SSブログ

#1750 教育再考 根室の未来第 シリーズ4部連載開始(北海道新聞) Nov. 25, 2011 [64. 教育問題]

 標記シリーズ第4部の連載がはじまった。タイトルから紹介しよう。

 「英語授業 児童に人気 教師戸惑い

 週1コマの授業が5・6年生対象に始まっている。昨年度まで新学習指導要領への移行期間としてこの授業を体験した生徒たちはいま中1・2年生である。中学校の先生たちはテスト結果をみて「思ったほど理解していなくてたいへん驚く(複数の中学教師)」という状況だ。小学校の先生もとまどっている。「市内小学校の男性教諭(29)は「正直、学生時代に英語は苦手だった。教えるのも自信がないし、気も進まない」と打ち明ける」
 同期のI塾のKさんは記者に次のように語っている。
「日本語が不十分なまま外国語を学んでも中途半端な習得にしかならない。小学校時代は日本語をしっかり学ぶことが大切」

 もっともな意見だ。I塾では小学生に英語を教えていないと記事にあったが、ニムオロ塾でも小学生には英語は教えない。学年トップクラスの3人程度以外は弊害が大きいだろう。『国家の品格』藤原正彦やフィールズ賞受賞の小平邦彦の英語教育論、大数学者岡潔の教育論も参考にされたらいい。海外留学の経験のある3人の数学者は英語教育に関しては意見が一致している。小学生の時代は日本語のボキャブラリーを育てる季節である。
 根室の小中学生の日本語語彙の劣化は他の地域よりも激しいのではないだろうか?弊ブログでも実例を何度か取り上げているが、書き言葉の語彙に個人差が大きいことがわかる。学力の低い生徒ほど使える日本語語彙は少ない日本語語彙が少ないと、教科書の内容が理解できない。なぜか?出てくる日本語の単語の意味がわからないから、文章全体の意味がつかめないのである。それと読むスピードが遅いので、読んでいるうちに少し長い文章になると前半部を忘れてしまう。ましてや段落ごとに意味をつかむなんて芸当はできよう筈もなくなる。これでは学力全般が下がるに決まっている

 期末テストが近いので生徒たちに英語の授業はどこをやっているのか質問してみたら、生徒から「どこをやっているのかわからない」という答が返ってきた。ALTがきて授業するのだが、ゲームばかりで教科書をやらないのだそうだ。中3の生徒は「こんなことをやっていていいのだろうか、遊びだよ先生、受験なので不安になる」と心配顔。そりゃそうだろうと私も肯かざるをえぬ。

 さて、ここまでは学習塾のプロとしての意見である。わたしにはもう一つの顔がある。東京でサラリーマンを26年間やってきたという「顔」である。そういう経験から社会人として必要な英語の話しをしておきたい。生徒たちの大半は将来都会で働くことになる。
 1970年代後半から80年代半ばまではコンピュータに興味をもち、プログラミングやシステム開発の仕事をしだした時期だったから、翻訳ものでは間に合わなかった。時代の先端をいく本は原書で読むしかなく、英語は仕事に必須だった。海外メーカ50社との契約を管理していたから送られてくる年次報告書にも眼を通していた。毎月1~2名程度、海外メーカからエンジニアが来て、マイクロ波計測器等の新製品の営業向け説明会を開いたから、その説明を理解するために英語が必要だった。これは、計測器やコンピュータの専門知識があったので理解できた。とくにコンピュータやシステム開発関係の専門書を原書で読んでいたことが役に立った。
 国内最大手の臨床検査会社へ転職してから、東証Ⅱ部上場準備要員として統合会計情報システム開発を担当した。財務会計およびび支払い管理システム、固定資産管理および減価償却予算試算システム、購買在庫管理システム、販売会計システム、原価計算システムで構成されており、最初と2番目そして全体のインターフェイスがわたしの担当だった。国内でも事例がなかったので当然参考にできる日本語文献がなく、米国で出版された会計情報システムに関する専門書やシステム開発技術に関する専門書を何冊も読んで参考にした。システム開発が終わったあとは、会社にあったネイチャーやサイエンスやオンコロジーなど20種類程度の科学一般雑誌や医学専門雑誌を片っ端から読みはじめた。学術開発本部担当役員から引き抜かれて異動になり海外製薬メーカーからのラボ見学者対応を任された。製薬メーカーとの試薬開発担当も兼務し、先端論文を読むために「細胞の分子生物学」第2版の原著を辞書代わりに使った。米軍向けの出生前診断検査の社内導入や慶応大学産婦人科医との出生前診断トリプルマーカの日本基準値に関する産学共同研究のマネジメントをした。学術開発本部スタッフとしての仕事は、担当役員の片腕としてマネジメントに関するものが多かった。
 国際金融資本から持ち込まれたある染色体検査会社の買収提案書(約100㌻)を3日で要約翻訳し、稟議書類を作成した。こういう仕事はスピードを要求されるから、仕事が来てから勉強したのでは間に合わぬ。普段から経営分析の専門書に眼を通し実務でスキルを磨いたり、海外メーカーの年次報告書に眼を通しておかなければとてもやれる仕事ではない。だから、社員が1000人いようと2000人いようとできるものは一人しかいないということになる。仕事はだまっていても回ってくる。

 自分の話しばかりでは申し訳ないから、ある通訳のことも紹介しておこう。ATCCの代表者が来て講演をしたことがある。1986年頃だっただろう。ATCCとは米国の細胞バンクである。聴いているのはドクターが多かった。質疑応答になってその通訳のすごさが出た。会場から質問を聴きながら通訳して講師に伝えつつ、講師の質問に対する答を聞き取り、質問が終わると同時に答を頭の中で整理して日本語で伝えていた。数人のドクターがその技の見事さに"すごいね"と驚いていた。美人の30前後の通訳だった、それまで何人か見てきたが、これほどの技をもった人は見たことがない。英語が少々できたってプロの通訳なんてやれるはずがない。

 通訳はその分野の専門知識がないとできるものではない。英語で特定の専門分野を勉強するにはその分野の専門用語=ボキャブラリーを押さえておくのは当たり前である。たとえば、簡単な経済用語である"foreign exchange rate"をそれぞれ辞書で引くと"外国の"+"交換"+"比率"と出ている。私は大学3年のときに時事英語の授業を選択したことがあるが、その授業では前日のデイリー毎日の社説記事をテキストに利用していた。あいにくと、国際経済問題が採り上げられており、先生は「外国交換比率」と訳した。「外国為替相場」という専門用語をご存じなかったのである。常識的な経済用語の範疇の用語だから、日本語の新聞の経済記事すらお読みになったことがなかったのかも知れぬ。その後も専門用語の誤訳は続いた。先生のあまりの不勉強ぶりに時事英語の授業がつまらなくなったが、英字新聞を読む楽しみは覚えた。ボキャブラリーの大切さは中学生だけではない。

 語学は手段であって、目的ではないというのが私の結論である。語学が目的となるのは言語学者くらいだろうから、語学を学ぶことを目的とする人はほとんどいない。では、会話が社会人になって役に立つのか。英検2級程度ではまるで話にならないのが社会人に要求される英語である。かならず専門分野が要求される「専門知識+英語力」でその主力は「読み・書き」である。勘違いしてはいけない、小学生の会話程度の英語が社会人に要求されるわけではないのだ。
 日本語もそうだが、文章を理解するのは語彙力が要求される。英語はとくに専門分野の語彙群を理解していないと米国人でも専門書を読むことができない。英語とはそういう言語である。日本語は基礎的な漢字を知っていれば広汎な専門書を読むことができ、それが日本語の大きなメリットである。

 小学校時代は日本語のボキャブラリーを増やす季節である。この時期に日本語語彙を増やさなかったものは、その後の学力の伸びが小さくならざるを得ない。私たちはそれを「ノビシロ」と呼んでいる。

 さて、道新根室支局の総力を挙げて取材した「教育再考」はどうなるだろう?5回連載を予定しているというから、ぜひ読んで、根室の教育について一緒に考えてもらいたい。 
 過去3部の連載のうち2回は素晴らしいものだった。根室支局の記者たちの精力的な取材記事に期待したい。

*「#1733 "クサレン"って何?:日本語ボキャブラリー Nov.16, 2011」
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-11-16-1

 「英語教育論:数学者藤原正彦『国家の品格より抜粋 #753 Oct. 8, 2009」
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2009-10-08

 「フィールズ賞受賞数学者小平邦彦と藤原正彦の教育論 #749 Oct. 4, 2009 」
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2009-10-04

 「#1171 具体的なデータによる根室の子どもたちの学力 Aug. 23, 2010 」
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-08-23

 「#1573 学力と語彙力の関係(3): 英英辞書と母語の語彙 July 7, 2011 」
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-07-07

-------------------------------------------
*◎は高校統廃合について論じた記事、無印は関連記事である。


 #1307 教育再考 根室の未来 第2部 低学力④:荒れる中学校
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-12-19-1

 #1305 根室高 資格取得で成果:5科目1級取得者はK君
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-12-17-1

 #1306 教育再考 根室の未来 第2部 低学力③:若手多く指導に苦戦も
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-12-19

  #1304 教育再考 根室の未来 第2部 低学力②:「学ぶ意味」尊重されず 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-12-17

  ◎#1253 教育再考 根室の未来(5):第1部⑤高校統廃合(北海道新聞)
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-10-24

  ◎#1251 教育再考 根室の未来(4):第1部④高校統廃合(北海道新聞) 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-10-22

 ◎#1250 「教育再考 根室の未来(3):第1部③高校統廃合(北海道新聞)」
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-10-21

 ◎#1249 「教育再考 根室の未来(2):第1部②高校統廃合(北海道新聞)」
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-10-20

 ◎#1248 「教育再考 根室の未来(1):第1部①高校統廃合(北海道新聞)」
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-10-19

 #1152 「教育における投資対効果を考える」
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-08-08

 #1127 「限度を超えた部活動の実例(釧路)」
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-07-23

 #1125 「公教育の充実へ予算を増強して」
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-07-21

 ◎#1124 「高校2校体制を5年延長する現実的な提案」
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-07-20

 ◎#1122 「高校統廃合問題:商業科と事務情報科は歴史的使命を終えたのでは?」
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-07-19

 #1119 「地域経済と地域医療を支えるために:学力向上への提案(釧路商工会議所青年部で行われた講演会から)」
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-07-18

 ◎#1113 「道教委による公立高配置計画説明会(7/13)」
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-07-15

 ◎#1111 「根室の高校統廃合問題について「異見」あり(1)」
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-07-14 


 
にほんブログ村 地域生活(街) 北海道ブログ 根室情報へ
にほんブログ村



nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0