#1653 終末期に係わる問題(3):療養病棟の実際 Sep. 20, 2011 [34. 終末期に係わる問題]
ターミナルケアにまつわる問題を採り上げたら、ドクターからコメントがあったので本欄で紹介したい。
最後は「地元で死にたい」というのがほとんどの老人の希望である。子や孫、親戚、知人に看取られて心安らかに息を引き取りたいと願うのはあたりまえの人の情だろう。
だから、終末期医療を担う療養病床が根室に必要だし、それが可能なのは市立根室病院以外にはないのである。市立病院職員は療養病床ゼロのこの地域の老人医療に危機感を抱いている。必要なものは必要なのである。
病院建て替えを強引に進めたために、入院病棟を199から134ベッドに減床するという取り返しのつかないことを長谷川市政はやってしまった。元市立病院の課長だった本田市議がことの重大性に気がつき抗ったが、結局のところ市側の案に反対した市議は一人もいなかった。小さな町だから難しいのはわかるが、無関心で騒がなかった私たち市民が悪い。
でも、まだやりようはあるはずだ。必要なものは必要なのである。できない話ではない、やる気があるかないかが問われている。
まずは、療養病床の医療の現実を知ってもらいたい。そこで働くドクターが書いてくれたコメントである。将来、老人を介護する可能性のある人は何度も読んでいただきたい。きっと役に立つときが来る。
(根室市民はみんな読んで欲しい。療養病床を持つか否かというのは根室を終の棲家と決めている人には重大問題である。プリントアウトして周りの人にも読んでもらって問題の大きさを知ってほしい。根室には療養病床ひとつもない。)
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職場は療養型60床、介護型60床の病院です。
地域には中央病院に若干の療養病床が有りますが、実際には開店休業状態との事。それで町内は勿論の事、北は羅臼、南は根室・釧路からも患者さんが集まります。それも結構な順番待ち。そうなるともう「本来はこの患者さんはこのタイプの病院や施設が適当」などと言ってられません。
先日も「地元で死にたい」と言う患者さんの希望を盾に釧路の某病院から癌の末期の方が入って来ました。当院の性格には合わない患者さんですが、地元の中央病院に断られて(当然ですが)院長に泣き付きました。「良きサマリア人」を絵に書いたような当院の院長ですから、「分かりました。お受けしましょう」。その患者さん、残念ながら翌々日に息を引き取りました。
小生の受け持ちは療養型の60人ですが、様々な患者さんが居ます。最年長は99歳、最若年は40歳代。平均は80歳前半くらいですね。性別は圧倒的に女性が多く男性は2割弱程度。病気の多くは脳梗塞後遺症、アルツハイマー型痴呆症、認知症、脳出血後遺症、廃用症候群*、腰痛症、嚥下障害、食欲不振etc。
他院から送られてくる以前に気管切開された方が数名、PEG(胃瘻)増設が10名弱。
食事は胃管による経管栄養が10数名。それ以外の患者さんは食事形態は一応経口摂取に成りますが、完全に食事が自立している方はあまり多くなく、看護師や介護士、助手さんたちが付き添って食べさせる患者さんが多く、食事だけにもかなりの手間が掛かります。
食事の際にもっとも多いリスクは誤嚥です。ちょっとしたはずみに食物が気管に入り咽せ、時に呼吸困難に陥ります。直ぐに気管にテューブを入れ吸引を掛けますが、しばしば肺炎の原因に成ります。誤嚥性肺炎は老人病院で一番起きるトラブルです。これは胃瘻や胃管からの栄養注入の際にも起きる事が有ります。注入速度が速いと胃内の圧が上り内容物が口腔内まで上昇して経口摂取と同様の状態に成ります。その結果やはり誤嚥が起きてしまう事も有ります。
当院にはリハビリ部門に多くのスタッフが居ります。理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、 言語聴覚士(ST)。その中でSTは患者さんの口腔内ケア、発語、経口摂取補助などが仕事で、患者さんに付きっ切りで食事を食べさせています。PTは患者さんの関節や筋肉の状態をチェックして筋拘縮を改善。OTは患者さんに合った様々な作業を指導。
当院でも歩行が自立した患者さんは少なく、寝たきり以外の患者さんの多くは車椅子で移動します。この車椅子がまた結構リスクが高く、椅子から立ち上がる際に転倒するケースが有ります。
ただでさえ骨粗鬆症などで骨折と隣り合わせの患者さんの集団ですので、転倒すれば簡単に骨折します。また頭を打てば脳出血の可能性も有りますので車椅子だからと言って気を緩められません。
夜は夜で、かなりの方が不眠症や夜間譫妄で看護ステーションの少ない看護師(2~3人程度)を煩わせます。勿論色々な病室からのナースコールは引っ切り無し。
定期的に身体の清拭(可能な患者さんは浴室で洗う)や褥瘡の処置も有ります。一度現場をご覧に成ればお分かりに成ると思いますが、兎に角忍耐と根気が要る職場です。そして常に誤嚥や骨折などの重大なトラブルと紙一重の毎日・・・。
患者さん個人に対してだけでも大変なのに、急性期の病院とは入院させる家族の事情(都合)が異なります。定期的に患者さんの状態を話し合うカンファランスを行っていますが、その席でのソーシャルワーカーのコメントは殆ど常に「長期入院希望です」(つまり、ずっと入院させて欲しい)。
確かに病院で行っている介護や治療は慣れた専門のスタッフだからこそ簡単に見えますが、あれを技術を持たない家族が環境の整わない自宅でやろうとしても相当に困難だと思います。しかし本当は、可能ならば家族が引き取って自宅で介護しながら残りの人生を共に過ごすのが患者さんの本当の幸せではないでしょうか。
急性期の病院に居ると、如何にして現在の病気を治せるかという患者さんにとって医療側は瞬間的な接触ですが、今の病院では何時も、人間の生きてきた、そしてこれから生きて行く意味を考えさせられます。そして嫌でも患者さんの向こうに家族の姿が重なって見えて来ます。そしてこの国の貧しい医療行政も・・・。
by 通行人 (2011-09-07 01:07)
ebisu注記
*廃用症候群:寝たきり状態で心身の機能低下が生じること
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最後は「地元で死にたい」というのがほとんどの老人の希望である。子や孫、親戚、知人に看取られて心安らかに息を引き取りたいと願うのはあたりまえの人の情だろう。
だから、終末期医療を担う療養病床が根室に必要だし、それが可能なのは市立根室病院以外にはないのである。市立病院職員は療養病床ゼロのこの地域の老人医療に危機感を抱いている。必要なものは必要なのである。
病院建て替えを強引に進めたために、入院病棟を199から134ベッドに減床するという取り返しのつかないことを長谷川市政はやってしまった。元市立病院の課長だった本田市議がことの重大性に気がつき抗ったが、結局のところ市側の案に反対した市議は一人もいなかった。小さな町だから難しいのはわかるが、無関心で騒がなかった私たち市民が悪い。
でも、まだやりようはあるはずだ。必要なものは必要なのである。できない話ではない、やる気があるかないかが問われている。
まずは、療養病床の医療の現実を知ってもらいたい。そこで働くドクターが書いてくれたコメントである。将来、老人を介護する可能性のある人は何度も読んでいただきたい。きっと役に立つときが来る。
(根室市民はみんな読んで欲しい。療養病床を持つか否かというのは根室を終の棲家と決めている人には重大問題である。プリントアウトして周りの人にも読んでもらって問題の大きさを知ってほしい。根室には療養病床ひとつもない。)
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職場は療養型60床、介護型60床の病院です。
地域には中央病院に若干の療養病床が有りますが、実際には開店休業状態との事。それで町内は勿論の事、北は羅臼、南は根室・釧路からも患者さんが集まります。それも結構な順番待ち。そうなるともう「本来はこの患者さんはこのタイプの病院や施設が適当」などと言ってられません。
先日も「地元で死にたい」と言う患者さんの希望を盾に釧路の某病院から癌の末期の方が入って来ました。当院の性格には合わない患者さんですが、地元の中央病院に断られて(当然ですが)院長に泣き付きました。「良きサマリア人」を絵に書いたような当院の院長ですから、「分かりました。お受けしましょう」。その患者さん、残念ながら翌々日に息を引き取りました。
小生の受け持ちは療養型の60人ですが、様々な患者さんが居ます。最年長は99歳、最若年は40歳代。平均は80歳前半くらいですね。性別は圧倒的に女性が多く男性は2割弱程度。病気の多くは脳梗塞後遺症、アルツハイマー型痴呆症、認知症、脳出血後遺症、廃用症候群*、腰痛症、嚥下障害、食欲不振etc。
他院から送られてくる以前に気管切開された方が数名、PEG(胃瘻)増設が10名弱。
食事は胃管による経管栄養が10数名。それ以外の患者さんは食事形態は一応経口摂取に成りますが、完全に食事が自立している方はあまり多くなく、看護師や介護士、助手さんたちが付き添って食べさせる患者さんが多く、食事だけにもかなりの手間が掛かります。
食事の際にもっとも多いリスクは誤嚥です。ちょっとしたはずみに食物が気管に入り咽せ、時に呼吸困難に陥ります。直ぐに気管にテューブを入れ吸引を掛けますが、しばしば肺炎の原因に成ります。誤嚥性肺炎は老人病院で一番起きるトラブルです。これは胃瘻や胃管からの栄養注入の際にも起きる事が有ります。注入速度が速いと胃内の圧が上り内容物が口腔内まで上昇して経口摂取と同様の状態に成ります。その結果やはり誤嚥が起きてしまう事も有ります。
当院にはリハビリ部門に多くのスタッフが居ります。理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、 言語聴覚士(ST)。その中でSTは患者さんの口腔内ケア、発語、経口摂取補助などが仕事で、患者さんに付きっ切りで食事を食べさせています。PTは患者さんの関節や筋肉の状態をチェックして筋拘縮を改善。OTは患者さんに合った様々な作業を指導。
当院でも歩行が自立した患者さんは少なく、寝たきり以外の患者さんの多くは車椅子で移動します。この車椅子がまた結構リスクが高く、椅子から立ち上がる際に転倒するケースが有ります。
ただでさえ骨粗鬆症などで骨折と隣り合わせの患者さんの集団ですので、転倒すれば簡単に骨折します。また頭を打てば脳出血の可能性も有りますので車椅子だからと言って気を緩められません。
夜は夜で、かなりの方が不眠症や夜間譫妄で看護ステーションの少ない看護師(2~3人程度)を煩わせます。勿論色々な病室からのナースコールは引っ切り無し。
定期的に身体の清拭(可能な患者さんは浴室で洗う)や褥瘡の処置も有ります。一度現場をご覧に成ればお分かりに成ると思いますが、兎に角忍耐と根気が要る職場です。そして常に誤嚥や骨折などの重大なトラブルと紙一重の毎日・・・。
患者さん個人に対してだけでも大変なのに、急性期の病院とは入院させる家族の事情(都合)が異なります。定期的に患者さんの状態を話し合うカンファランスを行っていますが、その席でのソーシャルワーカーのコメントは殆ど常に「長期入院希望です」(つまり、ずっと入院させて欲しい)。
確かに病院で行っている介護や治療は慣れた専門のスタッフだからこそ簡単に見えますが、あれを技術を持たない家族が環境の整わない自宅でやろうとしても相当に困難だと思います。しかし本当は、可能ならば家族が引き取って自宅で介護しながら残りの人生を共に過ごすのが患者さんの本当の幸せではないでしょうか。
急性期の病院に居ると、如何にして現在の病気を治せるかという患者さんにとって医療側は瞬間的な接触ですが、今の病院では何時も、人間の生きてきた、そしてこれから生きて行く意味を考えさせられます。そして嫌でも患者さんの向こうに家族の姿が重なって見えて来ます。そしてこの国の貧しい医療行政も・・・。
by 通行人 (2011-09-07 01:07)
ebisu注記
*廃用症候群:寝たきり状態で心身の機能低下が生じること
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2011-09-19 23:38
nice!(2)
コメント(7)
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充実してる先生達って、現院長に追い出された先生達?
by 根室はこれからどうなるの?さんへ (2011-09-19 23:49)
なんだか具体的できな臭い話になってきましたね。
真実を外さないと思われる範囲で、ぼかしてお書きください。
by ebisu (2011-09-20 00:08)
市立根室病院の医師たちが来年3月末まで何人もお辞めになる「噂」がマチに流れています。あえて個人名は書きませんが、病院建て替えがすむ頃に現在いる常勤医の先生たちの何人が残っているのでしょう?
わたしも大いに心配です。
「噂」はマチから全道に広まってるさ。
根室はいつもの繰り返し・・・
by NO NAME (2011-09-20 07:18)
>「噂」はマチから全道に広まってるさ。
>根室はいつもの繰り返し・・・
原発と同じことですか。
大きな災害(?)が目の前に現れてからでないと事の重大さに気がつかない。
いや、事故が起きた後ですらまだ原発再開を叫ぶ者たちがたくさんいます。
根室の大人たちには希望をもてない。子どもたちの教育に精を出し30年後の変化の芽を育てるのみ。
それでいいのだろうと思います。
根室は一度は災害(地域医療の崩壊と市財政の困難な状況)に見舞われる。
すこしは市政の好い加減さに気がつく人が増えるでしょう。
by ebisu (2011-09-20 09:45)
【ピーターの法則】
The unexpected always happens.
予期せぬ事は常に起こる。
--Laurence J. Peter
(Canadian writer and teacher, 1910-90)
by Hirosuke (2011-09-20 15:36)
昨夏にパーキンソン病による多臓器不全で亡くなった父も、長年に渡って、病院のお世話になりました。
【福祉住環境コーディネーター】と【食生活アドバイザー】を社会復帰の礎にしようと勉強している者としても、考えさせられます。
by Hirosuke (2011-09-20 22:15)
都会と田舎の老人医療格差。
横浜と根室の現実を念頭におきながら考えています。
さて、どうすればこの格差を縮められるのか?
>The unexpected always happens.
>予期せぬ事は常に起こる。
仰るとおり何が起こるかわかりませんから希望は棄てない。
やれる算段のみを考えます。
by ebisu (2011-09-20 23:03)