#2386 『学力危機 教育で地域を守れ北海道』 :本の紹介 Aug.29, 2013 [64. 教育問題]
標題の本が8月21日にでた。友人の遠藤さんの著作『百%の真善美 ソクラテス裁判をめぐって』に2回目と林望現代語訳『謹訳源氏物語<十>』を読み終わったので、数時間前にツタヤ根室店に行って、岩波文庫『源氏物語<六>』と『ソクラテスの弁明』と一緒に取り寄せをお願いしたら、『学力危機』は在庫があるという。
「今日の新聞に大きく載っていた本ですよね」
「そう、北海道新聞にね」
ツタヤは不思議な本屋だ。根室店はさして大きくないのに取り寄せをお願いすると、意外な本の在庫があることがときどきある。そんなときはうれしいものだ。見えない仲間がいるようで・・・
この本は2011年8月から13年3月まで読売新聞紙面に掲載された記者たちの58回にわたる教育シリーズ記事総集編である。
全体の構想がいい、取材前に何人かで議論を重ねたのだろう。第1部が終わったらそれを踏まえて次の取材テーマを議論し、第2部の取材を始める。そして第3部、第4部、第5部と同じことを繰り返しながら、全体が有機的に関連の取れた構成に仕上がる。読売北海道支社の記者たち、仕事の段取りの腕前を見せ付けてくれた渾身の教育問題シリーズ。個別の取材を通して北海道に固有な問題を浮かび上がらせ、その上で具体的な「提言」を書いている。
190万人の札幌市民の皆さんも、19万人の釧路市民の皆さんも、2.8万人の根室の先生たちや保護者のみなさんも、是非お読みいただきたい。
子どもに本を読めという前に、親が本を読もう、反抗期の中学生にはゲンコツをお見舞いするのもいいが、たまには背中で教えることも大事だよ、お母さん達も心の中ではそう思っているが、機会がなかなかない。やってみようよ。こんな会話が親子でできたらいい。
「お、母さんめずらしく本を読んでいる」
「子どもは大事だ、おまえは家の宝だからね、母さんも勉強してるんだ」
この本は次のような6部構成になっている。
第1部 札幌の格差
第2部 札幌の"常識"
第3部 教師の力
第4部 低迷の深層
第5部 基本に返る
明日への提言
帯には札幌商工会議所会頭の高向巌氏の次の推薦文が載っている。
「北海道は自立が必要だ。
子ども達の学力を放置しておけば、
北海道の未来はない。
グローバル社会が進めば、
使われる側の人間ばかりになってしまう。」
タイミングよく全国一斉学力テスト結果が今日の新聞紙上に載っている。北海道新聞は夕刊一面の「直線曲線」というコラムに次のような文を載せた。
「学習の到達度を把握するはずなのに、血眼になる都道府県。何のために学力調査か。テストをコンテストにしてはならぬ。」
どうしてこんな論調になるのだろう。北海道新聞根室支局は数年前に4回教育シリーズ記事を載せてくれている*。あれはありがたかった。根室の教育の現状の貴重な記録となっている。小冊子にまとめて遺してもらいたい。
北海道新聞のコラムのご意見のように見当違いの批判があるので、全国学力テストの利用に仕方について一言書いておかねばならない。
私もメンバーの一人である「釧路の教育を考える会」は全国学力テストデータの学校別・科目別平均点の公開を要求している。全国最低レベルの釧路や根室の子ども達の学力を上げるためには、数値目標による管理が不可欠だからである。数値予算のない会社なんてないだろう。ところが、学校は学力の数値目標をもっていない。数値目標をもち、全国学力テストの結果をつき合わせて、効果を判定し、子ども達の学力向上を図るために全国学力テスト情報の学校別・科目別データを利用したいからである。
地域の子どもたちの学力向上なくして、地域経済の活性化もない。そういう意味では地域経済にとって地元に残る子ども達の学力向上は死活にかかわる問題なのである。
釧路も根室もこの数年間に限っても子ども達の学力低下が著しい。北海道の公立中学校で実施されている学力テストは1・2年生は5科目500点満点だが、10年前は400点以上が市街化地域の3校合計で50人以上いた。この3年間で急激に学力低下が生じて、400点超の高学力層は4~10人である。そして低学力層が膨らんだ。
3年生は5科目300点満点だが、90点以下つまり3割以下の得点層がほぼ三人に一人となっている。高校なら赤点である。
こういう状況にあるにも関わらず、根室市教委も学校も危機意識が薄い。地元経済界も学力問題に関しては概して関心が薄い。いま市議選の最中だが、市議会でも教育問題の議論がほとんどない。
最近C中学校と一番古い小学校が連携して学力向上に動き出しているので、わたしは注目している。この動きが継続し、広がることを期待している。
【札幌】
10年間滞在した中国から秋に帰国した札幌の60代の男性は「学力向上は北海道にとって経済面で死活問題だ」として上で、「教育という重要な問題への市民の関心の薄さが、教育委員会の責任放棄を招いている。なぜ学力調査をするのかという目的を真剣に考える必要がある。公金が使われる以上、市民がその結果に強い関心を持たなければ、突破口は開けない」と指摘した。(84ページ)
札幌も根室と同じだ、教育への市民の関心が薄い、そしてそれが市教委の責任放棄ともいえる無策を招いている。
【釧路】
昨年、釧路でシンポジウム「北海道の「学力危機」を考える」が開催された。基調講演を「釧路の教育を考える会」三木克敏副会長がやっている。高橋教一道教育長(当時)と村山紀昭元北海道教育大学長が加わって北海道の学力危機について討論している。その様子が136~143ページに載っているのでお読みいただきたい。
【根室】
第5部の冒頭に「深刻な語彙力不足」という章があるが、189ページに根室の中2の生徒の語彙力が載っている。当時札幌在住だった記者のNさんから電話取材を受けた。
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根室市の塾経営者(63)は最近、成績の芳しくない中学2年生4人に、語彙力を測る中学受験用ドリルを解かせて見たことがある。受験をする小6なら満点に近いはずだが、4人はほぼ半分以下の得点だった。
「このレベルだと、数学の文章題の数行の意味がつかめない。『てにをは』を読み違える」。藤原正彦さんのベストセラー『国家の品格』を音読させると、1ページに何箇所も読めない漢字があった。
「語彙力不足を彼ら自身に痛感させる必要がある。語彙力がないいまのままの学力向上はない」。そんな塾経営者の言葉を、学校や家庭は真剣に受け止めるべきではないだろうか。
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少し補足しておきたい。こういうレベルだと、先生が授業で話す言葉を頭の中で適切な漢字に置き換えられないから、授業内容が理解できない。わからない語彙はそのままパスだ、わかったつもりでまったく違う漢字に変換している場合もしばしば起きる。語彙力不足から深刻な学力障害を起こし、なかなかそこから脱皮できない。加えて、生活習慣が壊れているケースが多い。家で勉強をしない、本を読まない、この二つはほぼ共通している。これにコンピュータゲームやスマホが大好きで夢中になっていたら、まともな学力がつくはずがない。スマホ中毒やコンピュータゲーム中毒は心療内科で治療しなければいけない生徒が10%はいるだろう。団塊世代の頃に比べると高性能機器が身近にあり、学習環境ははるかに悪化している。
韓国ではすでに社会問題となっている、日本もその後を確実に追っているので、弊ブログ#2380で「スマホ中毒」を取り上げた。
相当厄介な問題をはらんでいるが、学校と家庭と地域社会が協力すれば根室の子ども達の学力は向上できる。
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*#2218 論旨の違う新聞報道:市PTA連合会主催講演会 Feb. 19, 2013
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-02-19
#1935 フリー授業参観に行こう:啓雲中学校 May 14, 2012
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-05-14
#1758 教育再考 根室の未来第 シリーズ4部⑤:新聞活用(北海道新聞) Dec. 1, 2011
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-12-01
#1757 教育再考 根室の未来第 シリーズ4部④:小中一貫教育(北海道新聞)
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-11-30-1
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