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歴史学者志望の中学生A君へ [57. 塾長の教育論]

 2,007年12月18日   ebisu-blog#027
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【夢は自分の手で掴みとるもの】
 もう15ヶ月の付き合いですね。ようやく本音が聞けました。歴史が好きだったのですか。それも戦国時代ですか、信長⇒秀吉⇒家康とたしかに変化が大きくて面白い時代ですね。今回また400点を回復して、少し自信がついたからでしょうか、学者を目指そうという気持ちが芽生えたのかもしれません。なりたいものはその時々の自分の力に合わせて変化して構わない。自分が成長することで目標が変わってくるのは当然のことです。だから、A君も当面の目標でしょう。そこへ向かう中でまた別のものへの可能性が開けるかもしれません。いまは立てた目標に向かってまっしぐらに努力することが肝要です。別の未来があるとしたら、現在の目標に向かって努力した果てにみつかるはずです。


 A君に歴史に関する本をいくつか紹介します。

     『日本史の一級資料』山本博文著、光文社新書
 『読書力』(斉藤孝、岩波新書)や『国家の品格』(藤原正彦著、新潮新書)の塾の音読授業でやってきた中2のA君にはこれ位のレベルの本はもう独力で読めます
 この本で歴史学者はどのような作業をしているのかがわかります。著者は東大史料編纂所教授です。徳川幕府の史料室から文書を引き継いでいますので、ここに日本の古文書が一番集まっています。研究環境としては、この東大史料編纂室の史料を利用できると便利であろうと思います。
 ユニークな史料は各地に分散しています。研究者にとっては資料が命です。だれももっていない資料を手に入れることができたら、それだけで本が書けます。この本の著者が訪れた資料所蔵機関を日本地図上に記入した図が最後のほうに載っています。北海道は白紙です。つまりどこも訪れていない。アイヌ研究には興味がないということでしょう。釧路には晴信(武田信玄)の花押のある文書が残っていますが、その文書に「山本菅助」?「官」の字だったかな、の名前があります。その文書が山本勘助の実在説の有力な根拠となっています。貴重な資料です。

     『信長公記』大田牛一著
 信長配下の武将によって書かれた一級資料です。戦国時代をテーマにして書かれた小説の大半がこの資料をベースにしているでしょう。一度読んでみたらいかがでしょう。いろいろな出版社から出ています。好きなものを選んでください。

     『逆説の日本史1~14』井沢元彦著、小学館
 今年7月に14巻目がでました。古来から続く、言霊信仰や怨霊信仰をベースに、通説に切り込む独自の史観を徹底した『通史』です。今までこのような本はありませんでした。一人の著者が『日本史の通史』を書き続けるというだけでも、エネルギーの大きさがわかります。何より大切なのは独自の史観をもっていることです。この著者から学ぶ一番大きな要素が独自の史観をもてということでしょう。第一巻が1993年に出版されていますので、ほぼ年に1冊のペースで井沢氏は書いています。この通史シリーズはとても面白いので、出る度に読んでいます。歴史小説はそこそこありますが、史実がどうなのかと言うことも気になるので、ほどほど置いてあります。

    『驕れる白人と戦うための日本近代史』松原久子著 文芸春秋社
 独自の史観ということでは一昨年読んだこの本が「目から鱗が落ちる」ような1冊です。国際化の時代ですから、英語の勉強と並行してこういう本を読み、しっかりした国際人に育って欲しいと思います。中高生に是非読んで欲しい本です。
 英語が好きでウェイクフィールド英語数学教室で勉強している人たちも、こういう本や中3の音読授業で使っている『風姿花伝』(世阿弥著、林望解説)のような本を読んで、真の国際人に育ってください。

    『ほつまつたゑ』鏑國男編著、渓声社
 三輪神社の末社から発見されたまぼろしの古文書です。漢字が伝わる以前の文書です。漢文と対訳で載っています。文字そのものも不思議な神代文字です。コンピュータ時代に新しい表音文字を作るとしたら、こういう文字になるのではないだろうかと思えるほどシンプルで合理的なアイデアで作られています。聖徳太子が物部氏を殺害したときに古来から物部氏に伝わった古文書をことごとく焚書しました。秦の始皇帝のような所業です。アレキサンドリアの図書館を焼いて焚書をしたローマ軍の所業と同じです。
 聖徳太子の焚書によって、日本は漢字が伝わる以前には文字を持たなかった国とされてしまいました。三輪神社系の末社から発見されたこの文書は、何度も写本されたようで、江戸時代に漢訳がつけられています。それで大部分は意味がわかります。偽書説もありますが、1万行の五七調の詩を創作可能かどうかを考えてみればいいと思います。この本は1万行の五七調の詩で構成されています。短歌の枕詞は意味不明のものが多いのですが、『ほつまつたゑ』には全部ではありませんが枕詞の意味が載っています。
 この文書から万葉集よりも遥かに古い時代から五七調が日本の伝統的なリズムであったことがわかります。いりはにおへど・・・で有名な「いろはにほへと」よりも古い時代に「ひふみよいむなやこともちろ・・・」と農業の豊穣を祝った歌がこの『ほつまつたゑ』に載っています。万葉集よりも古い時代の日本語を伝える実に貴重な文書であるといえます。平成6年に東京新宿の紀伊国屋書店(旧)で見つけたときには小躍りしました。上下巻で9600円の本でしたが、そぐその場で購入しました。こういう本はあまり売れないので絶版になる恐れが大きいのです。見つけたときに買わないと永久に買えないことになりかねません。一度、日本橋のどこかの百貨店で古文書展をやっていた折に、良寛の書を写真製版した大判の本を見つけましたが、そのときはどこかへ行く途中であったので、重そうで荷物になるので買いそびれました。以来、その書を目にすることができません。買っとけばよかったといまだに後悔が残ります。良寛の書は心を癒します。
 日本の伝統文化を研究する上で、漢字が伝わる以前の史料は貴重です。完全な形で残っているのはこの本だけでしょう。そして1万行の五七調の詩は内容が膨大です。もっとこの本に係る研究書が出版されても好いのではないでしょうか。すくなくとも、高校の国語の教科書では採り上げるべきでしょう。中学校でも「ひふみよいむなやこともちろ・・・」くらいは採り上げて好いでしょう。日本の数は古来ひふみよ・・・と呼ばれていました。いまでもひとつ、ふたつ、みっつの替わりにひ、ぶ、みと数えるお年寄りがいるでしょう。こちらのほうが数の数え方としては古い。百を表す「も」は「百草」などの読み方に残っています。東京日野市の地名です。六花亭の「ももとせ」というお菓子はどうだったでしょう。「百歳」と書くのかな。「ち」は「千鳥」や氏名の「千島」、苗字の「千木良」などに残っています。じつは私の将棋友達の苗字です。

【日本の伝統的な葬儀について】
 少し脱線させてください。大事なお友達を紹介します。一言で言うと、世渡りのあまり上手ではない一本気な男です。いい奴です。へぼ将棋仲間の千木良は群馬県の川場村の大地主の末裔です。農地改革で地所の大半を「解放」しました。葬式の日は近所の人がたくさん集まって、外で大きな鍋をセットし、料理を作って振舞っていました。料理は男の人がやることになっていたのではなかったかと記憶しています。女性は材料を用意していました。思い出しました。切るところまでは女性がやり、火を使うところからは男性の分担でした。庭を少し掘って臨時のかまどを作ります。火の係りのほうが力仕事なんですね。もう二十数年ほども前にお母さんの葬儀に参列したときのことですから記憶があまり定かではありません。喪主を先頭に幟を立てて親戚縁者が行列して墓まで歩いていくのを見送りました。昔自分の地所であったところの外れにお墓がありました。歩いて15分くらいのところだと聞いたような気がします。日本古来の様式の葬式を見ることができました。強烈な印象として今も脳裏に浮かびます。映画『八つ墓村』の葬儀の場面を思い出しました。ほとんど映画と一緒でした。実物を自分の目で見る、できるだけ実体験することが大事なことかもしれません。あんな葬式は北海道ではないでしょう。少なくとも根室ではない。貴重な体験をさせてもらいました。

【大学教授になるための準備】
 --大学院進学と英字新聞を使う時事英語授業--
 話しが少し脱線して申し訳ありません。本の紹介はこれくらいにして、歴史学者や大学教授になるには大学院への進学も考慮に入れて勉強しておいたほうが好いでしょう。習字をやって草書体に慣れておくことも古文書を読み解くのに後で大いに役に立ちます。
 史学研究科あるいは文学研究科、中世経済史なら経済学研究科ですね。ほとんどの研究科の入試に英語が課せられています。就職まで考えるなら東大か京都大学ですね。早稲田はやめたほうが好いでしょう。学部と違って大学院入試は比較的簡単ですが、人数が多すぎます。オーバードクターの最も多い大学院かもしれません。まあ、30年ほど前の話ですから、現在は様子が変わっているかもしれません。
 ニムオロ塾の時事英語授業はじつは大学院入試レベルにも対応しています。テキストが英字新聞ですから、大学入試レベルを超えているのです。ネィティブの中2レベルの文章が大学入試レベルです。だからこのようなレベルで満点取れても大人の文章はちっとも読めるようにはなっていません。修辞法のレベルが違います。だから、時事英語をしっかりやれば、英語で書かれた専門書が読めるレベルに到達します。日本の学習塾でこのような授業をやっているところはニムオロ塾だけかもしれませんよ。がんばって英語も勉強してください。

 【根室の考古学博士】
 ところで根室には考古学者がお一人います。市井の学者で学位を持っておられる方はなかなかいらっしゃらない。60歳の頃、博士論文をまとめ、学位を授与されています会社の経営と研究を両立させた稀な人物です。釧路だってこのような人物は一人もいないでしょう。根室印刷社長の北構さんです。きりっとしたところが好きで親父に北構さんに仲人を頼んでもらえまいかと相談したことがあります。35年も前のことですが、快く引き受けていただいて以来、今日に至ります。年に数度お会いしてお話しする機会があるので、こんな事を書いたら叱られそうです。でも、そのあと「ハハハ」と笑い飛ばされるに違いありません。中学生にこういう根室人がいるということを知ってもらいたいから載せます。地元に残っていても、志さえ折れなければ両立可能だと、そして研究と経営を両立させた尊敬に値する先輩がいることを若い人たちに知ってもらいたい
 こういう人が商工会議所の会頭に一度もなっていないのが根室の不思議なところかもしれません。不思議なところというよりも不幸なところといったほうが好いのかもしれません。30年以上も前に市長選挙に立たれたことがあったように記憶しています。隊員は家族にすらこの部隊の所属であることを知らせることを許されなかった「高千穂降下部隊(落下傘部隊)」の数少ない生き残りで、戦友のほとんどが生きて帰らなかった事情から、自衛隊からの誘いや政治にはとんと興味をみせなかった親父でした。少年兵にゼロ戦の操縦を教え、特攻隊として送り出した哲学者市倉宏祐先生(元倫理学会長)がかたくなに地位と名誉を手にしようとしなかったのと軌を一にしています。そのような親父が、なぜか北構さんが市会議員や市長に立候補したときにだけ肩入れしていた記憶があります。よほど馬が合ったのでしょう。ですが、それ以来、先生は政治の世界とは距離をおいていらっしゃるようです。お考えのあってのことで、何度かご自分の心中を吐露され、その原因を聞いております。郷土根室に対する想いに係ることです。先生と私は思いは共通していますが、その先は違っています。それぞれの人生観や経験の相違が現在の行動に反映しています。それぞれお互いに相手の考えと行動を是としています。世代を超えた交流があることを幸せに感じています。先生はいつも回りに聞こえる大きな声で語っているから何の秘密でもないのですが、この件を書く場合には先生の事前承諾が必要と私のほうが勝手に考えています。ですので、書きません。黙って書いたら私の人格が疑われます。書くべきことと、書いてはいけないことはしっかり区別しながら、このブログには言葉を選んで書くべきことだけを書くようにしたいと思います。
 このように、日本最東端の小さな市にも少なからず人材はいるのですが、どういうわけかそれらの人びとは政策を決定しうる立場にはない。政治から距離を置いてしまう傾向があるようです。根室の町のために残念なことと思います。先生はもう米寿を過ぎていらっしゃるかもしれません。気さくですが、相変わらず「物事の本質を突いた辛口」は衰えを知りません。
 東京から5年前に戻ってきたときにご挨拶しにいったら、「出て行く人はいても、戻ってくる人はほとんどいませんね」と一言、そしてニコニコ微笑んでいらっしゃいました。ほんとうは、大丈夫かな?と心配してくれているんです。どういうわけか私はいつの頃からか、北構さんを「先生」と呼んでいます。親父よりも4歳年上の人生の大先輩ということではなくて、お人柄に自然に頭が下がるんです。いつ頃からか先生と呼ぶようになっていました。気さくなお人柄で、尊敬する根室人の一人です。半年ほどお目にかかっていません。明日用事があるので、お目にかかれるかな、楽しみです。
 この年代の人は他にも優秀な方がお二人いました。ご両人ともぜんぜん性格は違いますが、人情味溢れる典型的根室人ということでは共通しています。一人は北国賛歌の作詞者である歯科医の田塚源太郎先生、もう一人は根室新聞に時代小説を書いておられた歯科医福井先生(今歯科医でいらっしゃるのは息子さんで三代目です。先代の福井先生は年齢が少し下です)。このお二人は残念ながら故人です。楽しい思い出がたくさんあります。お二人の笑顔が脳裏に浮かびます。これらお三方に共通するのは、「郷土に根っこを生やしたインテリ」であるとともに、肩書きや地位で他人を判断しない人であることです。人柄のおおらかさや器の大きさがこの一点からも理解できるでしょう。ちなみに北構先生と田塚先生は戦前の根室商業の同級生のようです。大柄な田塚先生には学生時代に型破りな人柄の片鱗をみせるかのようなエピソードがあります。


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