呼吸が止まってしまうほどの緊迫感がビンビン伝わってくる平井の名訳を楽しんでもらいたい。実に切れる日本語で、永井荷風が可愛がった気持ちがよくわかります。日本語の切れのよさでは荷風に勝るとも劣らない、こんな弟子がいたのだから荷風はさぞ幸せだったでしょうね。平井は私が5年間勤務していた産業用エレクトロニクスの輸入商社の本社があった人形町に住んでいたことがあるようです。親子丼の元祖「玉秀」、人形町交差点のトンカツ専門店「キラク」はポークソテーや牛カツも抜群の美味しさだった、名前を忘れてしまったが天麩羅専門店、牛肉の「今半」、狭い小路にひっそりとおかゆの美味しい「よし梅」などいい店がたくさんある。水天宮も近いから、機会があったら散策してみたらいい。ebisuは人形町で5年間仕事していた。 

(4)  The silt fence was deliberately set up with many openings so it can withstand waves and tidal movements.

 記者はシルトフェンスが役立たずであることをはっきり書いている。

(シルトフェンスには多くの開口部が作られているので、波や潮流に耐えられる)

 浮の部分も規則的に切れて流れがその上を超える。波や水の流れの圧力を逃がすためにそういう構造になっている。だから、水をせき止めるような仕組みではない。浮の下にぶら下がっているカーテンはもちろん途中で切れており、海底まで届いていない。上からも下からも汚染水はシルトフェンスを越えて流れ出ているのだ。
 シルトフェンスがどんなものか写真が載っているサイトが二つあったのでURLを書いておく。両方見てくれるとよくわかる。

*シルトフェンス
http://www.asahi-kasei.co.jp/agt/kankyou/jp/siltfence/
http://www.maedakosen.jp/product/odakubousi/g-1.html


(5)  When disclosing the results of a simulation last month, Tokyo Electric Power Co. admitted that a lot of water — and probably radioactive materials — was penetrating the fence and pouring into the wider ocean. The simulation assumed that 50 percent of the water inside the fence becomes mixed with seawater daily due to tides and other factors.

 この段落は和訳するのに何の問題もないだろう。
(先月シミュレーションの結果を公表したときに、東京電力はたくさんの水ーとたぶん放射性物質ーはシルトフェンスを通り抜けて太平洋へと流出していることを認めていた。このシミュレーションはフェンス内の水の半分が潮流やその他の要因で毎日海水と混ざると想定していた。)

 この文の意味するところは案外曲者なのです。気をつけなければならないのはこの句です。
  'due to tides and other factors'
 潮流とその他の要因とはなんでしょう?この人工埠頭は海から海水を取水し、原子炉内で温められた蒸気を冷やすために利用していました。利用された高温の海水はそのままこの人工埠頭へ排水され、太平洋へと流れるようにデザインされているのです。「その他の要因」とは元々そのように設計されているということでしょう。

(6)  Tepco, based on the findings, concluded that a maximum of 10 trillion becquerels of radioactive strontium-90 and a further 20 trillion becquerels of cesium-137 may have reached the ocean.

 この段落では洩れでた放射性物質の量が示されていますが、なぜかトリチウムが省かれています。好い加減ですね。
(調査結果に基いて、東京電力は以下のような結論に至っています。ストロンチウム10兆ベクレルとセシウム20兆ベクレルが太平洋にすでに流出したかもしれない)
 これらの他にトリチウムが40兆ベクレル流出しています。
 ここまで書けば気がついた読者も多いでしょう。

 8000万ベクレル/リットル×1000×3000t=24兆ベクレル

 これが放射性物質の流出量になるはずですが、東京電力の計算・公表値では70兆ベクレルです。逆算すると、2億3333万ベクレル/㍑もの超高濃度汚染水が貯蔵タンク内に保管されていたことになります。どうやら東京電力が8000万ベクレル/㍑と公表した数値はセシウムだけの量のようです。ストロンチウムと併せると1億2千万ベクレル/㍑だったということになります。リットル当たり億の単位では反響が大きくなるのを恐れて公表数値を操作したのでしょう。正しくは2億3333万ベクレル/㍑でした。
 東電の別の資料によればトリチウムの量はセシウムの2倍で、ストロンチウムがセシウムの0.5倍です。
 8000万Bq/kg×2.5倍=2億Bq/kg
 東電の公表数値から逆算した2.3億Bq/kgに近い数字になります。つまり、8000万Bq/kgは平均値よりも十数%低いということになります。タンクに貯蔵されている汚染水の平均値は2.3億Bq/kgだと考えていいのでしょう。

 これからは東京電力が放射能量を公表するときに、それはセシウムのみの量なのか、ストロンチウムを含むのか、トリチウムを含んだものなのかを記者たちは質問してほしいと思います。東京電力はこのような姑息な操作をやめて、正直に内訳数値を一緒に公表すべきです。

 さて、これでも「状況は統御されている」のでしょうか。小学生だって安倍首相の言が大嘘だということがわかるでしょう。

findingsは「調査研究」あるいは「調査結果」ぐらいの日本語がいい。これも英和辞典があまり宛にならない例に挙げていいのかな。

(7)  At a news conference Tuesday, Chief Cabinet Secretary Yoshihide Suga admitted that contaminated water has escaped through the silt fence. But at the same time, he stressed that surveys have shown that the levels of radioactive materials in coastal waters around the nation, including off Fukushima Prefecture, are far lower than international safety thresholds.

 菅官房長官の苦しい言い訳がこの段落の内容である。なんにもナイヨウ、そして情けナイヨウ。
 菅氏はシルトフェンスを越えて汚染水が太平洋へと流出したことを認めている。問題はその後だ。
 But at the same time, he stressed that surveys have shown that the levels of radioactive materials in coastal waters around the nation, including off Fukushima Prefecture, are far lower than international safety thresholds.

watersとsがついていることに気がついているかな?これは物質名詞の「水」という意味ではなくて、可算名詞の「水域」だ。いくつも水がある場面が想像できたかな?こういう語は辞書を引かなくてもイメージだけでどういう日本語語彙がふさわしいか見当がつく。

(太平洋への流出を認めながら、次のように言訳している。日本列島沿岸の海水に含まれる放射性物質は国際安全基準に照らしてもずっと低いということが各種の調査で明らかになっていると菅氏は強調)

 バカを言っちゃいけない、沿岸流に乗って南下し、大きな川からの圧力で何度も沖合いへと押し出され黒潮の流れに乗って北上し、北から下ってくる親潮とぶつかりそこから広く太平洋全域へと汚染が拡大する。これだけ薄めりゃ100ベクレル/㍑の放射性廃棄物管理基準値をクリアするのはあたりまえだろう。太平洋の水が100ベクレル/kgを越えたら太平洋で獲れた水産物を人間が口にできるわけはない。言い訳もここまで来るともう気が違ったのかと思わざるを得ない。知性以前に人間の品格を疑う。

(8)  “Even at the maximum, the density of (radioactive) cesium is less than one-five hundredth of the World Health Organization standards for drinking water, which poses no (health) problems at all,” Suga said.

 菅氏はここで飲料水についてのWHO基準値を持ち出す。
(最大値をとっても、放射性セシウムの濃度はWHOの飲料水基準の500分の1以下である、この基準値はまったく健康上の問題を起こさないとされている濃度だ)

 WHOの飲料水の基準値は放射性セシウムに関しては10Bq/kgである。それの500分の1では0.02Bq/kgである。実測定値が0.02Bq/kgだったのだろうか?水産庁が公表している魚のセシウム含有量の検出限界値は数Bq/kg単位である。どれくらいの性能の装置があるのかわからないが、1検体を計測するのに数週間かけなければならないだろう。
 ところで日本の食品暫定基準は200Bq/ℓとなっている。kgもℓも同じだから、日本の飲料水基準はWHO基準値の20倍である、これはまずいのでは?

(9)  “So (based on this, Abe) said (in Buenos Aires that) the effect has been totally blocked” within the bay of Fukushima No. 1, Suga said.

 強引な我田引水の技。忠犬ハチ公ならぬ官房長官は、ここで安倍首相発言を擁護してみせる。
(こういうWHO基準に基いて安倍首相はフクシマ原発の人工湾内に放射能汚染水の影響が封じ込められていると言ったのです)

 事実は貯蔵タンクから300tの汚染水は排水路を通り、人工湾を数百メートル外れた南湾の排水路排出口から直接海へダダ洩れした。図面を見たらわかるよ菅君、君にだって人工埠頭とは別の方向に排水路が走っているのがわかるだろう。

(10)  However, Suga did not answer repeated questions on the possibility that the density readings might be lower simply because tainted water is being diluted with massive amounts of seawater, and not because Tepco or the government has the situation “under control” as Abe claimed.

 このあと菅官房長官は繰り返される記者からの質問に押し黙ってしまった。どんな質問か見よう。すこし構文が複雑だから、解説が必要だろう。
However, Suga did not answer repeated questions on the possibility that the density readings might be lower simply because tainted water is being diluted with massive amounts of seawater, and not because Tepco or the government has the situation “under control” as Abe claimed.

 単純化すると、
①Suga did not answer repeated questions on the possibility.
②that the density readings might be lower
③simply because tainted water is being diluted with massive amounts of seawater
④not because Tepco or the government has the situation “under control” as Abe claimed.

 ①(菅氏は~という可能性について繰り返される記者からの質問に答えられなかった)
 ②は①の質問の補足情報である、修飾語といってもよい。readingsは「測定値」である、「読み物」なんで日本語訳だと文脈から外れてしまうよ、常に文脈を頭に置きながらチェックして読まないととんでもない誤訳をしてしまうから要注意。文脈に合致しないときは別の意味があると推測して簡単な単語でも辞書に「訊く」こと。
 日本語の文章だって段落ごとにあるいは段落区切りのないだらだらした文章の文脈を読みながら内容を頭の中に再構成して読むんだ。日本語の文章でそういう読み方をしていない者が英文だけ文脈やロジックをたどりながら読めるなんてことはあるはずがない。

 (放射能濃度測定値が低いかもしれない)

 ここでmightを使ったところに注意しよう。助動詞は書き手の心的状態を微妙に表現する手段だから、筆者の意図を助動詞から読み取らなければならない。mayは可能性50%でないとも言えるしあるとも言えるのだが、mightは30%だからないほうに傾いている。たぶんに怪しいと思っているわけだ。なにが?(7)で菅氏はこのように言い切っている。
the levels of radioactive materials in coastal waters around the nation, (including off Fukushima Prefecture,) are far lower than international safety thresholds.

 比較すればわかるだろう、菅氏が現在形で語ったところを記者はmightを入れて表現している。
 修飾語にあたる節をみやすいように括弧で括っておいた。areの手前までが主語だ。菅氏は「日本を取り囲む水域の放射性物質の濃度レベルは国際基準(WHO基準)よりもずーっと低い」と言い切っている。記者はそのことに?マークをつけるためにmightを使った。「そうかもしれないがそれはトリックだよ」と示唆しており、その論拠を示さなければならぬ。
 次の節がちゃーんと説明してくれている。つまりmightは次に何がくるかを予告している。そこに気がつけばつねに書き手の論理展開を予測しながら楽に読める。助動詞選択に込められた筆者の意図を理解するのはとっても楽しいものなのです。「やっぱりそうきたか」と微笑みながら読める。

 後置されている文は前の文の補足説明である場合が多い、こういう原則を知って読み進むと論説文は楽だ。長文になるほど文脈を頼りにシーンを頭の中に再構成しながら読むから読みやすくなる。
 ③をみよう。
 (理由は単純、汚染水は大量の海水で薄められただけだ(だから測定値が低い))

 ④は③と対比されている。
and not because Tepco or the government has the situation “under control” as Abe claimed.

 「simply because A and not because B」だから「Bという理由ではなくて単純にAという理由だ」
 バカを言っちゃいけないよというのがこの後の補足の文Bだ。つねに前のことの補足が後に続くことを体験的に理解してもらいたい。
(東京電力あるいは政府が、安倍首相が主張するように、状況を管理下においているからという理由ではないんだ(なにしろダダ洩れしているのだから、排水路の設計を見たら誰にでもわかる、もともと排水路の設計ミスがある))

 まとめてみよう。
(ここまでは菅氏は滔々と説明していたのだが、測定値が低いのは汚染水が膨大な量の海水で薄められたからであって、阿部首相が言ったように東京電力あるいは政府が状況を管理下においているからではないという可能性がありはしないかとの質問を浴びて押し黙ったのである)

 海水の放射能濃度が低いのは、人体にただちに影響がでるような高濃度の汚染水を300t、70兆ベクレルも垂れ流しても、太平洋の膨大な量の水で薄められたからであって、東京電力あるいは政府が状況をコントロールできているからではない。
 どうかな?英字新聞を読む楽しみがすこしわかり始めたかな?

(11)  Jota Kanda, a professor at Tokyo University of Marine Science and Technology, pointed out that densities of radioactive materials within the artificial bay have stopped falling recently, despite the huge amounts of seawater that flow in and out every day.

 ここは専門家の発言だ。安倍首相に直接の関わりがない、利害関係ナシの学者の意見だ。
 見慣れない大学名がでてくるが、東京海洋大学で、旧東京商船大学と旧東京水産大学が統合されてできた学校である。その大学の神田教授が次のように指摘している。

(人工湾内の放射性物質の濃度が最近下がらなくなっている、膨大な量の海水が毎日毎日流れ込み流れ出ているにもかかわらず)

 神田教授は東京電力の測定値をモニタリングしているのだろう。海水中の放射能濃度が下がらないということは、毎日大量の放射性物質が人工湾内へ流出している事実を示すものだ。貯蔵タンクからの汚染水は人工湾内へは排出されていないから、汚染地下水が人工湾内へ流出しだしたと考えるのが合理的だ。地下水の流速から計算すると数ヶ月先にはたいへんな濃度の汚染地下水が人工湾内へ流出する。人工湾内の海水中の放射性物質濃度のモニタリングを強化すべきなのだろう。神田教授も同じように考えている。次の(12)に書かれている。

(12)  This indicates a certain amount of new radioactive materials are flowing nonstop from the plant’s wrecked reactor buildings into the sea, he said.

 (上述の事態(人工湾内の海水中の放射性物質の濃度が下がらない)は破壊された原子炉建屋内から一定量の放射性物質が流出し続けている事実を現すものである)

(13)  Kanda, however, also noted that the total amount of radioactive materials detected in contaminated water samples has been so low that it is unlikely to pose any danger to human health.

(神田教授は次のように補足説明している。人工湾内の汚染海水サンプルから検出されている放射性物質の総量は低いので、人体に危険を呈するほどではない)

 科学者が数値を示さないでこんな言い方をしたのだろうか?記者が数値をカットしたのだろうか?そして微妙な言い回しだ、「ただちに健康に影響があるものではない」という言葉に私たちは数ヶ月間だまされた経験があるからだ。こういう学者の発言は用心深く受け止めなければ私たちは単なる衆愚に成り下がり、情報操作の対象となる。中高生はこんなばかばかしいレトリックにだまされないようにしっかり勉強しておこう。
 ついでに言っちゃうよ。NHK科学文化部のミズノノリユキという解説委員は事故後しばらくの間、あこちの番組に出ずっぱりで「健康にただちに影響があるとはいえない」と繰り返した。いまもときどき出ている、汚染水問題では東京電力は管理ができていないとイケシャアシャアと解説していた。恥も外聞もないこういう輩がいるから、かならず自分の頭でよくよく考えてみることだ。だまされないだけの基礎学力を充実し、好奇心の赴くままに知識を広げ、日々智慧を磨き続けたらいい。
 
(14)  Surveys of fish caught around Japan’s shores have shown no alarming concentrations of radioactive materials in recent months.

 さて、長い散歩もようやく終わりである。
(日本沿岸や沖合いで捕獲された魚の放射能汚染濃度調査によれば、最近数ヶ月間は放射性濃度に問題が出ていない)

 よくみたらいい、セシウムは白身魚に問題が出ている、筋肉に蓄積されるからだ。秋刀魚のように脂身の強い青み魚は白身魚に比べるとずっと問題が少ない。標本数が十分とはいえないし、ばらつきが大きいから用心したほうがいい。
 最後の文は筆者の論なのか神田教授の主張なのかがはっきりしない。引用符がついていないのでebisuは筆者の記事のまとめ論と受け取った。水産庁のデータをネット上で閲覧したのだろう。ところがこれら各種の放射能汚染データそのものに原子力規制委員会の専門部会から疑問が呈されている。測定の仕方が区々(マチマチ)で相互比較ができないというのである。標準測定作業手順を定める必要があるのだろう。これらの測定データを継時的に比較できるように揃えて次の原発事故の際に役に立つように整備することは日本の義務である。
 筆者は結論で、太平洋の水で十分に薄まり問題がないというのである。これなら日本国内でこれから先も原発事故がいくつ起きても太平洋の水量は膨大にあるから大丈夫だと言っていることに等しい。せっかくのいい記事が最後のまとめで肩透かしを食らったような気分である。もっとまともな結論が書けたはずだが、そうしなかった。臥龍点睛を欠く。次は、しっかりした結論の記事を書いてもらいたい。

 読んだ事実や推定をどのように考えるかはあなた次第である。私たちの子ども達や孫達、友人達やその子どもや孫達、そして人類の未来を考えたときに、どういう方向で、どのようなスタンスで考えるのが正しいのか、冷静に考え、なすべきことをなそう。

 ひとつ気になっていることを書いておく。放射性トリチウムの内部被曝による人体への影響が気になっている。杞憂ならいいのだが・・・
 Hirosukeさんがトリチウムについてウィキペディアの情報をコメント欄へ書き込んでくれた。
 大量のトリチウムが放出されていることは皆さんご存知だろう。貯蔵タンクの汚染水たった300t分で40兆ベクレルもある。トリチウムは水の形で存在するから、海水に混ざればそのまま水蒸気となり雨になって降り注ぐ。そして地面が乾くとまた水蒸気となるから、常時呼吸によって内部被曝することになる。トリチウムの放出するベター線は皮膚すら通さないほどエネルギーが小さいから、外部被曝による人体への影響はほとんど考えなくてもいいのかもしれないが、内部被曝は事情がまるで違う。呼吸器から入ったトリチウムの微粒子は肺胞細胞に吸着するから、距離がゼロである。放射能の影響は放射性物質からの距離の3乗に反比例して小さくなるから、距離がゼロだとその影響は数学上は無限大である。実験結果は理屈通りとはならないだろうが、それに近いことになるのではないかと危惧している。トリチウムは水の形で存在しているから、周囲を汚染したら内部被曝は避けられない。どなたか、ラットやマウスで実験をして、結果を公表してもらいたい。

 さて気になっていることも含めて全部書いた、最後まで付き合ってくれた読者のみなさんに感謝申し上げたい。
 若い人たちが、興味をもって読んでくれたら、ブログ管理者としては幸せこの上ない。

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*#1254 経済成長論の終焉 Oct.24, 2010 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-10-24-1

 #1460 「原子炉圧力容器損傷か?:写真で検証」
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-04-03-1

 #1462 「裸の王様:原子炉圧力容器は破損している 論より証拠、よく写真を見てごらん 」
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-04-05

 #1463 「福島第1原発3号炉はもう無い:東京電力社員退去要請の意味」
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-04-06

 #1607 児玉龍彦国会で告発(2):(書き起こし) July 31, 2011 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-07-31

 #1611 児玉龍彦教授(3):息子さんからのエール Aug. 3, 2011 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-08-02-1

 #1655 あらら、何を隠そうとしているの?:原子炉建屋にコンクリートの覆い Sep.21, 2011 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-09-21

 #2237 過剰富裕化論提唱者の福島原発事故処理構想:遺稿 Mar. 4, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-03-04

 #2323 次の原発事故のために(1):甲状腺癌と情報操作?:U.N. experts see no increase risk of cancer … Jun. 6, 2013
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-06-06

 #2324 次の原発事故のために(2) :福島県で12人が甲状腺癌 Jun. 7, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-06-07

 #2325 次の原発事故のために(3):Tyroid cancer hits 12 kids in Fukushima: Jun. 8, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-06-08

 #2340 米国の現実:核廃棄物は管理不能 Jun. 25, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-06-25

 #2377 次の原発事故のために(4):小児甲状腺癌18人に  Aug. 21, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-08-21

 #2379 次の原発事故のために(5) 8000万ベクレル/ℓ 高濃度汚染水漏洩 Aug.22, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-08-22

 #2381 次の原発事故のために(6): 超高濃度汚染水と浄化システムALPS  Aug. 25, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-08-24

 #2383 次の原発事故のために(7): 漏洩はセシウムとストロンチウム合計で30兆Bq  Aug. 26, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-08-27

 #2387 次の原発事故のために(8):トリチウムの問題 Aug. 29, 2013
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-08-29 

 #2390 サンマのI-131の濃度から放射能汚染水の大量流出は分かっていた Sep. 1, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-09-01

 #2394 次の原発事故のために(9):ついにロシアと米国の助けを借りることに  Sep. 3, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-09-03

 #2400 日本人の美質は消滅したのか? 東京オリンピック決定 Sep. 8, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-09-08


*#2401 消費税値上げ延期なら国債価格は下落 Failure to raise sales tax 'could hurt bond prices' Sep. 9, 2013
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-09-09

 #2403  構文解説編(#2401) Sep. 11, 2013 
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 #2714 底の抜けたバケツ : 放射能汚染との戦い June 24, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-06-24-1


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 ラフカディオ・ハーンの章131-135ページを読んでもらいたい。平井呈一の切れのよい日本語訳が載っている。

明治廿五年九月のほととぎす―子規見参

明治廿五年九月のほととぎす―子規見参

  • 作者: 遠藤 利國
  • 出版社/メーカー: 未知谷
  • 発売日: 2010/03
  • メディア: 単行本


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