宮沢賢治 雨にも負けず・・・(3)完 [B6. 宮沢賢治他(原文対訳)]
宮沢賢治 雨にも負けず・・・(3)完
9月23日#312『雨にも負けず・・・』を英語に訳してみることを高校生諸君に勧めた。英語の勉強になるからだ。原詩にRoger Pulversの訳をつけた。9月22日ジャパンタイムズ紙に掲載されたものである。11月12日#381『雨にも負けず・・・(2)』で途中まで訳文を載せた。同じものを再掲して続きを継ぎ足しておく。
雨ニモマケズ Strong in the rain風ニモマケズ Strong in the wind雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ Strong against the summer heat and snow丈夫ナカラダヲモチ He is healthy and robust慾ハナク Free from desire決シテ瞋ラズ He never loses his temperイツモシヅカニワラツテヰル Nor the quiet smile on his lips
出だしのstrongは驚いた人が多かったのではないだろうか。日本語の意味をつかんで、英語のボキャブラリーを選ぶ、たったそれだけのことだが、それこそが難しい。
日本語の作文だって同じだ。たくさんある日本語から自分が表現したいことにどのような語彙を選択するか。語彙が豊かであるほうが選べる言葉の範囲が広くなり、表現も豊かになる。
"smile on his lips"も静かに微笑んでいる様子がよく出ている。これらの単語を知らない高校生はいないだろう。しかし、"on his lips"を適時適切につかえる高校生は少ないだろう。だから、こういう素材でトレーニングが必要なのである。
続きはまたそのうち採り上げるので、原詩を再掲する。引き続き楽しんでもらいたい。
〈以上、前回まで〉
一日ニ玄米四合ト 味噌ト少シノ野菜ヲタベ
He eats four go- of unpolished rice Miso and a few vegetables a dayアラユルコトヲ
ジブンヲカンジヨウニ入レズニ He does not consider himselfヨクミキキシワカリ
In whatever occurs...his understanding Comes from obserbation and experienceソシテワスレズ And he never loses sight of things
野原ノ松ノ林ノ陰ノ He lives in a little thatched-roof hut小サナ萱ブキノ小屋ニヰテ In a field in the shadows of a pine tree grove東ニ病気ノコドモアレバ If there is a sick child in the east行ツテ看病シテヤリ He goes there to nurse the child西ニツカレタ母アレバ If there's a tired mother in the west行ツテソノ稲ノ束ヲ負ヒ He goes to her and carries her sheaves南ニ死ニサウナ人アレバ If someone is near death in the south行ツテコハガラナクテモイヽトイヒ He goes and says, "Don't be afraid"北ニケンクワヤソシヨウガアレバ If there are strife and lawsuits in the westツマラナイカラヤメロトイヒ
He demands that the people put an end to their pettiness
ヒデリノトキハナミダヲナガシ He weeps at the time of droughtサムサノナツハオロオロアルキ ミンナニデクノボウトヨバレ
He plods about at a loss during the cold summer Everyone calls him Blockheadホメラレモセズ No one sings his praisesクニモサレズ Or takes him to heart ...サウイフモノニ That is the kind of person ワタシハ ナリタイ I want to be
「死にそうな」を"If someone is dying"とやってしまうと、まさに今死につつある人間が目の前にいるかのような感じがするが、"If someone is near death"とやると死期が近づいた人、たとえば末期の癌患者がターミナルケアを受けているような心の安らぎを感じる余裕ができる。単純現在のIf節を使うことで、そういう人がいれば、そうしてあげると淡々とした味わいが伝わる。
"He plods about at a loss during the cold summer"に使われているaboutは教科書ではあまり使われない用法だが、教科書以外ではそう珍しくない使い方である。「寒さの夏はおろおろ歩き」の「おろおろ」という感じが"at a loss(途方にくれる)"と相乗効果をあげてよく伝わってくる。
aboutは何かある対象、あるいは核の周辺をふらついている感じがする前置詞である。対象の周辺をうろつくのみで、対象そのものへは触れない、あるいは入り込まない、そういうモヤモヤ感が「約」とか「だいたい」という意味につながっている。
自分で英訳をやってみた人は、自分が書いたものと比べてみることで、英語表現の奥行きに触れることができただろう。これをきっかけに自分がいいと思う作品の英訳を探して読んでみるといい。アマゾンで検索すれば、出版されているかどうかはすぐにわかるだろう。いい時代になった。
*英訳の著作権を侵害することになりそうなので、線を入れてあります。
2009年1月10日 ebisu-blog#481
総閲覧数:63,272 /411 days(1月10日0時00分)
コメント 0