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ある「年頭の挨拶」から [82.言葉のアンテナ]

ある「年頭の挨拶」から

 ある社団法人理事長の新年の挨拶をとりあげる。根室はいいことがたくさんあるが、そうでないこともある。なぜだろう?
 仲間内だけで物事を決めることがそうだ。外部に対して開かれていないところが、戦後63年間根室に一貫して流れる負のエネルギーの淵源をなしているように私には見える。

  小さな閉じた村社会が根室にはいくつかある。たとえば、漁業組合もそうした中のひとつに数えられる。全部がそうではない。歯舞組合のように開かれたところもある。全体を見れば漁業組合も過渡期にあり、変化しつつあるということだろう。

 悪い見本を二つ挙げる。一つは湾中漁業組合、もう一つは根室漁業協同組合である。
 湾中漁業組合長(当時)が船長の蟹かご漁船がかにの密漁をしてロシア国境警備艇から発砲を受け、乗組員が死亡した。組合長は公職である。越境して密漁するなど公職に就いている者として自覚が足りないといわざるを得ない。
 同じことは根室漁業協同組合にも言える。根室漁船保険組合専務理事が使い込みで逮捕された。組合長には管理監督責任がある(根室漁船保険組合長は根室漁業協同組合長が兼務している)。新聞報道によれば、組合長の会社は沈没した船に関する保険金詐欺容疑で捜査を受けた。「実務を担っていないので知らない」というのが言い分だが、蟹かご漁船の船長が根室に戻って来てから越境=密漁の事実を否定したのに似た言い訳である。
 
 公職にある者は出処進退を誤ってはならないが、正月に市場で挨拶をする姿がテレビに映っていたから、まだ現職のようだ。人口3万人の町には替わるべき人材がいないのだろうか。そういう心配をしたくなるような新聞折込があった。

 ある経済団体の理事長の年頭の挨拶を抜粋して紹介する。

「・・・①未曾有の厳しい社会情勢・地域経済だからこそ求められる人材は、利益のみを追求せず社会的公共心をもち、よく修練されていて、様々な人脈をもっている人材だと考えます。
 ②ともすれば経済的悪化などに関心がいきがちですが、この根室地域には他にない素晴らしい自然資源地域的魅力存在的可能性が多く存在しております。③この未来の可能性を現実のものとすべく、常に積極的に建設的に物事を思考し、様々な意見を聴きながら議論をし、リスクを管理しつつすばやく実行していくことを行動指針としていきながら、この地域と共に歩む一団体として、自信を持って誇れる活動を実践して「明るく豊かな社会」の実現のために他団体と協力していきながら様々な事業に取り組んで参ります。・・・」

 番号は私がつけた。①は根室の今求められる人材は公共心があり、厳しく自己を律することのできる人材だと言いたいのだろう。そして様々な人脈をもっていることが望ましいと。②の「経済的悪化」は「金融危機により不況の波が根室の企業にも及んでくる」とでもいえば分かりやすい。「自然資源」はふつうは「天然資源」という。「地域的魅力」は「水産資源に恵まれ、霧も深いが情けも深いと歌にあるように情に厚い根室の魅力」とでもすればいい。「存在的可能性」はまるで哲学用語だ。年頭の挨拶で使うべき言葉ではない。おまけに、「存在的可能性が・・・存在して」というのはトートロジー(同義反復)だ。慣れない用語を使うからこのようなことになる。
 ③の「未来の可能性を現実のものとすべく」も年頭の挨拶としては硬い。「積極的に建設的に物事を思考し」も同様に硬い。③は実に長いセンテンスだが、肝心の主語が省略されているので言いたいことが掴まえにくい。主語はこの団体だ。

 根室経済界を代表する若手団体の理事長がこの程度である。人材不足ここにきわまれりの感が深い。どれほどの仕事ができるのか、書いた文書を見ただけで見当がつく。当の本人が「よく修練された」人材が必要だと書いているではないか。他人事ではない。

 そこで四つ忠告だ。
 ①文書を書く「修練」をすること
 ②書いたら声に出して読んでみること
   ⇒声に出して不自然なら書き直せ
 ③理事長名を使って文書を公にするときは、他のチェックを受けること
 ④仲間内だけで群れていないで、教養ある大人とお付き合いをすること

 大企業なら係長も危ないレベルの文書能力と判定しよう。残念ながら根室の若手の経営者を集めた経済団体の理事長がこういうレベルだ。仕事の能力も文書能力に比例しているだろう。
 中高生はこれを他山の石としろ。中学高校時代によく学ばなければこういうことになる。地元に残る2代目、3代目はもっともっと勉強しろ。地元の疲弊は「重鎮」になった将来の君たちが招くのだ。そうならないために、中高生の時代にたくさん勉強しろ。故郷をよくしようと思うなら、中学・高校時代によく学び、しかる後によく遊べ。故郷のために勉強するぐらいの気概をもて。

 合弁会社でいっしょに仕事をしたある同僚がかつて私にこう言った。「文書がきちんと書けるのはこの会社ではあなたと私の二人だけだ」と。合弁相手から出向してきた二人の役員のレベルはその文書を見ただけで判断がついたし、その判断は正しかった。
 分かりにくい文書、支離滅裂な文書を書く人は仕事もそうなるということだ。文書には書いた人の資質が出てしまう。
 元同僚だった彼は、ある国際標準化機構の日本法人で審査を担当している筈だ。千葉大薬学部出身で、TOEICは850点だと言っていた。語学に堪能な男だ。
 私が「塾長の教育論」というカテゴリーで語学は専門分野を持たないと社会に出てから役に立たないというのは、こういうことだ。TOEIC850点は薬学という専門分野があってはじめて威力を発揮する。英語だけなら派遣社員のキャビン・アテンダントかツアーコンダクターが関の山だ。

 管理職や役員として有能かどうかは書いたものを見ただけである程度判断がつくものだ。もうひとつ、文書に関わる事柄を例に挙げておく。ある一部上場会社の創業社長が厚生省から引き抜いたKさんが入社してから半年ぐらいの時点で書いた社内調査レポートを見る機会があった。経営企画部調査役という肩書きだったろうか。スマートな社内分析だった。社内でそういうレポートが書ける役員はいなかった。数年後、彼が社長になった。私は彼が社長になることを、そのレポートひとつで確信していた。文書にはそれほど潜在能力が出てしまう。余談が長くなった。

 たまたま、この年頭のあいさつ文を採り上げた。この団体理事長には一面識もない。採り上げたことを申し訳なく思う。しかし、公職の重みを知り、今後の精進に期待したい。いつからでもやり直しはできるので、後輩たちのよき模範となってもらいたい
 失礼ながら、拙文であることを承知で書き直させてもらう。

 「金融危機をきっかけに不況の波が根室の町にも押し寄せていますが、こういう時期だからこそ、厳しく自己を律し、個人的利益よりもわが故郷の利益を優先して行動することのできる人材が求められております。
 経済情勢の悪化だけに目を奪われず、根室にある豊かな水産資源や自然にも目を向け、プラス思考で新しい事業や活動に取り組むべきだと私たちは考えます。こうした考えのもとにいろいろな団体や個人の意見にも耳を傾け協力しあって、「明るく豊かな社会」実現に邁進してまいります。・・・」


  5月25日ブログ#191『根室漁船保険組合専務、数千万円着服か』
  http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/archive/20080525
   8月15日ブログ#256『根室漁船保険組合専務、数千万円着服のその後』
   
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2008-08-15
  8月18日ブログ#261『近頃多い横領事件3件にみえる類似パターン』 

  10月10日ブログ#347『根室漁業組合長 虚偽書類で保険金』
  
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2008-10-10-1
  
  12月3日ブログ#427『漁船保険組合の元専務理事逮捕』
  http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2008-12-03
  
 
*2006年8月16日カニかご漁船銃撃事件(ウィキペディアより)
「帰国後、船長は「越境も密漁もしていない」と、責任逃れの発言をしていたが、その後、根室海上保安庁の捜査に対して、違反操業を認め、
2007年3月2日、根室海上保安部は船長ら3人を、北海道海面漁業調整規則違反(区域外操業など)の疑いで釧路地検に書類送検した。」

 2009年1月13日 ebisu-blog#486
  総閲覧数:64,056 /413 days(1月13日8時00分)


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NO NAME

本来,事業主は売買の取引こそ主にするべきであって,
提携や供与が主であるべきではないと思います。
利益効率を良くするためには,余計な経費を費やしたり,不本意な考え方に追従する必要がないからです。

しかし個としての運営が厳しい環境では,組合というつながりが必要な場合もあります。
つまり組合費を払ってでも多数意見に従ってでも,組合と言う組織に属していたほうが危険リスクを小さくできるという論理です。

当方はどちらが優れた考えなのか分かりかねますが,経営手法よりも,文章を作るという方が数段難しいことが分かりました。
by NO NAME (2009-01-13 19:07) 

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