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#1354 医師不足:ある記者の提言 Jan. 27, 2011 [29. 道東の地域医療を考える]

 久々に地域医療を採り上げる。
 病院問題では北海道新聞根室支局のK記者が精力的な取材を続けてくれている。根室市民の一人として北海道新聞根室支局の取材記事に感謝したい。
 記者は取材はしても自分の意見を述べる機会は案外ないものだが、彼の意見が1月7日付「道東」版の「やちぼうず」というコラムに載ったので採り上げたい。以下の記事は根室に赴任してきて、彼が取材を積み重ねたすえにだとりついた結論であるので、それなりの重みを私は感じている。

医師不足
 市立根室病院をはじめ、各地の公立病院で医師不足がますます深刻になっている。この問題を取材していると、地方都市の公立病院の医師確保は、その自治体の力だけでは難しくなっていると思う。
 市立根室病院では、昨年末に外科医が1人退職し、現在の常勤医は13人。経営計画にある15人を下回る危機的な状況だ。
 常勤医をすべて医大の医局からの派遣医でまかなっていたころは、ある医師が退職しても、すぐに次の医師が派遣されてきた。現在はこうした制度がなくなったため、市が独自に採用した医師が多く、退職者が出ても後任のあてがない。
 こうした現状を改善するためには、医師の採用や人事を各自治体がそれぞれ行うのではなく、もっと大きな枠組みで実施できないものかと思う。
 例えば、全道の公立病院の人事を一喝で行う仕組みがあれば、医師は中小の病院や大病院を異動でまわるようになる。都会と地方都市との偏在を是正できるし、医師にとっても、定期的にさまざまな病院での勤務を経験できるメリットがある。
 公立病院の医師不足を放置すれば、地域医療が崩壊しかねない。医師不足に伴う赤字も、各自治体の財政を揺るがしかねないところまで来ている。抜本的な対策が必要だ。


< コメント >
 少し話しがずれるかもしれない。従業員が3000人もいて製造部門と販売部門、本社管理部門があると部門を横断的なさまざまな問題が日常的に持ち上がる。子会社も含めると約5000人、規模が大きくなるにつれてもちあがる問題も複雑になり、しっかりした大局観と複数の分野の専門スキルが問題解決に必要になる。
 そこである人が、あらゆる問題に対処可能なスーパー部門を立ち上げて部門横断的な問題やグループ会社横断的な問題に対処すればあらゆる問題が解決できると考えた。
 そういう部門を立ち上げようとふさわしい能力の人材を探してみたが、あらゆる部門にわたって問題を具体的に解決できるような数十の専門スキルを有する仕事のスーパーマンは実際にはひとりもいなかった。
 結局、私のいた会社では「スーパー部門」をつくることはできずに、部門横断的な問題が持ち上がるごとに問題解決に必要な人材を集めてプロジェクトを立ち上げ、ことに対処したのである。どの会社でも事情は同じだろう。

 このK記者の意見には肯ける。地域医療を地方自治体に任せたらぐちゃぐちゃにしてしまう市町村もあるから、責任能力のない自治体から権限を採り上げて北海道全体の医師を管理する道庁の部門があればいいというのは素直な発想である。
 北海道に限らず、45府県も同じような状況だから、国が責任をもてばいいというような話になる。
 しかし、これはキューバ型の社会主義医療を意味しており、あまたある民間病院との並立・共存が困難になるだろう。

 このように地域医療問題は医師不足の解消一つとっても、それぞれの具体案にはそれぞれの隘路のあることがわかる。
 医師不足は医師の供給を増やすことでしか解消できないのだろう。
 ①医学部の定員を増やす
 ②医科大学(釧路に道東医科大学)を新設する
 そういう具体的な政策でしか解決できない。そして結果が出るのは10年後、20年後である。
 にわかに状況は変えることができない、だからこそK記者も言うように「抜本的な対策が必要」なのだろう。

 彼は根室の地域医療問題を取材していい記事を発信し続けてくれた。問題は極めて困難であるから、これからもますます多方面にわたる取材を重ねて地域医療問題に健筆を振るってほしい。


【補遺:運営格差は小さくない】
 実際にはお隣の厚岸町立病院のように一般会計からの繰出金を3億円程度に減らすことに成功した町もある。
 ほとんど規模が違わないのに根室は今年度13億円の赤字補填が必要になる。
 地方自治体や院長の管理運営能力に雲泥の差があるということだ。病院は建物だけではない、医師、看護師、薬剤師、レントゲン技師、検査技師、事務スタッフなどそこで働く人々の意識によっても経営結果に大きな差が開くものなのである。
 高齢化社会を迎えて医療ニーズの大きい分野は療養型病棟だが、新病院には1ベッドもない。根室は今後数十年間全国に例がほとんどない療養病床ゼロの市だ。
 その地域の医療ニーズにあったいい病院は赤字の幅を小さく出来るものだ。改善の余地はある。

 高齢化と同時進行の人口減少。そして老人は生まれ故郷で必要な医療が受けられずに死んでいく。それだけでことはすまない。
 医師の数は急には増やせないから今後20年間は医師不足が続くだろう。そうした中で、病院運営に失敗した町の地域医療が崩壊していく。その町のトップが能力不足なら財政が健全性を失うところも出てくる。地域医療が崩壊すると同時に市財政の健全性が失われる、そういう自治体が北海道のあちこちに出現することになる。町を守るのは結局はそこに住む人々、私たち自身の関わり方が問われている。
 誰かがやってくれるという意識を棄て、地域医療に関する自分の意見をもとう。
 
 


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通行人

>実際にはお隣の厚岸町立病院のように一般会計か>らの繰出金を3億円程度に減らすことに成功した>町もある。 ほとんど規模が違わないのに根室は>今年度13億円の赤字補填が必要になる。

これはちょっと拙い表現ですね。根室と厚岸では規模が違います。厚岸は常勤医4名だけでその他のスタッフも根室の半分以下です。従って診療科も内科、外科、小児科、それに整形外科が週に1度、脳外科が2週に1度の外来だけです。病床数は根室の半分の98床(一般56、療養42)です。外来数は1日250人余りでこれも根室の半分です。
要するに規模が根室の半分だから厚岸の赤字も少ないことに成ります。根室の赤字は常勤医が減っても多くの診療科を維持するために割高な非常勤医を多数呼んでくる人件費が大きな原因です。
因みに道東での病院の規模は、市立根室=町立中標津>町立別海>町立厚岸でしょうか。赤字も規模に比例しているようです。
by 通行人 (2011-01-30 00:44) 

ebisu

>病床数は根室の半分の98床
市立根室病院の病床数は150からさらに減床してすでに135ではないですか?実稼動は90程度ではなかったですか?ずいぶん事情に詳しい様子なので、ご存じないわけはないと思います。

厚岸町立病院に療養病床が42あるのは知りませんでした。地域医療に関する考え方がしっかりしていますね。根室も必要です。根室の老人は困っています。療養病床が一つもないのですから。
療養病棟を設置すれば年間2億円は赤字を減らせると何度もブログで取り上げたはずですが、建て替え後の新病院にもニーズの大きい療養病棟がありません。愚かなことです。

それと、厚岸は6億円あった赤字をこの数年間で半減したと新聞報道にあったように記憶しますが、その間に根室は10億から13億円に赤字幅を増やしたのではないでしょうか?赤字を3億円減らした病院と3億円増やした病院、何も感じませんか?

仮に厚岸町立病院が根室の半分だとして、かの病院の赤字を2倍してもわずか6億円です。根室の今年度の赤字は13億円です。厚岸町と病院長のそれなりの努力を素直に認めて良いのではないでしょうか。その上で市立根室病院を市民ニーズにあった病院にどのように変えていくかについて語り合いたいものです。

>根室の赤字は常勤医が減っても多くの診療科を維持するために割高な非常勤医を多数呼んでくる人件費が大きな原因です。

これも事実と違いませんか?常勤医が16名に回復しても赤字の幅は増えたのではなかったでしょうか?
その間の内部事情については書きませんが少しは承知しています。
なぜ書かないかをご推察ください。

もうすこし前向きなご意見をいただけるとありがたいと思います。


by ebisu (2011-01-30 01:47) 

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