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#2323 次の原発事故のために(1):甲状腺癌と情報操作:U.N. experts see no increase risk of cancer … Jun. 6, 2013 [13. 東日本大震災&福島原発事故]

  国連科学委員会の調査報告書であるが、オリジナルの共同通信配信の英文記事と毎日新聞が報じた記事を比べてもらいたい。
 英文の記事は甲状腺癌(固形癌)の発症リスク増加を否定しているのであって、福島第一原発事故によってばら撒かれた死の灰による癌発症のリスクの増大はないとは書いていないのである。

 どこがどのように読み違えられたのか、ざっとみてみたい。
(1)は記事全体の俯瞰である。福島第一原子力発電所周辺住民の放射線被曝量がうんと低かったので「(手持ちの)データからは」癌が増加する懸念はない、「しかし、継続調査分析すべき」とも書いてある。

 毎日新聞の記事はこの部分に基いて見出しをつけたように見える。
「東日本大震災:福島第1原発事故 国連科学委、発がん危険性を否定 被ばく調査結果を発表 」
 具体的な論拠は(4)で示されているのだが、そこを見落としたのだろうか、それとも分かっていて意図的な情報操作をしたのだろうか。見落としたとすると担当記者の文章読解力の水準が疑われるし、会社のチェック体制が杜撰だということにもなるだろう。
 どうもステレオタイプの思考、意見の分類がされているように感じる。癌発症リスクの増大はないという意見はセンセーショナルであるし購読者をひきつけやすいから、そうした線に沿って記事を不用意に整理してしまう傾向がありはしないか。
 

(2)では、この地域の多数の住民を避難させたので三つの原子炉のメルトダウンの後、被曝線量減少に役に立った。

 これは本当だろうか?住民は避難していない。NHKは職員を避難させたのに、NHK科学文化部のMはテレビで繰り返し「ただちに健康に害があるわけではない」と言った。
 チェルノブイリではロシアは1200台のバスをチャータしてすぐに住民を原子炉周辺から避難させたのだが、日本政府は爆発の後、枝野官房長官が「ただちに健康に害があるわけではない」と何十回となく言い、それゆえ何もしていない。「健康に害がない」のだから避難する必要もなかったのである。子どもたちは原子炉周辺にとどまり、放射性ヨードを大量に被曝してしまった。その半減期は8日だから1ヶ月もすれば16分の1になるのだから、事故後千台のバスで周辺住民をただちに避難させるべきだった。
 国連科学委員会は当時の避難状況をきちんと調べたのだろうか?どうやら事実誤認がある。

(3)甲状腺癌に関連するヨードの被曝線量は50mSv以下であり、ヨード阻害剤が子供たちに配られた。66mSvの被曝をした子供もいることを注記している。
 ヨード阻害剤は配られたのだろうか?「ただちに健康に害があるわけではない」とテレビで言い続けていたから、その現に従えばヨード阻害剤を配る必要はないし、配らなかったように記憶しているのだが、枝野官房長官の言明にも関わらず、現場の担当者達が勝手に配ったのだろうか?私の記憶が違っているのだろうか?

(4)セシウム131と137の被曝線量が15mSvの大人がいるが、固形癌発症リスクを増加させる閾値(100mSv)よりも低いと主張している。

 ここは慎重な言い方で、情報操作の核心である。(1)では癌発症のリスクが増加する恐れはないと言っているが、(4)をみると甲状腺癌の発症リスクを増大させるものではないと具体的になっている。高線量被曝で固形癌である甲状腺癌を発症するリスクを増大させるものではないと言っているだけなのだ。
 したがって、白血病も将来子供を生むときの奇形も低線量内部被曝によって起きる遺伝子障害が原因で起きるさまざまな病気のことは一切言及していない。
 チェルノブイリ周辺国では奇形が増大している。小児癌も、成人の癌も、しかし、因果関係は証明できないのである。いま福島で壮大な人体実験が行われている。
 気をつけておきたいのは日本の法律では年間1mSvを超える被曝は法令違反だということ。

(5)ではチェルノブイリの例が挙げられている。放射能汚染した牛乳を飲み続けたから子供たちが甲状腺癌を発症したが、福島の子どもたちは放射能汚染された牛乳を飲んでいないから大丈夫だというのである。

 チェルノブイリで甲状腺嚢胞や結節を生じた子供たちは1.7%であるが、福島の子どもたちは40%が嚢胞や結節を生じている。チェルノブイリとは比較にならない。チェルノブイリ周辺の子どもたちはバスでただちに避難したが、福島の子どもたちは被曝線量が高い数週間現地に居つづけ被曝した。裾野が広ければ将来甲状腺癌やその他の癌を発症するリスクはチェルノブイリの比ではない可能性が大というのが、あたりまえの結論のはずだが、国連科学委はまったく異なる結論を下している。

(6) この国連科学委員会の結論はWHOが2月に出した報告書と著しく異なっている。WHOは周辺住民の癌発症リスクは高くなったと報告書に書いている。国連科学委員会はまったく異なる結論となった理由を分析して(7)でその理由を述べている。

(7) WHOはメルトダウン後、3ヶ月のデータを使って分析しているが、国連科学委員会はその後に集められたデータから作成された正確な放射線被曝分布データ、そして細心の研究成果を取り込んで分析をしている。
 自分達のほうが正しいのだと、我田引水の理屈を展開しているが、さまざまな核種の実測データがはたして提供されているのだろうか?3号機は爆発の原因も爆発そのものがなんだったのかも明らかにされてはいないのである。爆発時の映像を見ると、オレンジ色の閃光が走り、爆発直後に空から大きなコンクリートの塊がバラバラ落ちてくるのが映っていた。あんな大きなコンクリートの塊は格納容器のフタ以外に考えられるのだろうか。格納容器の上部が吹っ飛んだと思われるがMOX燃料もかなりの量が飛び散った可能性がある。3号建屋内部の映像は公開されていない。
 そんな状況があるから、国連科学委員会も排出された放射性物質の量や影響をかなり過小評価してしまっているのではないだろうか。

(8) 二人だけ福島第一原発で作業していた労働者がメルトダウン直後に12mSvの放射性ヨードの被曝をしている。異常は認められないが経過観察中と報告書には書かれている。
 従事していた労働者の人数も個人の特定もできないことが数ヶ月してからばれた。放射線量を測るフィルムバッチを外して作業していたこともバレている。実際の作業者の被曝実態はこんな軽度なものではないだろう。

(9) 国連科学委員会はこの報告書に但し書きをつけている。報告書は動物や植物そしてそのほかの生物種にふりそそいだ死の灰の影響に関する情報を限定するのみであり、とくに太平洋への死の灰の影響に関する追跡調査・研究を要請している。

 この調査報告書もまた、福島第一原発事故による放射能汚染の影響全体を検討したものではないことを告白している。
 「発ガン危険性を否定」したものではなく、メルトダウン直後に起きた半減期8日の放射性ヨードによる甲状腺癌リスク増大を否定しただけである。
 しかしながら、40%もの未成年に甲状腺嚢胞や結節ができていることは事実であり、チェルノブイリですらこうした症例が1.7%しか発生しなかったのに甲状腺癌が多発したことを考えるとぞっとする。福島はチェルノブイリの後を追っているように私には見える。

 国連科学委員会の調査報告書は、現地調査を踏まえたものではないようだ。事実認識についてもいくつか触れておいたが、誤認がある。まともな調査報告書と言えるのだろうか?


http://www.japantimes.co.jp/news/2013/06/02/national/u-n-experts-see-no-increased-risk-of-cancer-for-residents-near-no-1-plant/
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U.N. experts see no increased risk of cancer for residents near No. 1 plant

  • Jun 2, 2013 

Vienna KYODO

(1)  U.N. scientists assessing the health impact of the wrecked Fukushima No. 1 nuclear plant on local residents said their estimates show the radiation doses are so low they do not expect to see any increase in cancer rates, based on data obtained so far, although they also urged follow-up studies.

(2)  The U.N. Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation also noted in a report Friday that the prompt evacuation of many residents from areas around the power station helped to reduce exposure from radioactive substances after three of its reactors suffered meltdowns in March 2011.

(3)  The committee estimated residents’ dose of radioactive iodine, which is associated with thyroid cancer, to be less than the critical 50-millisievert level, above which preventive iodine tablets are issued to young children. However, it also noted cases of children who had been exposed to as much as 66 millisieverts.

(4)  Doses of up to 15 millisieverts of cesium-134 and -137 were found in adult residents, much lower than the 100-millisievert threshold considered to increase the risk of solid tumors.

(5)  In the 1986 Chernobyl catastrophe, many children consumed milk tainted with a high concentration of iodine, resulting in an increase in thyroid cancer. But the U.N. committee said the quick evacuation of the local population following the Fukushima meltdowns reduced radiation doses by a factor of 10. The doses were also limited because the consumption of produce contaminated with radioactive substances was for the most part averted.

(6)  The results differ markedly from those in a report published by the World Health Organization in February that warned of a higher cancer risk for residents and nuclear plant workers around the Fukushima No. 1 complex than the average rate for Japan’s entire population.

(7)  Addressing this discrepancy, the committee said the WHO had to base the models and parameters for its estimates on data from only the first three months after the meltdowns. The committee, on the other hand, made use of precise dose distributions from an additional year’s worth of data, allowing it to present more up-to-date findings.

(8)  As for the workers at the No. 1 plant, the committee confirmed that two received thyroid doses of up to 12 millisieverts as a result of inhaling iodine at the beginning of the crisis. They are under medical surveillance and nothing out of the ordinary has been observed so far regarding their health, according to the report.

(9)  The committee said it only had limited information on the impact of the radioactive fallout on animals, plants and other species, calling for follow-up research, particularly in the Pacific.

(10)  The panel held a five-day meeting in Vienna through Friday to discuss the effect of the Fukushima disaster on local residents and others. Its report is expected to be presented to this autumn’s session of the U.N. General Assembly.



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*「東日本大震災:福島第1原発事故 国連科学委、発がん危険性を否定 被ばく調査結果を発表

毎日新聞 2013年06月01日 東京朝刊」
https://blog.so-net.ne.jp/MyPage/blog/article/regist/input

**甲状腺嚢胞や結節のリスクと低線量被曝の影響を取り上げている関連記事のURL
http://www.best-worst.net/news_7PCPkrZ8E.html

***ぜひみてもらいたいビデオがある。
【意見映像】福島の子供の甲状腺に半端ない異常が起きてる件
http://www.youtube.com/watch?v=be9F21sxCIo


【6月7日追記】
 Hirosukeさんがコメント欄で18歳以下の未成年12人の甲状腺癌が確認されたと教えてくれた。産経ニュースが報じている。
「甲状腺がん 確定12人に 福島県民18歳以下」
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130605/dst13060508060003-n1.htm

武田邦彦ブログ
原子力と被曝 福島で甲状腺ガン50倍。国は子どもの退避を急げ!
http://takedanet.com/2013/02/10_6a83-1.html

 武田先生、いまごろおっしゃってもとっくに手遅れです。2年も経ってからでは放射性ヨードの半減期は8日ですから、2月の時点で1.547*10^(-26)です。1兆分の1よりもはるかに少ない、環境中にはほとんど残留していません。放射性セシウムやストロンチウムが問題でしょう。

 福島第一原発事故では、チェルノブイリを越える放射性コードの排出があったという假説がなりたちます。爆発の原因、爆発の規模、放出された放射性物質の各種ごとの量などわからないことだらけです。いまとなっては放射性ヨードのデータはとりようがありません。せめて放射性セシウムの地域ごとの実測データを残していくしかないでしょう。次の原発事故に備えるために・・・

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*「【東電】の【お仕事】・・・【元・TEPCO下請け会社の平社員】はミタ!!」
http://tada-de-english.blog.so-net.ne.jp/2013-08-24

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*#1254 経済成長論の終焉 Oct.24, 2010 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-10-24-1

 #1460 「原子炉圧力容器損傷か?:写真で検証
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-04-03-1

 #1462 「裸の王様:原子炉圧力容器は破損している 論より証拠、よく写真を見てごらん 」
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-04-05

 #1463 「福島第1原発3号炉はもう無い:東京電力社員退去要請の意味」
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-04-06

 #1607 児玉龍彦国会で告発(2):(書き起こし) July 31, 2011 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-07-31

 #1611 児玉龍彦教授(3):息子さんからのエール Aug. 3, 2011 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-08-02-1

 #1655 あらら、何を隠そうとしているの?:原子炉建屋にコンクリートの覆い Sep.21, 2011 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-09-21

 #2237 過剰富裕化論提唱者の福島原発事故処理構想:遺稿 Mar. 4, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-03-04

 #2323 次の原発事故のために(1):甲状腺癌と情報操作?:U.N. experts see no increase risk of cancer … Jun. 6, 2013
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-06-06

 #2324 次の原発事故のために(2) :福島県で12人が甲状腺癌 Jun. 7, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-06-07

 #2325 次の原発事故のために(3):Tyroid cancer hits 12 kids in Fukushima: Jun. 8, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-06-08

 #2377 次の原発事故のために(4):小児甲状腺癌18人に  Aug. 21, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-08-21

 #2379 次の原発事故のために(5) 8000万ベクレル/ℓ 高濃度汚染水漏洩 Aug.22, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-08-22

 #2381 次の原発事故のために(6): 超高濃度汚染水と浄化システムALPS  Aug. 25, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-08-24

 #2383 次の原発事故のために(7): 漏洩はセシウムとストロンチウム合計で30兆Bq  Aug. 26, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-08-27

 #2387 次の原発事故のために(8):トリチウムの問題 Aug. 29, 2013
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 #2390 サンマのI-131の濃度から放射能汚染水の大量流出は分かっていた Sep. 1, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-09-01



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Hirosuke

甲状腺がん「確定」12人に
2013年 06月05日 05時00分 提供元:共同通信

 福島県の「県民健康管理調査」の検討委員会を終え、記者会見する座長の星北斗常任理事=5日午後、福島市

東京電力福島第1原発事故による放射線の影響を調べている福島県の「県民健康管理調査」の検討委員会が5日、福島市で開かれ、甲状腺がんと診断が「確定」した人は前回2月から9人増え12人に、「がんの疑い」は15人になったとの結果が報告された。

甲状腺検査は、震災当時18歳以下の約36万人が対象。

検討委の星北斗座長は、記者会見で「現時点では放射線の影響を明らかに示すものではないと理解している」と述べた。
by Hirosuke (2013-06-07 07:05) 

ebisu

え、これは未成年が12人ということですか。

小児甲状腺癌は百万人に1~2人の確率でしか起きないというデータがあるようだから、未成年者にこんなに甲状腺癌が発生したら、原発事故でふりそそいだ放射能の影響を疑うのがあたりまえです。
18歳以下のデータかどうかが問題ですね。

爆発が起きた直後に子どもたちを千台のバスで避難させるべきでしたね。放射性ヨードは2ヶ月もすれば半減期が8日ですから1/128になります。
枝野官房長官が「ただちに健康に害があるわけではない」とテレビで言い続けた結果がこれ。2年経って害がハッキリし始めました。
当時総理大臣だった菅や官房長官だった枝野が「反省会」をやってましたが、ときどき笑いあいながらでしたね。まるで責任を感じていません。
安倍総理も原発再稼動派。
選挙をやっても選択肢がないですから意味がありませんね。
どうしてこんなに劣化してしまったのでしょう。
by ebisu (2013-06-07 09:12) 

ebisu

産経ニュースに載っていました。
18歳以下で一時検査が確定した17.4万人のうち甲状腺癌が確定したのが12人と出ていました。

36万人が対象だったかな?
まだ増えますね。

百万人に2人が標準発症率とすると福島県の18歳以下の甲状腺癌発症率率は34倍です。

福島第一原発事故でばら撒かれた放射能の影響を疑うのがあたりまえでしょう。サンプル数が大きいので統計的には有意な数字です。

産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130605/dst13060508060003-n1.htm
by ebisu (2013-06-07 11:00) 

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