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#1781 北の勝:碓氷勝三郎商店 :"トップの決断 北の経営者たちより" Dec. 23, 2011 [15. ポジティヴ&ゆめ]

 12月22日付北海道新聞14面経済欄シリーズ「トップの決断 北の経営者たち」に碓氷勝三郎商店が採り上げられた。言わずと知れた北の勝、根室の老舗企業である。
 
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<トップの決断>
  《北の経営者たち》
 
碓氷勝三郎商店店主 碓氷ミナ子さん(68)
  「香りが弱い」 本醸造を出荷停止
   
うそをつかず真剣勝負
 「香りが弱い、うちのお酒ではない」―。1999年6月初旬の午前。酒蔵のタンクから茶碗に注いだ清酒「北の勝」本醸造の利き酒の瞬間、そう直感した。
 杜氏は「少し違う程度と思いますが」と言い、十分商品になる味だったが、どうしても納得できなかった。卸売り、小売業者そしてファンの顔が浮かぶ。「やっぱりやめます」。出荷停止はその日一人で決めた。…

 新潟県出身の初代・碓氷勝三郎氏(1854~1916)が値の張る本州産に対抗し「地場で安くうまい酒を」と始めた。明治時代に九つまで増えた港町根室の酒造業の草分けだ。漁業やタラバガニなどの缶詰製造に乗り出し、国後、択捉島に漁場や工場を広げ、牧畜業も手掛けた。碓氷家は根室を象徴する大実業家だった。
 しかし、敗戦後、北方四島の資産や漁業権、牧場の多くを失う。そして、4代目勝三郎を襲名し根室商工会議所会頭も務めた父(1915~88年)が設立した缶詰製造「日本合同缶詰」が76年、円高やオイルショックの直撃を受けて倒産。連帯保証人だった父はその直前に過労で倒れた。
 当時は関連会社ホクトタクシー社長として経営に携わっていたものの、若干33歳。突如二十数億円に上る負債が4代目の一人娘にのしかかった。
 債権者から矢のような催促、法外な返済要求もあった。帳簿類を読み込み、債権を持つ企業の担当者が返済した金を横領していたことを見抜いたこともあった。「活きるか死ぬかの修羅場」のような日々は、88年の5代目就任後も13年ほど続いた。
 缶詰製造を失ったが、初代から続く屋台骨の酒造りは守り抜いた。その中で得たのは、トップがいいふりをしない、うそをつかない組織は事業も人もまっとうだという教訓。12年前、本醸造出荷を停止した決断の底には経営者として磨き上げてきた信念がある。
 ・・・(栗田直樹)

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【いい取材記事だ】 
 全道版なのだが、検索しても記事が出てこないので、抜粋して紹介した。私は赤でハイライトした部分がたいへん気に入った。根室支局の栗田記者はこういう取材がうまいのだと得意分野がわかった。記者はそれぞれ自分の問題関心のあるところで構想を温め記事を書くこともある。いわれてやる仕事とは違う味が出る。赴任してから1年半をすぎたが、いい嗅覚をしている。やるもんだな。北海道新聞根室支局ここにあり。

【造り酒屋は家業であるという自負】
 会社形態をとらない理由について記事中で直接の言及はなかったが、株式会社であってもいい規模である。
 私の勝手な憶測だが、造り酒屋の部分は"家業"としての意識が強いのだろう。株式会社化して資本を集める必要などこの商店にはない。敗戦で北方領土にもっていた財産を失ったとはいえ、根室市内に潤沢な不動産を有し堅実な経営に戻り経営が安定しているから、株式会社化の必要がないのだ。
 そして商店経営の良さを体現した企業であることは間違いがない。商店は店主がいて店主の考えを熟知している番頭さんがいる。確認をしたわけではないが規程類は法律上必要なものを除きほとんどないだろう。

【経営の基本】
 一例を挙げておきたい。この商店の定年は65歳である。店主が従業員に"当店の定年は65年です"とそう言えば、それは確実に守られる。明文化した規程よりも、店主の口約束の方がはるかに思い、そういう企業である。だから、明文化した規程類はそもそもこの企業には必要がない。この企業は「うそをつかない組織」、誠実な信頼関係に結ばれた人間関係を維持している。約束したことは必ず守るという店主のお人柄もあるだろう。
 "碓氷勝三郎商店"だから働いている人たちは"店員"と呼ぶべきなのだろうか"職員"なのだろうか、どちらで呼んでも実態とあわぬ。家族的な雰囲気のある企業でありながら息苦しくなく、個々の判断・裁量は従業員に任されている。もちろん、大きな組織ではないから日常の仕事を通じて相談・報告は丁寧に行われ、店主と従業員に経営に対する考え方に齟齬が生じないようになっている。
 店主は家業の経営の安定と取引先の利益と従業員の生活の安定を基軸にものごとを考える。店主だったらどう判断するかというのが、この企業で働く従業員の基本姿勢だ。「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方善し」という経営判断を誠実に重ねている企業である。老舗の歴史は重い。

【三方善しの老舗経営】
 限定生産で量を増やさないから幻の銘酒「搾りたて」という銘柄がある。毎年1月に発売するがすぐに売り切れるから手に入れるのは至難の業だが、私はこの企業に長く勤める同級生に入手を頼んだことは一度もない。頼んだところで丁寧に断られるに決まっているし、親友を困らせたくはない。だから市内の小売店から入手している。碓氷勝三郎商店は「メーカー⇒問屋⇒小売店」の販売ルートを決して崩さない。私が頼んでも直接売ってはくれないが、それは老舗の三越デパートが北海道物産展を開くので売ってほしいと申し込んでも同じことだ。「問屋さんからお求めください」とうことになる。長年の取引先に悪影響が出るようなことは、どんなにおいしそうに見えても、断る勇気をもった企業である。商売でずるいとか卑怯なことは絶対にしない、長年の取引関係を大事にする。ebisuのようにそういう生真面目な経営姿勢に喝采を送っているファンも少なからずいる。
 私は注の①②③にこの企業に係わる具体的なエピソードを書いている。そちらをあわせ読んでいただければ、この老舗のよさのいったんがわかるだろう。

【ebisu絶賛!】
 私は上場企業を目指す企業で働き、企業の株式上場がどういうものであるかを経験した。公開企業のよさを充分に知っているつもりだが、それでも碓氷勝三郎商店の経営を絶賛せざるを得ない。高校時代のごく親しい友人がこの企業で働いているから褒めているのではない。私はそういうことをしない人間である。悪いものは悪いと言うが、良い物は良いと素直に言う姿勢はこれからも崩さないつもりだ。

【店主は自分の利害を優先せず、正直に誠実にその歴史を刻む】 
 店主は問われたら正直にはっきり物を言う根室には珍しいタイプの人。言動に老舗企業の誇りを感じるが、目線は高くなく横柄さや威張ったところが微塵もない。目に優しさをたたえ、どこにでもいる町のおばさん風の気さくさもある。
 この女性経営者に匹敵する男が根室にいるだろうかと探しても一人も思い浮かばぬ。身近な経験から学んだ言葉には真実がある。トップがいいふりをしない、うそをつかない組織は事業も人もまっとうだ、こう言い切る経営者が続出してほしいもの。地元企業経営者たちの中に胸に手を当てて考え恥ずかしいと思う者があれば、今日からきちんとすればよい。
 正直で誠実な仕事、「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方善し」を積み重ねたからこそ、敗戦の荒波にも、日本合同缶詰の倒産にも耐えて125年の歴史を刻むことができたのだろう。

 老舗企業は造るものだけがいいのではない。銘酒北の勝を造る碓氷商店、根室ナンバーワン、孤高の名門企業である。

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*ジャパンタイムスが碓氷ミナ子さんへ取材した記事を採り上げた。
 ①#258「長文読解夏季特訓が終わって 」
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2008-08-16

 芭蕉同窓会での北の勝「搾りたて」談義
 ②#052「芭蕉同窓会」
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2008-01-21

 S20年の根室空襲のときの碓氷商店の炊き出しについて書いてあります。500人あまりが死にました。着の身着のまま生き残った人たちが協力し合ってリヤカーにご遺体を積んで海に流したそうです。団塊世代が小さな頃海岸で遊んでいると人骨が砂に混じっていました。
 ③#024「基本トレーニングは頭でするな、身体で覚えろ 」
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2007-12-15

  ④日本酒は世界最古の細菌純粋培養技術で造られている
 #047「幻の銘酒:北の勝「搾りたて」本日発売」
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2008-01-15


 右側の欄外の最下段に検索ボックスがある。そこに「碓氷」と入力すると、折に触れて書き溜めた記事が20本ほどリストされるので、興味のある人だけお読みいただきたい。

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