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#037 市立病院はほんとうに黒字か?…(2) [26. 地域医療・経済・財政]

2,007年12月28日   ebisu-blog#037
総閲覧数: 1,675/33 days (29日16時00分現在)

NHKFM放送から流れるジャズを聴きながら、のんびりブログを書いている・・・

 首都圏の臨床研修医確保の状況については前回の地域医療(カテゴリー区分)に関するブログ(12/27, ebisu-blog#033)で書いた。K氏の資料によれば、首都圏の大学病院ですら、臨床研修医が定員を満たしておらず、3大学病院を除いて診療体制に支障を生じていることがわかった。

 午前中に市の広報 『安心の医療と信頼の交流に向けて』 が届いた。市立根室病院長の荒川政憲院長が「祈り」と題して巻頭の記事を書いている。この記事によると今年4月には「大津波が退いた後に残されたのは、小児科の副院長と僕の二人」と書いておられる。大津波とは旭川医大の派遣医師の引き揚げである。
 関係各機関の協力もあり、現在常勤医10名体制での診療が続いている。国の協力体制は今年度一杯のみで、来年は自前でなんとかしろとのことであった。だから、来年度も相変わらず厳しい状況が続くことが予想される。院長はじめ病院関係者と市側の努力に対しては感謝の言葉を述べておきたい。その上での苦言である。

【企業会計ベースで“市立病院は0.2億円の黒字”は真実か?】
 さて、この広報の7ページからは「根室市の財政状況」となっている。市立病院の状況は「特別会計及び企業会計への繰り出し金の状況」の項目に表が付され、「企業会計」区分の中に病院会計として表示され、10.6億円計上されている。
 10ページには「各企業会計のあらまし」が載っており、「市立根室病院事業会計」「平成18年度決算の概要」が説明されている。34.3億円の収益に対して費用は34.1億円かかっており、0.2億円の利益となっている。

【市の広報と市長発言の食い違い⇒広報とは正反対の発言】
比較のために、今日配られた市の広報とはまるで内容の違う、中標津で開かれた民主党の道政懇話会での長谷川市長の発言を引用しておく。

  意見交換では、根室市の長谷川俊輔市長が病院の問題について
  「18人だった医師が10人にまで減り、当初5、6億円だった一般
  会計からの繰り入れは2006年度決算で11億円。
しかし、
  年度の決算見込みでは15億円ほどになりそうで、不良債務を
  出さざるを得ない
」と述べた。(11月20日釧路新聞より)
http://www.news-kushiro.jp/news/20071120/200711201.html

 市の広報では病院会計は黒字であると宣伝し、中標津で開かれた道政懇話会では、2006年度は11億円の赤字で、一般会計から赤字分を繰り入れ、補填したと述べている。しかも今年度の決算見込みで赤字幅が15億円ほどにもなると本音を漏らしている。実際にはそれよりもさらに2億円ほど増えるだろう。
 なぜ、2007年度予算で一般会計からの繰り入れを5億円しかみなかったのか、予算作成時には10億円を超える赤字がはっきりしていたはずである。根室市の病院会計予算はいい加減であると言わざるを得ない。単なる数字合わせに過ぎない。2008年度も同じことをやろうとしているのではないだろうか。2008年度の病院事業売上予算は17億円以下でみるべきである。
 市の広報では黒字と言い、懇話会では赤字補填のために一般会計からの繰り入れが必要と言うしかも全額補填ができない状況で、「不良債務」を出さざるをえないとまで発言している。病院会計は今年度末に実質破綻を迎えると市長自身が認めているのだ。

【市長の職責を問う】
 決断と行動が求められている。にもかかわらず、何も手が打たれていない。このままでは市長失格であると言わざるをえない。市長はこのまま何も具体策を提起も実施もせず、3月の平成19年度決算を迎えるつもりなのだろうか。打つ手はいくらでもある。市長という立場に立ってしまったら、やるべきことをやるしかない。できなければ辞任すべきである。能力のないものが分不相応な地位にしがみつくと結果はひどいことになる。そうではないことを証明するために、長谷川市長の果断な政策決定と実行を望む
 K氏は3月に派遣医師引き揚げ情報に接すると、すばやく反応して、ある県立病院のスタッフを別の病院へ異動させ、赤字拡大を押さえた。迅速かつ果断な処置だった。わがふる里根室に能吏がいるなら姿を現せ。
 
【企業会計とは?】
 企業会計とは如何なるものであるのか。
 簿記3級は個人商店会計が対象である。2級から企業会計が対象となる。根室高校商業科と事務情報科の2年生は2月に全員が全商検定簿記実務試験2級を受けるから、企業会計が何であるかの概要について知識がすでにあるだろう。そこでだ、この広報を「教材」として良く眺めて欲しい。
 結論から言うと、明らかな粉飾決算である。
 一般会計からの「繰り出し金」は損失補てん資金であって、収益ではない。つまり毀損した資本を補うための資金注入である。「繰り出し金」を病院事業収益に加えることは、企業会計上は許されざる行為である。公認会計士は誰一人として、このような決算を限定意見なしに承認するものはいないだろう。実際には決算書の作り直しを命じられる。
 ところが、驚いたことに、このような処理はなにも根室に限ったことではない。インチキ「企業会計」は全国の地方自治体にはびこっている。

 まともな企業会計では、18年度の病院事業収入は23.5億円その収益を稼ぐのに使った費用は34.1億円である。差し引き10.6億円の純損失である。この10億円余の損失によって自己資本を毀損し、債務超過となった。そこで一般会計からの「繰り出し金」で債務超過の穴埋めのために「10億6千万円の増資」を行った。

【粉飾決算⇒収入と収益の取り違え】
 市の広報で10ページでは「純利益」2,428万円となっている。10億円余の損失がどうして利益となるのか、そのからくりはもうご理解いただけたろう
 公的会計はもともと収支計算書である。損益計算書ではないのである。収入と支出を対比しているに過ぎない。お金が足りなくなれば借金をして補填する。その借金が「収入」となる。市の公表する「企業会計」なるものは、公的会計の収入を「収益」と置き換えているだけである。収入と収益の区別もつかないようでは高校生以下である。企業会計で借金を収益とは呼ばないのである。民間企業でそのような経理処理をする経理課長がいたら、企業の財政状況や経営状態の判断を誤らせ、会社を潰すことになる。

 10億円の赤字なのに2,428万円の純利益などと虚偽の「企業会計」報告をしているから、市民や市議会議員が判断を誤る。この間の市議会でも、具体的にこの問題を追及した議員は一人もいない。当たり障りのない質問で終わっている。
 簿記2級、つまり高校2年生程度の専門知識があれば、自分で計算しなおして、きちんと質問できるはずなのだが・・・人材不足は否めない。いったい小さな町に市議会議員が20人も必要なのだろうか。実質競争のない状況ではなかなか人材が出てこない。議員定数を半分にすれば、もっと一生懸命に勉強して町を良くする具体的な提案のできる議員が誕生しないだろうか?

【今年度の病院会計決算見通し】
 さて、今年度の状況についてみてみよう。「平成19年度予算上期の進行状況」が載っている。収益11.7億円に対して費用16.1億円であり、純損失4.4億円になっている。収益には18年度年度決算と同じく「繰り出し金」が含まれている筈だ。市側は当初予算を常勤医16名体制で考えていたから、損失規模を5億円と予想したのだろうか。上記の中標津での道政懇話会の発言からは6億円の赤字補填を考えていたようであるので、その数字を使おう。假りに半期分3億円とすると9.2億円しか売上がなかったことになる。少ない。18年度の病院事業売上は24億円ほどあったはずだから半期12億円、減少幅が大きすぎるようにもみえる。いや、常勤医が前年対比で70%程度とすると妥当な減少幅といえる。

 昨年よりも常勤医師数が減少しているので、年間売り上げを17億円とすると15~17億円規模の純損失が生じる17億円の売上を稼ぐのに32~34億円の費用を使っている実態を表さない妙な「企業会計」をやっているから、具体的な手がまったく打たれていない。 民間企業で売上が半減したら増資などできない。すぐに倒産である

【対策不在?当事者不在?】
 大腸菌O-157で貝割れ大根が風評被害を受けたことがあった。売上が半減して大打撃を被った生産者が事業を縮小して生き延びたことがテレビで報道されていた。
 売上げ減少に見合った費用削減策が執られるのが当たり前のやり方である。組合レベルでも、市役所レベルでも、市議会レベルでも、売上げ減少に見合う具体策が検討された形跡がない。この町には、まるで当事者が居ないかのようである。
 
【次世代への付回し】
 このままでは子供たちに大きなツケを残すことになる。10年後には老人人口が30%を超える。市立根室病院の赤字問題を放置することは、わが町根室を2年以内に赤字再建団体に転落させることになり、地域医療の崩壊を招く。市立根室病院が診療所になったときのこと、根室市が赤字再建団体の指定を受けたときのことをありありと想像して欲しい。郷土の大人の責任は重大である。

 【根室高校商業科及び事務情報科の2年生や3年生に告ぐ】
 根室市の広報を教材として具体的に検討せよ。君たちの将来がかかっている。ここに書いたように大人はなす術もなく、状況に流されるままだ。若い君たちに期待するしかない。
 大人の一人として大変申し訳なく思う。そして君たちが担う30年後の根室に期待する。わたしは、わたしが自分の目で見、自分の耳で聞き、自分の頭で咀嚼した事実を発信するのみである。

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*#2297 地域医療対話(5): 旧弊の再生産とは?
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-05-14

 #2296 地域医療対話(4): 経営の問題点がよくわかる一覧表
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-05-12-3

 #2295 地域医療対話(3):非常勤医が増える仕組み
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-05-12-2

  #2291 地域医療対話(2) 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-05-10-1

  #2290 地域医療対話(1)
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-05-10

  #2287 「いまいる常勤医を大切にせよ」:市立根室病院の経営改善
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-05-07-2

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*#2286 市立根室病院『改革プラン(改訂版)』と実績対比
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-05-07-1

  #2285 市立根室病院『改革プラン(当初計画)』と実績対比
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 #37市立病院はほんとうに黒字か?…(2)
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 #33わが町の医療の現状と展望(1)
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