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#1056 「広報ねむろ6月vol.842」を読む(1):市立病院決算情報 Jun. 5, 2010 [32. 市立根室病院建て替え]

 2日ほど前に広報ねむろが配布された。7ページ「企業会計」にH21下期の市立病院事業会計予算執行状況が載っている。
 外来患者は1日当たり平成20年度比で2.4人増でほとんど変わらずだが、常勤医16名体制になって入院患者数が増えた。H20年度比で23.7人/日の増加である。H20年度入院患者一人当たり売上は87,895円/日だから、この数字を使って計算すると入院収益は3億7654万円増加したことになる。常勤医が前年比4人増と仮定すればドクター人件費は1.5億円の増で、さらに赤字特例債償還分が1.4億円と前倒しでやったオーダリング・システム開発費償却費が0.4億円だから、差し引きたった0.4億円のプラスということになるだろうか。ところがマイナスになっているから、見えないものがおおよそ1億円近く増えているのかもしれない。ツケ回しや野放図なシステム開発をすると途端に損益が悪化する。
 
 下期「予算執行状況」によれば
  収益  20億9172万円
  費用  18億9884万円
  純利益  1億9288万円

 誰が見ても病院事業は黒字であるが、ほんとうだろうか?収益20億円とあるが半期の売上は11~12億円にすぎない。
 病院事業会計は実質12億円の赤字だ。どうしてこういうことになるのか?公的会計という企業会計基準とは異なる基準の数値だからである。わたしたちが普段目にする損益計算書とは似て非なるものである。ダブルスタンダードはインチキと同義語であるが、広報ねむろに載っている数字はそういう数字だ。市民を欺く数字である。

 平成21年度の決算書がないので、手元にあるH20年度の決算書で説明しよう。「収益」の中に一般会計からの補助金が入っている。これは病院事業の売上ではなく、一般会計からの損失補てん金である。
 
  その他医業収益 150,364,773
  一般会計負担金  27,505,142
  一般会計補助金 911,029,698
  他会計繰入金    47,149,000 
     繰入金合計  1,136,048,613
  当年度純損失    23,687,367
    実質損失額   1,159,735,980   
 
 これら4項目が一般会計からの繰入金である。一番上が国基準による繰り入れだが、それではとても足りないので、以下の繰り入れがなされている。「当年度純損失」は繰入金で補填し切れなかった分だから、合計11億5973万円が実質赤字額である。ところが「公的会計基準」では11.5億円の赤字2368万円の損失に化ける。
 「一般会計繰入金」は予算では6億円程度ではなかったか?決算情報と予算情報を突合すれば、予算がいかに非現実で、辻褄併せにすぎないかがわかる。明細レベルの予算実績対比表を公表すれば予算の粉飾はできなくなる。市議会が市長へ作成と公表を要求すればいいだけだ。市議たちがそういう要求をしないのはなぜだ?

 広報ねむろに載っている収益はこういう損失補填金が含まれてしまっている。上場企業がこのような決算発表をしたら粉飾決算となる。もちろんこういう決算を監査法人が認めるわけもない。
  公的会計基準というインチキ会計基準が存在する限り、12億円の実質赤字が黒字の決算書に化けるということが起きるのである。病院経理が不正をしているわけではない、公的会計基準に基づいて適正な決算書をつくっている。

 民主党は公的会計基準を廃止して、公営企業は企業会計基準を適用すべきだ。そうすれば公営企業の赤字が表に出る。出れば市民が事実を知ることになるし、適切な手が打たれるようになる。
 黒字決算書をみて市民も関係者も安心する。黒字だから事業には何も問題は発生していない。ところが、夕張市のように突然破綻が襲ってくる。公的会計基準による損益計算書では一般会計から損失補填後の数字を見ているわけで、実質赤字額がどれほど巨額になろうとも、広報ねむろの公表数字のように赤字にならない。例外的に赤字になるのは一般会計から損失補填がし切れなかった場合のみである。
 もちろん、財務課の職員は専門家だからカラクリは承知している。病院経理も承知している。市長が「民間企業会計基準で決算数字を公表せよ」と業務指示をしない限り、広報ねむろに嘘や偽りのない損益決算書は載らない。知らないのは市議と市民だ。

 数ヵ月前の新聞報道によれば、平成21年度決算は実質12億円の赤字だったはずだ。根室市はホームページ上で市立病院事業損益計算書を明細項目レベルで予算との対比して公表すべきだ。
 広報ねむろで実態とはまったく異なる数字を公表するのは市民を欺く行為である。市長が市民へ真実を公表するつもりがあれば、「広報ねむろ」に載る数字はまるで違ったものになる。本当のことを隠してコンサルタントの提案の2倍の総事業費で強引に建て替えを進めれば、市財政や病院が近い将来どうなるかは火を見るよりも明らかだろう。

【病院建て替え後の採算について】
 病院事業の売上は「入院収益」と「外来収益」の合計額である。手元にH18年度とH20年度の損益計算書があるので両方見てみよう。費用は「医業費用」と「医業外費用」の合計額を並べる。
(平成19年度は、この二つの数字の間くらいだと想像していただければいい)
                       H18年度      H20年度   H21年度  
 売     上:    23.8億円   22.9億円     ?
 費     用:    34.1億円   34.7億円     ?           
 差し引き赤字額   10.3億円     11.8億円    12億円

  市立病院を維持するために毎年10億円を超える赤字補填がなされている。そして赤字の額は年を追うごとに増えている。このままだと5年後にはどうなるのだろう?市がいくら楽観的な数字を言っても、この推移を見るとまるで説得力がない。まだ建て替え前で償却費が増えていないのに、常勤医が前年比4人も増えたのに、赤字の幅はジリジリ広がっている。
 市民に公表される数字は数千万円の赤字あるいは黒字となっているから、経営上の問題はないように見えてしまう。それゆえ病院の経営改善はこの5年間まったく進まない。病院の経営状況に関して、市立病院事務局と市長は市民へ直接説明する義務があるのではないだろうか?「市立病院経営の現状と見通しおよび経営改善に関する市民説明会」を開催してもらいたい。

 さて、病院建て替え後にはこれに償却負担が加わる。当初の5年間はシステム投資と医療機器の償却費が大きいから、3~4億円程度の増加を見込むべきだろう。
 道から派遣されている医師の任期が来年、再来年に切れる。4名である。補充できなければ年間赤字額は最大20億円に達するだろう。一般会計にはこれほど巨額の年間赤字を補填する余裕はないから、根室市が夕張市になりかねない。
 すでに影響が出始めているのではないだろうか。若い看護師や助産師が集まらないのは市長にも幹部職員にも経営改善意欲がないからでもある。夢と希望を語れない幹部職員が多くなると、若い有能な人が集まらなくなるのは当然だ。
 30代40代の中堅市職員は自分たちの職がなくなるかもしれない瀬戸際にいる。未来はいま君たちの手の中にある。
 労組は指をくわえて傍観するのか?夕張では労組は職場を守れなかった。組合員の職や生活を守れなかったら、何のため誰のための労組か。
 市議会はきちんと議論して市政チェックの責任を果たすべきだ。市側の提案に賛成するだけなら市議は半分でも多すぎる。副業を言い訳に仕事の手を抜くようなことがあってはならない。

【市政チェックは市議の義務】
 広報ねむろを読んで、いささかうんざりしてしまった。このような子供だましのトリックにだまされる市民も愚かだが、チェックできる市議がいないのもこまったものだ。予算と決算をチェックできないのでは市議としてその職務を担う能力がないといわざるを得ない。ないなら、勉強すればいい。副業市議だって、市議ならそれくらいの勉強はすべきだろう。市側の提案になんでも賛成するような市議なら必要ないと、この間の市議会政治改革特別委主催の講演会で札幌のNPO代表が言っていたではないか。
 カラクリを承知している本田議員一人がインチキな病院事業予算に反対しても、共産党を除く他の議員が全員賛成ではどうにもならない。
 ところで、市議会定数削減問題はどうなったのだろう?
 システム投資も当初の5億円がいつのまにか7億円になり、総事業費から外されて別枠になってしまっているが、市の方からは市議会にも特別委にも説明がない。説明を求める市議もいない。この町はどうなっているのだろう?

 常勤医が前年度よりも4人増えたのだから、H21年度決算は少しよくなってもいいはずなのに、なぜ実質赤字が12億円を超えたのだろう。決算書を見ればその理由の一端がわかるだろう。H21年度決算書を入手したらまた続編を書こうと思う。

*double standard:CALDより
 a rule or standard of good behaviour which, unfairly, some people are expected to follow or achieve but other people are not


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mami

病院関係の話で、ひとつ。

予算とは関係ないのですが。以前、話していた産婦人科病棟再開の話ですが、どうやら暗礁に乗り上げているみたいですね。

医師は7月に来るみたいなんですが、看護師と助産師が足りずに病棟再開の見通しがたっていません。

さずがに医師が着任しても、看護師も助産師もいなければ立ち行かない分娩と病棟ですから、またもや前回のような二の舞の話になってしまいそうですね。




by mami (2010-06-05 16:08) 

ebisu

年間12億円もの赤字を出し、建て替えた後は最大20億円もの年間赤字が予想されるような病院に若い人がなかなか集まらないのは当然でしょう。

正直に・誠実に経営改善に取り組み、患者のために出来る限りの医療を提供しようと努力する病院には未来があります。
わたしが助産師や看護師でもそういう病院を選びます。

医者が来てもスタッフ不足で病棟再開できないかもしれないのですか。
そうならないことを祈りますが、スタッフをそろえるには経営の安定が何よりの処方箋でしょう。
市民や患者のために、真摯に経営改善に努力すべきです。補助金頼みや他人任せではいけない。
自助努力をするところ、意欲と希望のあるところに人は集まる。もちろん患者もです。
どうしてこんなあたりまえのことがわからないのでしょうね。不思議でなりません。
by ebisu (2010-06-05 23:54) 

サリー

「広報ねむろ」で実数字を公表してしまったら “広報誌”じゃなくなっちゃうから、新聞や塾長のブログで数字のカラクリを暴いて伝えればいいのです。
病院は、黒字経営を目指して、売上げにがんばるつもりなのでしょうか。
収入源は、患者(お客さん)だから、病院を気に入ってもらわなければなりません。
良い診察&治療、医療サービスが充実すれば、市立病院嫌いの患者も釧路の病院へ流失することがなくなるかもしれませんが、病院の家計簿が火の車にならないことを祈りたいです。
ところで、
「市長への手紙」は、市長以外に誰が読んでるのでしょうか?
市民がどんなことを望んで訴えてるのかを、「広報ねむろ」で、匿名で公表してほしいです。 それぞ、広報!(笑)

市の仕分け作業もがんばってもらいたいです。
by サリー (2010-06-06 15:03) 

Holy Talker

新病院建設において何時も思うことを書込みします。

老朽化している病院を新築するのは市民の声ではあると思う。
ただ財政が苦しいなかで、病院を新築するのという意見には賛否が多いのではなでしょうか?

それ以上に市の新病院を建設すると、患者が増え、赤字経営を少しは解消するという根拠が私には理解できません。

根室市自体の人口が減少し、病状によっては高度医療受診の為、最初から地方へ向かう人もいる現状で、なぜ患者が増えるのかがわかりません。
(大きい病院では紹介状とか必要な為、受診する場合もあると思いますが。。。)

世間では、未病対策として自分で健康をチェックする人が多くなっているから、病院を受診する人も減るのではないでしょうか?
by Holy Talker (2010-06-07 08:20) 

ebisu

サリーさん激励ありがとう。
情報はごまかしなく、オープンに。
夕張市は失敗しましたが、町の財政と市立病院の健全な維持はたいへんなことです。
事実を共有し、和気藹々と新病院を建て替えたいものです。

古本市会場で、白皮のショートジャケット、素敵でしたね。
by ebisu (2010-06-07 13:09) 

ebisu

HolyTalkerさん、私もそう思います。
人口は10年後2.6万人前後になる。10年前に比べると10年後は8000~9000人減少です。
患者が減るわけです。
老人の患者が増えているのですが、療養ベッドがなく受け皿がない。市立病院はニーズに合わない運営で売上を逃しているとも言えます。
市立病院から患者が減っているのは病院が古いことだけが原因ではないということです。医者がそろえられたとしてもこの10年間を見ると患者の数は減少しているでしょう。
主な原因は人口減少と、根室の地域医療ニーズに合わない病棟体制維持にもあります。
市内に患者は溢れているのに療養病棟がない、今後もやるつもりがない、そうした姿勢がいけない。

それにしてもたった150ベッドの小規模病院では設置できる診療科は限定されます。これからは釧路の病院と分業で、棲み分けを積極的にしなければ地域医療が維持できないでしょう。

患者を増やすには、患者の増えている老人医療でニーズにマッチした体制をつくらないといけないのですが、市は二つの精神科の病院だけで十分と考えているようです。
こういうセンスでは、経営改善できるわけがないですね。
by ebisu (2010-06-07 13:24) 

HolyTalker

ebisuさんの意見は、いつも問題点が的確でわかりやすいですね。学の無い私にもとてもよくわかります。

実際、市議の人達も『新病院建設=患者が増え、赤字経営を少しは解消する』という意見なのでしょうか?
ebisuさんの言うとおり、市民が減少する中での患者増加は難しいと思うのが一般論ではないでしょうか?
この点は市議会などで、根拠を明確にしてほしいところです。

広報の市長の言葉に

『市民が安心して暮らせ、心の支えとなる病院』
『市民に愛される病院』

などがありましたが、これから高齢者が急激に増える中、療養病棟が市内で不足するのが明白な事実なのに、この問題をさけて病院建設してしまうことが市民の安心の為なのでしょうか?

建設後に病棟追加などはなかなか難しいのだから、初期設計時点で、療養病棟も考慮した設計した方がよいのではと思います。

ここからは私の妄想ですが、新病院は5階建てにして、最上階である5階の一部をコミュニティースペースで確保し、患者の診察待ちの時間潰しや患者同士の井戸端会議の場所として提供した方が良いのではないかと思います。
by HolyTalker (2010-06-08 19:15) 

クラブナビ

コミュニティ構想はすばらしい
患者さんに取って健康な方々との交流がいかに励ましになるか。
銀行や郵便局の出張所も欲しい。隣ではなく,内部にあれば患者さんも職員も見舞い客も使える。

地下にはタクシー会社の営業所を設立。
今の根室はノンベよりも患者さんの方がタクシーの利用率が高いし。

市立の児童施設と,県立の障害者施設を隣接するのが多いと聞きます。これも社会教育の一環ですよね。
明治時代に回帰し,根室もコンパクトシティ構想で経済/行政/商業を中心に集めてしまうというのはいかがでしょう?
by クラブナビ (2010-06-09 15:47) 

ebisu

HolyTalkerさん、どんどん「妄想」してください。

いいアイデアですね。そういう交流広場をもった病院が北海道に一つあってもいい。
クラブナビさんが「患者同士のコミュニケーションは生きる力になります」と言ってますが、そのとおりの経験をわたしも4年前にしました。
術後にどういう状態が待っているのか、先輩患者が教えてくれたり、その様子を見ることで、ずいぶん気持ちが楽になります。

基本設計、ぜひやり直したいものです。
誰か市長に立候補して、基本設計からやり直してくれないかな。
前回と同じ無投票当選だけは避けたいものです。

by ebisu (2010-06-09 22:48) 

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