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#1151 七夕の夜と臨床工学士 Aug. 7, 2010 [A4. 経済学ノート]

 天気予報では午後3時から大雨だがまだ降っていない。しかし、空はにわかに曇って南を除いては空は半分ほど雲で覆われたが、予報は変って、降らないという。天気予報はむずかしい。

 さて、七夕とは何の関係もないのだが、たまたまテレビを見ていたら臨床工学士を番組で取り上げていた。
 赤ん坊のときに心臓手術を受けた人が大きくなって臨床工学士を目指して専門学校で学んでいる。その手術で人工心肺装置のコントロールを担当した臨床工学士に学年の異なる生徒3人が特別授業をしてもらうという趣向だった。名古屋の専門学校だったと思う。
 挨拶を終えた後、早速3人の生徒へ滅菌した何種類ものパイプを接続する工程を実習するが途中でストップを命じた。ある堅さの異なるパイプを接続するところですべって入らず3度ほどやり直した際に問題が生じた。雑菌が付着すると患者の生命に関わる重大事故を引き起こすことがあると丁寧に説明し、現場作業の厳しさを静かに伝えた。

 そのあとで実際に手術での作業を見学させた。手術の2時間前から滅菌したパイプを一人で完全につなぐ。プロの仕事はつねに完全を求められる。
 両手を洗った後にベテランの臨床工学士はグローブをつけなかった。薄いグローブ一枚が指の感触を微妙にじゃまするので作業はすべて素手で行う。作業を一人で行う理由を「患者に対して責任を完全な形で負うため」と説明した。複数人で行っては責任の所在があいまいになる。

 実際に手術が始まった。手術中に心臓を停止する薬剤の注入は医師が行うが、その前後カンシでパイプをはさみ心臓から流出する血流量と心肺装置で戻す血流量をコントロールするのだ。これが一定範囲で正確に行うことで血圧が一定に保たれる。手の感覚だけでベテランの臨床工学士は完全な作業をやって見せた。
 心室の壁にあいていた穴にパッチを当てて周囲を縫い合わせ、心臓の壁に作業用にあけた穴も縫い終わると、今度は心臓に血液を通す。これも血圧が一定になるように人口心肺側と心臓側の血流量をコントロールする。しばらく緊張が続いたあとで心臓が動き出した。見事なものである。医師と臨床工学士そして術場の看護師さんたちんの共同作業で2歳の子供の心臓手術は成功した。

 プロはつねに完全を求められる。それに応えられるように日々技術の練磨を怠らない。グローブをはかない理由を「手の感触が違う」とベテランの臨床工学士は説明したが、仕事を一緒にしたことのある大工の元棟梁も同じことを言っていた。
 彼は仕事中はけっして軍手をはかない。理由を聞いたら弟子入りしたときに、軍手をして作業をしたら親方から「仕事と手とどっちが大切だ?」と問われ、それ以来仕事のときは軍手をしたことがないと語った。70過ぎの元棟梁である。鋸を引くときも軍手をしていると感触が違う、「軍手をはいたらいい仕事はできない」と言い切った。鉋をかけた柱を後ろでに組んだ指の腹でなぞるだけで、こいつ腕を上げたとわかるそうである。大工にとって手の感触はそれほど大事なもの。
 すべからく手を使う職人はグローブをつけたら最良の仕事はできないと言えるのかもしれない。医療は場合によっては感染防止のためにグルーブをつけざるを得ないこともあるだろう。ベテランの臨床工学士は両手を丁寧に洗うことでグローブとつけずに仕事をしていた。

 臨床工学士は職人である。職人仕事はつねに完璧を求められ、100%完全な仕事をする。学校の勉強はこれに比べればなんと簡単なことであることか。夏休み、学生諸君は一生懸命に勉強して、自分を磨いてほしい。心身ともに徹底的に自分を磨いてほしい。 
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