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#2169 各論(1):国債暴落の可能性とその影響 Jan.2, 2012 [91.経済]

  国と地方の公債残高は来年1000兆円を超える。戦時経済でもないのにとんでもない金額の残高を積み上げてしまった。これでは第一次世界大戦に敗戦して巨額の賠償金を課せられたドイツの財政状況と変わらないのではないか。ドイツはハイパーインフレを起こした。
 消費税を30%にあげてもプライマリーバランスは回復できない。サヴァリン・リスクが高まりつつある。

 国債の金利がスペイン並みの7%になったらどうなるのか計算して見たい。話しを単純にするために100兆円の10年物の国債をもっているとしよう。償還期限まであと5年ある。0.7%の金利が7%になると、

100*(1+0.07*10年)=170兆円 (金利7%10年後の元利合計)
100*(1+0.007*10年)=107兆円 (金利0.7%10年後の元利合計)

 ⅹ*(1+0.07*10年)=107兆円、 ⅹ=62.9兆円
 Y*(1+0.07*5年)=100*(1+0.007*5)、 y=76.6兆円

 5年の償還期間を残した100兆円の国債は23.4兆円の評価損を計上することになる。
 2012年1月末で国内の銀行と郵貯銀行をあわせて国債の保有残高はおおよそ300兆円だから、国内銀行だけで70兆円の評価損計上となる。このほかに、生命保険会社が大量に国債を保有している。

 三菱UFJを例にとって計算してみたい。特に他意はない、ほかでも似たようなものだろう。
 2011年3月末の
   純資産額:   8.9兆円
   国債保有額: 44.9兆円
 上記の計算例で評価損を計上したとすると、
  44.9兆円*0.234=10.5兆円(評価損)

 金利がスペイン並みの7%に上昇するとこのシミュレーションの条件では三菱UFJは10.5兆円の有価証券評価損を計上して債務超過となる。
 2012年3月期の銀行保有の国債残高を見つけた。117行合計で166兆円である。同じ条件で有価証券評価損を計算してみると、
  166兆円*0.234=  38.8兆円(銀行)
  146.5兆円*0.234=34.3兆円(ゆうちょ銀行)

 銀行だけで合計73.1兆円の損失である。このほかに生命保険会社や年金基金も国債を保有しているから損失は100兆円を超えるかもしれぬ。
 2008年九月に起きたリーマンブラザーズの経営破綻(6000億㌦(¥80/$だと48兆円)の損失)にはじまるリーマンショックを想起して比べてみるとことの重大さや深刻さが理解できるだろう。米国のGDPは当時おおよそ日本の2.5倍だったが、いまは3倍。米国の2倍の損失が日本の金融機関に生じる可能性があるが、その影響を具体的に論じることのできる学者はいないだろう。影響が大きすぎて日本国内だけでも何が起きるかわからないし、国際的な影響もどこまで及ぶのか検討がつかぬ。 
  金利も7%になるのか10%になるのかさっぱりわからないから、これは事例を単純化した単なる思考実験に過ぎないのだが、大手都市銀行は行内からえりすぐりの者たちを集めてプロジェクト・チームを組んで現実的な対応策を検討し始めているだろう。

 長期国債金利が7%に上昇すると国内のほとんどの銀行が有価証券評価損で一時的な債務超過に陥る可能性のあることがこの思考実験からわかった。横並びの経営は危うい、ひとつコケたらみなコケる。
 どうしてこんなに国債を保有してしまったのだろう。行政と銀行の癒着も原因の一つに数え上げられる。日本の経営者はとかく安全でイージーな方向に横並びになるから、何かあったときにはほとんどに影響が及ぶ。自分の頭で考え抜いて、独自の方針でリスク回避を行うという有能な経営者が銀行業界にはいない。

 銀行は手持ちの長期国債を短期に切り換えていくことで逃げ切りたいが、それでは10年物長期国債の買い手が国内にいなくなる。長期国債の金利を上げないと市中消化ができなくなるから、日銀直接買い入れがそのための唯一の対策となるが、どこまで耐えうるか疑問あり。すでに100兆円ほど日銀は国債を保有している。
 日銀の直接買い入れがそれほどもちそうもない理由は各論を3つほど書いたところで明らかになるのだろう。

 日本国債暴落は他の要因と相乗効果が働いたり、連鎖反応で思わぬ結果を呼び寄せることになる。

 安倍新政権の金融緩和と財政出動は巨額の国債新規発行を伴い、結果として長期金利を上げることになる。プライマリーバランス回復のめどは30年先を考えても不可能であることが次第に明らかになり、通貨円への国際的な信用が下落していく。
 庶民にとっては、円安、インフレ、実質賃金の減少が同時に起きて、サヴァリン・リスクに怯えることになる。金融緩和と財政出動のどこがいいのだろう?ハイパーインフレが起きれば不動産や株をもっている個人や企業そして膨大な借金=国債を抱えて首の回らなくなった政府が巨利を得る。庶民は手持ちの金融資産(=国債や現預金)が泡と消えてしまう。
 新政権の無制限の金融緩和と200兆円の財政出動がこういうメカニズムで庶民の貯蓄を紙くずにし、生活に甚大な被害を与える可能性があるということだ。

 現実のメカニズム全体は重層構造をなしており、一つ一つのメカニズムが他のメカニズムと関係して作用を相互に増幅したり、打ち消しあったりしている。わたしは「思考実験」によってそのいくつかだけを取り上げ開示するのみ。

 マルクスはその著作『資本論』を何度か書き直して出版したが、国際市場関係の分析はしなかった。リカードの著作をみていたのと、「単純な関係」「交換関係」「生産関係」としだいに経済学的関係を複雑にしながら、現実の現象に近づこうとし、その一方で現実の経済学的諸関係があまりに複雑で変数も無限にあることを知り、記述を進めることをあきらめて経済学の体系を閉じたのだとわたしは推察している。
 そうした事情はいまも変わらぬ。だから、わたしは現実の壮大なメカニズムの歯車のいくつかを示しながら、未来に起きる可能性を語りたい。
 現実が必然的にそうなるという話しを期待された読者がいたら、残念ながらそういう期待には応えられない。それができるのは経済学者ではなく神様だけ。  

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 デカルト『方法序説』(岩波文庫)より
 <科学の四つの規則>
 第一は、わたしが明証的に新であると認めるのでなければ、どんなことも真として受け入れないことたっだ。言い換えれば、注意ぶかく速断と偏見を避けること、そして疑いをさしはさむ余地のまったくないほど明晰かつ判明に精神に現れるもの以外は、何もわたしの判断の中に入れないこと。
 第ニは、わたしが検討する難関の一つ一つを、できるだけ多くの、しかも問題をよりよく解くために必要な部分の小部分に分解すること。
 第三は、わたしの思考を順序に従って導くこと。そこでは、もっとも単純でもっとも認識しやすいものから始めて、少しずつ、階段を昇るようにして、もっとも複雑なものの認識にまで昇っていき、自然のままでは互いに前後の順序がつかないものの間にさえも順序を想定して進むこと。
 そして最後は、すべての場合に、完全な枚挙と全体にわたる見直しをして、なにも見落とさなかったと確信すること。(27、28ページ)
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 わたしは、塾生に複合問題の質問を受けるとデカルトの「四つの規則」の第二を引用して、その応用の仕方を数学の問題に即して解説することがある。そういうときには「第三」の規則が経済学体系の叙述に用いられている事実を指摘しておく。方法論に対する誤解が多くその重要性が理解されていないからだ。
 ニムオロ塾の授業は面白いが、授業の仕方がうまいからではない、多少奥行きがあるからである。知的好奇心への扉を開いてあげることができたらうれしい。

 わたしはゼミの市倉宏祐先生(フランス哲学)のもとで3年間、学部の講義の内田義彦先生(経済学史)、大学院で1年間増田史郎先生(ヨーロッパ経済史)の謦咳に接することができた。増田史郎先生にはたった三人の院生だけで『国民経済学体系』を一緒に読んでいただいた。あれは至福の時間だった。
 三人の先生はごく普通に授業されていて、授業技術が素晴らしいという感じを学生に与えることはなかったが、授業を通じて与えられたものはとてつもなく大きい。三人三様の学風、その一つ一つが本物だった。
 横浜の病院の常務理事をやっていたときに元大工の棟梁が営繕を担当してくれており、彼の作業場でときおり話しをうかがうことがあったが、棟梁も本物だった。5人弟子入りしたが残ったのは一人だけ、冬でも決して軍手をつけない。一度、「棟梁、なぜ軍手をしないんですか?」と聞いたら、「軍手をして仕事をしていたら、親方から手と仕事とどっちが大事だ?と問われそれ以来仕事中に軍手をつけたことはない」と修行時代のエピソードを語ってくれた。鉋や鋸を扱うときに指先の微妙な感覚が軍手をつけると伝わらなくなる、いい仕事をするためには仕事中に軍手をつけたらダメ。「仕事仲間の作業現場を訪れることがある、そんな折に手を後ろに組んで指先で柱を撫でてみる」、「ああ、腕を上げたな」と指先で柱を一撫でしただけでしただけでわかってしまうんだそうだ。一人前の職人になれるのは五人か十人に一人、修業は厳しいがそれに耐えられなければ仕事の技倆は上がらない。刃物の研ぎがよくないといい仕事はできないのは料理人も同じだ。
 本物に接する機会をもてたことは人生の幸せのひとつに数えられる。

 生徒諸君、行けたら東京の大学へ行け!


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  • sovereign risk (英辞郎より)
    カントリー[ソブリン]リスク◆政変や経済危機などによって、政府発行の証券や債権が償還できなくなる信用リスク。
    表現パターンcountry [sovereign] risk
  • http://eow.alc.co.jp/search?q=sovereign+risk&ref=sa
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    *「2012年3月16日号3面 国内銀行、国債保有・166兆円に 過去最高を記録」
    http://www.nikkin.co.jp/articles/show/1203150000208582

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    *#2164 歴史認識を欠いた安倍新政権の歴史的役割は何? 
     
    http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-12-28

     #2158 自民党圧勝294されど第2の危機:民主党惨敗  Dec.17, 2012 
     
    http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-12-18

     #2144 成長路線と金融緩和の罠 : 衆院選挙でナイトメアがはじまる 
     
    http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-11-30

     #1828 ゼロ金利の罠: Fed targets and transparency Feb. 3, 2012
     http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-02-03

     #829 国家財政破綻の瀬戸際  Dec.12, 2009
     http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2009-12-12

     #346 これから10年間の日本経済のシナリオ
     
    http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2008-10-10 

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