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#2260 東西の古地図に見る日本・北海道・千島:展示会 Apr. 10, 2013 [22. 人物シリーズ]

 4月9日から20日まで根室市総合文化会館で標記展示会が開かれている。根室の考古学者である北構保男氏(大正6年生まれ、94歳)所蔵の古地図に元北大講師の秋月俊幸氏が解説をつけて120枚が展示されている。根室市教委と大地みらいの協賛だ。

 10時頃MTBに乗って展示会へ。会場には30人ほどのシニアが散らばって古地図に見入っていた。会場は根室高校生の帰り道に位置しているから、学校帰りに友だちを誘って見に行ったらいい。

 No.46のユーラシア大陸側から見た北海道と千島列島図は、これらの島々がロシアが太平洋へ出るのを邪魔しているようにみえる。どちらから見るかで「風景」がまったく違った趣をみせるのは意外の感がある。似た角度から(中国が下に、日本列島が上に弧状に描かれたもの、太平洋側にあるフタが日本列島)からみた日本列島地図を一昨年カレンダー仕立てにしたものを北構さんからいただいた。中国にとっても日本列島は太平洋へ出るための障害にみえる。ロシアも中国も日本列島は実に邪魔な存在なのだ。西側を下に東を上に配置した地図でユーラシア大陸側から日本列島を見るとまるで印象が違う。百聞は一見にしかず、見るべし。

 驚くべきは1821年伊能忠敬製作の日本地図である。測量技術の卓越さが際立つ。距離を測る道具を引きながら三角測量によって沿岸を描いていったのだろうが、現在の地図とほとんど同じだ。これほどの精度の地図*は同時代にはないから展示されている他の地図と見比べたらいい。三角比は高校1年で習うから、中高生はぜひこの地図を見て数学の威力を実感してもらいたい。
 伊能忠敬がどのように測量して歩いたかは『四千万歩の男<蝦夷編>』(上・下巻、井上ひさし著)を読んでもらいたい。本棚にあるのだが私はまだこの本を読んでいない。講談社文庫からも出ている。

(*江戸時代製作の対馬の地図を本で見たことがある。対馬藩が幕府に献上したものだが、海岸線が衛星写真と同じにみえる。どのような測量技術で描いたのか、不明である。伊能忠敬の精度を超えている。どういう技術屋さんがいたのだろう?伊能忠敬を超える地図作りの名人がいたことになるが、歴史上名前が残っていない。数学を応用した測量理論と実際の測量技術があったはずだが、伝えられていない。無名でも神業の域の職人がいろんな分野に存在したのだろう。マルクスの言うような工場労働ではこのようなしごとはできない、現在隘路となってしまっている資本主義経済を打破するために、経済学は職人仕事と職人文化にスポットライトを当てるべきだ。)

 展示会実行委員長の大地みらい信用金庫理事長遠藤修一氏は次のようにあいさつ文を寄せている。
「・・・主催者としては、お一人でも多くの地域の皆様がこの展示会においでくださることと、とくに次世代を担う子供さんたちに日本の北辺や郷土の歴史にいっそうの関心をおもちいただくことを期待させていただく私大です。」

 二度と見る機会はないかもしれない百葉の古地図、中高生にこそ見てほしい。こんなに多数の古地図を収集するにはお金もヒマも必要だ。個人でよくこんなに収集したものだ。

 北構保男氏は地元の印刷会社の会長だが、事業をやる傍ら考古学研究も続けて60代半ばで博士論文を書いて母校である國學院の文学博士の学位を取得している。実業と学問を両立させた稀有な郷土の先輩である。戦時中は文部省からの委嘱でベトナムの王族関係者に日本語を教えていたことがある。
 「北国賛歌」だったかな、作詞者の田塚源太郎先生(歯科医)と根室商業では同級生。どちらも大柄である。わたしはこの世代の根室人を何人か知っているし、東京暮らしも長かったので昔の東京を含めて共通の話題がいくつかある。「友人達は皆死んでしまった、昔のことを話せる人がいない、時々話し相手においで」と言われても、なかなか気軽にはいけないのである。
 40代半ばで市長選挙に立候補したことがあったが、敗れた。それを機に地元の政治にはかかわらなくなった、何度か理由をはっきり仰っていた。大きな声で遠慮なく物を言う型破りな人である。
 わたしは個人的なお付き合いがあって「先生」とお呼びしている。蔵書は3万冊、そのほか考古学資料も多数ある。ご自宅では保管しきれず数箇所に保管場所を確保している。この中には貴重なものが多数含まれているだろう。市教委と大地みらいが続けてこれらの資料に解説をつけて展示会をやってもらいたい。

【釧路でも古地図展示会を開けないか?】4月16日追記
 釧路市教委も道教委と協力して、古地図の展示会を開き、広く釧路市民が見られるような機会をつくってもらいたい。釧路は協賛している大地みらい信用金庫の営業基盤の一つでもあるのだから、釧路と根室が協力して一つの事業を成し遂げるいい機会だ。
 根室から視野を広げて根釧という視野で見ても、事業家であり学者でもある人材は他には見当たらないのだから。


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*#2264 なぜ松前藩だけが地図をつくれなかったのか?
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-04-15



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 間宮林蔵との出遭いがおもしろい。間宮は伊能を焼き殺そうとしたが失敗する。伊能は間宮の目つきが気に入らない。十数年後にこの二人が協力して蝦夷地図を完成させるのだから、事実は物語よりも不思議だ。

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コメント 2

ZAPPER

見に行きたいです!
ニムオロ塾さんにあった古地図のカレンダーに目が釘付けになったのでありました。(^o^)
by ZAPPER (2013-04-10 21:40) 

ebisu

これだけの古地図を収集した北構保男氏はわたしの仲人さんなのです。
実物が百枚もあるのは道内では根室だけかもしれませんね。
もっているのは知っていましたが、20枚くらいだと思っていました。
壮観でした、明日また見てきます。
釧路市教委で大地みらい信用金庫へ話しを通して釧路でも展示会をやらないかな?
素晴らしいコレクションです。
by ebisu (2013-04-10 22:34) 

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