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オバマ大統領就任演説を読む(3) [1, 2, 3] [オバマ大統領就任演説を読む]

オバマ大統領就任演説を読む(3)

(1)  My fellow citizens:

 I stand here today humbled by the task before us, grateful for the trust you have bestowed, mindful of the sacrifices borne by our ancestors. I thank President Bush for his service to our nation, as well as the generosity and cooperation he has shown throughout this transition.

(2)  Forty-four Americans have now taken the presidential oath. The words have been spoken during rising tides of prosperity and the still waters of peace. Yet, every so often the oath is taken amidst gathering clouds and raging storms. At these moments, America has carried on not simply because of the skill or vision of those in high office, but because We the People have remained faithful to the ideals of our forbearers, and true to our founding documents.

(3) So it has been. So it must be with this generation of Americans.


(1) 市民の皆さん。私は今日、我々の前にある職務に対して厳粛な気持ちを抱き、あなた方から与えられた信頼に感謝し、我々の祖先が支払った犠牲を心に留めながら、ここに立っている。私は、ブッシュ大統領の我が国への奉仕、並びに大統領がこの政権移行期間に示した寛容さと協力に感謝する。
(2) これで44人の米国人が大統領就任宣誓を行った。宣誓は、繁栄の高まりのときや、平和で静かなときに行われたこともあった。しかし、しばしば、宣誓は、暗雲が垂れこめるときや荒れ狂う嵐のときに行われた。こうした時、米国は、指導者たちの技量や理念だけに頼ることなく、我々人民が祖先の理想に忠実で、建国の文言に正直であることによって、乗り切ってきた。
(3)  ずっとそうやってきた。この世代の米国人も同様にしなければならない。
 

《解説》
  偉そうに"解説"しているが、私の自由気ままな解釈を述べているに過ぎないので、期待しないで気楽に読んでいただきたい。もちろん、文章にはいろいろな解釈があっていい。北海道新聞と読売新聞の翻訳文を読み比べてみてもそこここに原文の解釈に違いがある。あれこれ、いじくり回してみること、それが勉強の楽しさだ。わたしは一つの解釈を提示するのみである。

 第1段落の文章は高校生には少し難しいかもしれないから、文法点描で解説する。
  hereは歴代の大統領が就任演説をすることになっているこの場所をさす。オバマはいまその場所に立っている。the taskはオバマが支援者に約束したイラクへからの撤退、アフガンへの関与、金融危機への対処など、山積する国内外の課題、それを大統領として一身に担う職務として厳粛に受け止めてこの就任演説の場に立っているのだと語りかけている。「大統領としての職務」をいう意識が強く出たから、tasks ではなく"the task"と定冠詞がついて単数なのだろう。複数形にすると大統領としての職務という重みが失われる。"humbled by"が有効に機能している。Forty-four Americansはもちろん44人の大統領だ。
 オバマはこの段落を前任者ブッシュ大統領への謝辞で締めくくった。よくあるビジネス文書の典型である。わたしもしばしばビジネス文書では謝辞を入れることを心がけた。送ったほうも送られたほうも気分がいいし、相手とのコミュニケーションもよくなる。
 第2段落でオバマは就任宣誓が二通りの状況下でなされてきたことを説明する。"the still waters of peace"は、凪の穏やかな海を想像させる語である。watersという語は新聞英語では時々お目にかかる。exclusive economic waters(排他的経済水域)のように「水域」という意味で複数形で使われる不可算名詞であるが、ここでは水の量の多さを強調しているだけだろう。woodsが森を意味するように、ここではwatersは海を意味している。
 peaceやpacific oceanで連想するのはマゼランの世界一周である。1520年スペインを出てから南米大陸南端のホーン岬を回ると、途端に嵐の海が凪に変わった。それでEl Mare Pacificum(静かな海)と名づけられ、英訳されてpacific oceanとなった。語幹のpacは平和条約pactや平和peaceに使われているようにさまざまな派生語を生み出している。そしてwatersをtidesと並べて使うことでイメージが重なり、言葉に調和した響きが感じられる。


《文法点描:
 I stand here today humbled by the task before us以下を完全な文に書き直すと次のようになる。
 I am grateful for the trust you have bestowed.
  I am mindful of the sacrifices borne by our ancestors.

これらがつながって1文になることで、同一主語と一緒にbe動詞
が省略される。
 I stand here today humbled by the task before us, (being) grateful for the trust you have bestowed, (being) mindful of the sacrifices borne by our ancestors.
このように分解すれば、意味がつかみやすいだろう。

(3)の指示代名詞itは何を指しているのだろう?こういうときは省略されている部分を補ってみよう。
 So it has been [carried on by America].
  So it must be [remaind by us] with this generation of Americans.

  「
米国はいままでそうしてきたし、だからこそ、同じ世代を生きる米国人たちもともに次世代へ[being faithful to the ideals of our forebears and being true to our founding documents]であることを伝えていかねばならない」と主張しているのだろうか。
 itは漠然としたitのようにみえる。あえていえば、「祖先の理想に忠実であること、そして建国の文言に誠実であること」だろうか。これら二つを受けてしまうと複数になるから指示代名詞はitではありえない。だから漠然としたitと解釈した。Americaを受けているという解釈もありうる。議論の余地のある部分だ。
 強引に敷衍すると「いままで祖先の理想に忠実に、そして建国の文言に誠実に国を運営してきたが、これらは現在、米国を担っている世代が力を合わせて守り続けていかねばならない政治の原理原則である」とオバマは謳っている。
 現在完了形の文とmust beの文を併記してsoを繰り返し使うことで、一つの価値観が形を変えずに時代を超えて受け継がれていく様を聴き手にイメージさせる。

2月6日追記
(3)の解釈は間違っていたようです。今日授業をしていて生徒に説明して気がつきました。
 carry on も remain もどちらも自動詞です。だからhas been carried onも has been remainedもありえません。すなおにそのまま解釈すればよかった。
 It is so.のsoが強調されて前に出てきて、現在完了で表現されたもののようです。「そのようにある」(単純現在)⇒「そのようにいままであり続けてきて、いまもそうある」(現在完了)、このように解釈すべき文だったようです。そのあとの "So it must be with this generation of Americans."は現在と未来のことについて語っています。「この世代の人々とともにそのようにあらねばならない」、つまり現在の世代の米国人が建国の精神を次の世代に橋渡ししなければならないとオバマは語っているようです。
 ItをAmericaと解釈すれば、「米国はいままでそう(建国の文言に忠実)であったし、これからも現役世代と共にそう(建国の文言に忠実で)あるべきだ」という意味になる。Soを接続詞に解釈する余地もある。文脈からどれが妥当性が高いかを判断し、訳を選ばなければならない。

 現在完了形が多用されていることに気がつけば、オバマが現在の状況に意識の焦点を絞っていることがわかる。過去のことは現在との関わりにおいて語られているのだ。現在完了の用法はこういう文章をたくさん読むことで、一つのイメージとして理解できてくる。

  私はニムオロ塾で時事英語を教えるときにはスラッシュ・リーディングを併用している。受験用テキストの読解速度を上げるために有効だからだ。Hirosukeさんのブログにあるスラッシュリーディングテキストはたいへん参考になる、併せて読んで欲しい。時事英語授業の雰囲気がつかめるだろう。
 ただし、スラッシュ・リーディングでは読めない文はある。日常会話や込み入ったレトリックが使われていないこと、そして変形文法でいう文法工程指数が高くない文にのみ、スラッシュ・リーディングが通用する。このことは機会を見つけてもうすこし説明しておくべきだろう。スラッシュ・リーディングはコンテキストのチェックがしづらいし、読み手の勝手な推測で文意の取り違えが起きやすいことも要注意だ。
 すべからくテクニックにはそれに固有の適用限界がある。そこを心得ていれば実害を小さくすることができるというのが私の経験智である。そのことは普遍的な真理であるようで英語の勉強に限らない。
 Hirosukeさんの意見を伺ってみたい気がする。英語を勉強する動機の違いから、いろいろな分野の英文理解上の問題点がくっきりと浮かび上がれば面白いのだが・・・以下はHirosukeさんのブログアドレスである。
  
http://obama-de-english.blog.so-net.ne.jp/2009-01-24-1
 
《根室の高校生の皆さんへ》
 言葉のニュアンスを翻訳文で伝えることは難しい、というよりも不可能である。もしやろうとすれば、翻訳文に解説をつけなければならない。原文の数倍の解説を書いてもなお伝えきれない部分が残る。だから、翻訳文を読むだけでなく、原文そのものを読む必要がある。原文の魅力を味わいたい人は英語の勉強を徹底すべきだ
 ニムオロ塾は英語がわからなくなった生徒ばかりでなく、原文の魅力を味わいたいという志の高い生徒の塾でもある。小数でレベルがさまざまな根室の生徒のためには個別指導が最適だ。
 職権でセイコーの無人の腕時計組み立てラインを見学させてもらったときの事を思い出す。多品種少量生産のためにアーム型ロボットを開発して、工場へ導入していた。十数台で一つのラインを構成していた。それが一つの部屋に3ライン並んでいた。もう20年以上前のことになる。
 人口の少ない田舎には様々なレベルの生徒が小数ずついる。都会と違って同じレベルの生徒を多数集めるわけにはいかない。根室のようなところこそ個別指導がふさわしい。

 就任演説原稿(原文・翻訳)は勉強の材料としては高校生には少し難しいかもしれないが、欲しい人は塾生でなくてもあげるから、ちょっと寄って、「こんにちは、オバマ大統領の就任演説原稿がほしいのですが」と声を掛けてくれればいい。

 *原文テクスト、和訳ともに今回から読売新聞のものを掲載した。前回紹介したHirosukeさんのブログに貼り付けてあった読売新聞の対訳を利用させてもらっている。
 (1)(2)(3)は私がつけた段落通し番号である。

  2009年1月29日 ebisu-blog#508
  総閲覧数:70,656 /429 days(1月29日0時00


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コメント 4

Hirosuke

>スラッシュ・リーディングでは読めない文はある。

はい、承知しております。
下に掲げる記事が、間接的ではありますが、ひとまずの答になるかと。
ご参考まで。
(まだまだ、書きたいと思いながら書けていない事柄が多いのです。)

「訳語は文脈で変化する」
http://tada-de-english.blog.so-net.ne.jp/2008-12-14-1

「英文和訳=最低最悪の英語『学習』法」
http://tada-de-english.blog.so-net.ne.jp/2008-05-11

by Hirosuke (2009-01-29 00:45) 

ebisu

 丁寧なコメントありがとうございます。ブログを早速読ませていただきました。具体例を挙げながら、帰納的に「theはこの世の中にひとつしかないものにつく」、という説明が載っていました。なるほど簡潔で分かりやすい説明です。この簡潔さはたくさん読んで感覚が身についた上での技のように見えます。わたしもHirosukeさんの生徒になってみたい。

 英語の極意は「カタチ、イミ、キモチ」と書いておられますが、「ハートで感じる英文法」の大西泰斗先生や「新感覚英語」の田中茂範先生のテレビ講座授業に近いものを想像していますが、違うような気もします。
 ブログを見て実際の授業を受けたい人が多いと思います。授業をDVDに収録して市販していただけるとありがたい。自分の目で見てから生徒に薦めたい。 

 もう一つ。英文解釈が英語・日本語・専門知識の総合力であることは納得がいきます。日本語の表現力が問題になってきます。それが初学者の英語の勉強には役に立たないことも納得がいく。学習の方向がそれてしまう。受験英語のテキストはスラッシュ・リーディングで十分に攻略できるから、段落単位でのスラッシュ・リーディングを徹底することに授業の重点を置いて見ます。

 お勧めの方法は、頭に中に意味をイメージしながら、ひたすら音読ですね。いままで音読にぴんと来ないところがありましたが、お陰様で迷いが吹っ切れそうです。勉強は年齢に関係なくいつからでも始められます。これも何かの縁ですから試してみます。
by ebisu (2009-01-29 02:22) 

Hirosuke

Hirosukeです。

「僕の作りたい英語教材」にnice!を頂き、ありがとうございます。
また、記事そしてコメント欄で大きく取り上げて頂いている事に、感謝と共に大きな励ましを得ました。

実は、諸事情あって今はリハビリ生活です。
長い文章が書けません。
事情、ご推察頂ければ幸いです。
by Hirosuke (2009-01-29 21:03) 

Hirosuke

>It is so.のsoが強調されて前に出てきて、・・・
 ↓
これが、まさしく「キモチはカタチに現れる」の典型です。
いわゆる「疑問文」や「倒置」も同様です。

さらには、僕は自動詞・他動詞の区別をしていません。
「カタチ、イミ、キモチ」で読むと、要らないんです。
これも長くなるので、そのうち、じっくりと。
by Hirosuke (2009-02-17 15:14) 

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